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【INTERVIEW】HPのE-ServicesとIBMのe-businessは世代の異なる概念だ--HPのJacobson氏に聞く

1999年09月30日 00時00分更新

文● 編集部 寺林暖

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米ヒューレットパッカード社は今年春、次世代における電子商取引の枠組み“E-Services”を発表した。同社によれば、これまでのインターネットには多くの企業/人が接続してはいるが、それぞれのサイトは独立しており、実質的な情報交換はなされていなかったという。例えば、旅行の手続きをオンライン上で行なったとしても、飛行機が遅れるといったトラブルが生じたときは、別々の旅行関係サイトに連絡をするなど、自分自身で調整をとらなければならなかった。

しかしE-Servicesでは、個々のサービスをモジュール化し、オープンサービスのインターフェースを基盤として各サイトを結合する。サイト間で、利用状況に合わせたシステムレベルでの情報交換が可能になるという。例えば、飛行機が遅れるようなトラブルが生じた場合、オンライン上の旅行代理店が、利用する宿泊先/交通機関など、旅程の内容を調整するといった芸当も可能になると主張する。

“ネット上のあらゆるサービスがシームレスに統合され、あなたのやりたいことを助けてくれる”というE-Services--。主張はもっともだが、今ひとつ具体的な姿が見えてこないのも事実である。E-Servicesとは具体的にどのような技術を用いたサービスなのか、そしてIBMの“E-Business”との違いはどこにあるのか。米ヒューレットパッカード社のアジアパシフィック・ディレクターであるBob Jacobson(ボブ・ジェイコブソン)氏にお話を伺った。

米ヒューレットパッカード社のアジアパシフィック・ディレクターであるジェイコブソン氏
米ヒューレットパッカード社のアジアパシフィック・ディレクターであるジェイコブソン氏



E-Servicesではモジュール化と企業間連携を重視

--まず、IBMの言う“e-business”との違いについてお聞きしたいのですが。

「IBMのいうe-businessは、“当社のハードウェア/ソフトウェアのパッケージを導入すれば、すべてが解決しますよ”というもの。しかしE-Servicesは“モジュール化”を非常に重要視しており、各業界で最適なサービスを組み合わせることを念頭に置いている。たとえば、私がシャツの工場長としよう。シャツの作り方は知ってはいるが、請求書の発注など現金の取扱については素人だ。しかしE-Servicesの世界では、請求書発送の業務は金融に特化したサービス機関へ任せることが可能で、自分はシャツを作ることだけに専念できる」

--それを聞いただけだと、IBMがシステムインテグレーションを行なうのとあまり変わらないと思うのですが。

「e-businessはEコマースどまりのシステムを売りつけるだけ。E-Servicesはテクノロジーではなく、総合的なサービスだ」

「現在はすべての企業が自分のウェブサイトを持ち、同じような製品を取り扱っている。ビジネスに成功するか否かは、優れたパートナーと、効率的に役割分担を行なえるかどうかにかかっている。E-Servicesではブローカーが存在し、一般顧客の希望に合う業者を組み合わせて、サービスを提供する。たとえば、海外旅行で飛行機が遅れるというトラブルが生じた場合、自分でレストラン、ホテルやレンタカーショップに時間変更や予約変更を伝えねばならない。しかし、E-Services上では、トラブルを伝えれば、旅行代理店などのブローカーが宿泊/交通すべての変更を、私の好みに合わせて変更してくれる」

E-Speakのコアは1MBのプログラム

--E-Services自体の具体的な仕組みについて説明して下さい。

「E-Servicesでは、各サービスプロバイダーのビジネス属性はブローカーに登録される。各属性のやり取りは、E-Speakテクノロジーによって行なわれる」

「E-SpeakテクノロジーはJava言語による約1MBのプログラムであり、そのコアは“パーミッション(Permission)”、“ネーミング(Naming)”、“モニタリング(Monitering)”、“リポジトリー(Repository)”という4つで構成されている。コアはオープンソースとなっており、当社のウェブサイトからダウンロードすることが可能だ」

「ネーミングにはあらかじめメタデータという形でさまざまなビジネス言語が登録されている。外部からイベントを受け取ると、モニタリングが作動し、リポジトリー経由で登録済みのネーミングやパーミッションを参照する。その中から適切なビジネス言語をイベントに割り当て、新たなイベントとして送り出す、という仕組みをとっている」

「E-Speaksは郵便局のようなもの。封筒の外側に書かれてある住所を参照し、しかるべき場所に送り出す。封筒の中身はチェックせず、受け手にどのように処理されているかも詮索しない」

「我々はこのE-Speakテクノロジーによるプロジェクトを早く立ち上げ、それが収益につながることを立証しなければならない。立証することで他の会社もE-Servicesの採用に乗り出すだろう。ビジネス言語というものは、“お金を儲けたい”というビジネス的なアプローチから成立するものだ。この方が、標準化団体を作って足並みを無理やり揃えるよりは効率的だ」

ビジネスフローの定義はしない

--E-Business自体はどんな言語を利用しているのですか。XMLみたいなものですか。

「E-SpeakはXMLもビジネス言語の一種として使用できる。(マイクロソフト社の電子商取引用アーキテクチャーである)BizTalkはサプライチェーンに特化したXMLであり、E-Speakと連携をとることが可能だ」

--E-Speak自体はビジネス言語の定義にどんな言語を使用しているのですか。

「直接的に作用するビジネス言語(データの意味の定義手段)は存在しない。E-Speakはサービス間でメッセージをやり取りするだけだ。各企業では、すでに独自のビジネス言語が成立しており、ブローカーに利用されている。例えば、垂直的なワークフローが成立している航空会社の予約システムは、日時/出発空港/到着空港/座席の種類といったビジネス言語が既に定義されている」

「E-Servicesではビジネス言語ではなく、属性のデータベースが存在する。属性自体は、トランザクションに何の影響も与えない。ブローカーは、属性の内容を理解する必要はなく、各サービスプロバイダーがユーザーにどんな属性を与えることが可能かを理解してればよい。ブローカーの仕事は、ユーザーの要求に応えるサービスを提供することだ」

日本でも晩秋には応用例を発表か

--E-Servicesの実例はありますか。もしあれば、最も成功した例について教えて下さい。

「E-Servicesプロジェクトは2カ月前に始まったばかりであり、まだ具体的な実例はない。プロジェクト自体は進行しており、来年の1~2月に何らかの形で発表できると思う。E-Servicesに対する認識は予想以上に大きく、各企業から次々に契約の申し出が来ている。例えば、E-Serviceに合わせるため、オラクルは『Oracle8i』にE-Speakテクノロジーを導入することを決定した。Yahoo!との提携では、企業向け“My Yahoo!”のシステムにE-Speakテクノロジーを採用することが決まった」

「だが、これら提携先から受け取る手数料はすべて同一金額である点も、e-businessと異なる点だ。E-Servicesでは1つのパイロットに常に4~6つのパートナーを持つ。なぜならそれぞれは異なるサービスを提供することで、サービス間の連携をとるからだ。各パートナー企業は、E-Speakを利用したコミュニケーションが可能だ」

--E-Speakテクノロジーに基づくアプリケーションの発表はいつごろになりますか
--E-Speakテクノロジーに基づくアプリケーションの発表はいつごろになりますか



「E-Speakベースのサービスが一般に提供されるのは、2000年の春以降だろう。現在、いくつかの企業と実験的な提携を結んではいる。しかし提携先は、競合他社に対するアドバンテージを保つために提携内容を隠しているのが現状だ。うまくいけば、日本でも11月に実験的な提携先が発表されるだろう」

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