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【WORLD PC EXPO '99レポート Vol.30】“Palmコンピューティングの戦略と未来”――話題人物も登場! 密度の濃いフォーラム(前編)

1999年09月14日 00時00分更新

文● モバイル・ニュース 山田道夫

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幕張メッセで9月7日より、5日間にわたって行なわれた“WORLD PC EXPO 99”のWORLD PCフォーラムでの“Palmコンピューティングの戦略と未来”。3Com社Palm Computing社長のアラン・ケスラー氏の講演、そして現在、Palm OS搭載機として話題になっているHandspring社のRob Haitani氏(Haitani氏は、Palmのユーザーインターフェースに深く関わったという)による講演など盛りだくさんだった。2時間ではとても時間が足りなかったのが残念といえば残念。思いがけない発表もあり、わずか2時間の講演というのはかなりもったいなかった。本稿はその模様を2回に分けてお伝えする前編である。

会場の人々。とても多くの人々が参加した
会場の人々。とても多くの人々が参加した



3つの強力な力がPlamコンピューティングプラットフォームを動かす

開始時間の11時をやや遅れて始まった講演会は、日経WinPC編集長の川上氏の簡単な挨拶から始まった。3Com Palm Computing社のアラン・ケスラー氏が紹介されると会場からは大きな拍手が湧いた。

アラン・ケスラー氏は、WORLD PC EXPOへのパートナー、サポーターの参加を感謝するとともに、Palmにとって世界市場においても、日本市場においても重要なパートナーからの講演があることをまず伝えた。また、なぜPlamコンピューティングプラットフォームが世界中で成功できたのか? を分析、“Plamコンピューティングのビジョンを語ること”がテーマである、と語った。

「いくつかの交わる力があって、世界を動かしている。3つの強力な力が存在する。最初は、もちろんインターネットについてだ。非常に強力な力だ。世界中がこんなに早く接続されたことがあっただろうか? 2億人以上の人々が使用しているが、そういった状況になったのはここ3、4年のことだ。

2番目は“ワイヤレスコミュニケーション”という新しい力だ。今後のブレークスルーにおける重要な力である。安価なハンドヘルド技術によってPalm Computingという企業はプラットフォームを作り、通信という分野によって新しい攻勢をかけようとしている。しかし、まだワイヤレス通信を見ていくと初期段階だということがわかる。現在、1億個の携帯コミュニケーションツールがあるが、これらは今後何百倍にもなっていくだろう。我々のビジョンにおいては、より多くのハンドヘルドソリューションが、パソコンのそれよりも多くなると予測している。

3つ目の力としては、我々が“Palmコミュニティー”と呼んでいる力の成長がある。パーソナルと企業だけではなく、コミュニティーの中で接続したいという欲求がある場合もある。趣味や運動関係、仕事関係、家庭、友人たちともコミュニティーを作れる。ハンドヘルドコンピューティング、Palmコンピューティングが重要なコミュニティーを形作っていく」――。

3つの力の存在があり、そしてコミュニティーという意識が作られてきた。Palm Computingが提供するのは、あくまでもパーソナルなものだ。

3Com Palm Computing社長のアラン・ケスラー氏
3Com Palm Computing社長のアラン・ケスラー氏


ハンドヘルドソリューションとノートパソコンとの違いは?

ケスラー氏の講演が続く。

「コンピューター技術はめざましく進化してきた。最初はメインフレームとデータベースを使ってやりとりしていた。それに加えて、新たにパーソナルコンピューターが登場してきた。これにより、クライアントサーバー型という新しいコンピューティングのチャンスが生じるようになった。今後はハンドヘルドコンピューターによってオープンプラットフォームが実践され、シンクライアントソフトがハンドヘルドで実行されるようになる。

これまでは、何千万ドルもハンドヘルド製品のカテゴリーに投入されてきたが、なかなか成功することがなかった。我々が成功したのは、“Palmプラットフォーム”というのがパソコンではないことを理解しているからだ。私もパソコンが好きだ。しかし、出張中や、娘や息子に使わせるのであれば、Palmを選択する。

パソコンにはたくさんの機能があるが、気に入らない機能はPalmにはない。パソコンを小さくしてPalmを創ったわけではない。ニーズにあったソリューションを構築したものがPalmなのだ。より大事なことは取り入れなかった機能だ。何を取り込まなかったかがユニークなのだ。さまざまなメールをユーザーからいただく。Palmのソリューションを毎日使っていただいている。シンプル性、信頼性、携帯性などがこれらを可能にしている。

パソコンとPalmデバイスの重要な違いの1つは、パソコンを使用するのは1日数回だけだということだ。Palmはもっとしばしば長く使う。システムをブートするのに、パソコンは長い時間がかかる。Palmでは何度でも使う機会があるが、使用時間はパソコンよりもずっと短い。何度も使う気になるのは、ブートの待ち時間がないからだ。これがPalmデバイス成功の鍵の1つになっている。

Palmでは、シンプル性、信頼性、携帯性を重視しながら、ユーザーが望む正しい機能だけを取り込んでいる。また、設計哲学を初期のころから継続している。ユーザーはどんなOSを使っているかは知らないし興味がない。ユーザーにとってはどんなOSかは問題ではない。ユーザーはどこへでもPalmを持っていくことができる。
パソコンの世界だとよりクロック周波数が大きいほど性能の良いパソコンということになっている。我々はそういった考え方をしない。Palmのやり方は大きく異なっていて、我々はMHzを高くしたくない。バッテリ寿命が短くなるような機能の向上はやりたくはない。ユーザーの体感こそが重要なのであり、ユーザーがどれだけ速くアプリケーションソフトを使えるようになるかが問題なのだ」――。

まだある、ノートパソコンとの大きな違い

ケスラー氏はさらにこう述べた。

「この情報端末の世界においては、事実さまざまなソリューションが提供されている。ポケベルは小型、軽量であるなど優れているが、機能に制約がある。サブノートなどのパソコンは、すばらしいソリューションだが、シャツのポケットに入れるわけにはいかない。Plamのプラットフォームは非常な成功を収めているのは、携帯性と機能をうまくバランスすることができたからだ。

また、パートナー企業からさまざまな製品が提供されている。Plam III、Palm V、Palm VIIはさまざまな価格帯をもって、さまざなま市場の分野ごとに製品を提供している。現在は、北米だけだが、ニューヨークでPalm VIIの販売を行なっている。今後は、日本でも提供していきたい。非常に単純なウェブクリッピング技術を投入している。ユーザーが重要なタスクを数秒以内で実行できるというものだ。Palmでは、今後も市場を牽引し他社に先駆けた製品を提供していきたい。

Palmデバイスは400万台になったが、IBM PCが、東芝のラップトップが、そしてMacintoshなどがどれだけの日数がかかって400万台になったかを考えれば、それを3、4年で達成したすばらしさがわかるだろう。IDCによる調査によると、パーソナルコンパニオン市場における占有率は68パーセントである。

日本においては、'97年初に英語版が出荷開始された。日本語化を自主的に行なったのは山田達司さんだ。Palmでの他言語対応はこれが最初だった。'98年、ヨーロッパでNo1になった。そして、'99年に日本で本格展開を開始した。2月に日本語PalmOSプラットフォームを発表し、WorkPadの出荷を開始した。

PalmOSコミュニティーが存在している。企業はPalmエコノミーを形成できるようになった。また、日本でもPalmユーザーグループが各地に誕生し100を超えている。Palm関連の書籍もベストセラーになっている。こういうことを考慮すれば、Palmは日本でも成功しつつあるといえるだろう」――。

日本アイ・ビー・エムが進める“WorkPad”の展開

日本アイ・ビー・エム(株)パーソナルシステム事業部 PS製品事業部長の加賀山進氏は、『WorkPad』はワールドワイドで展開しおり、コンシューマーとコーポレートと両方をサポートしているので、今後どうやっていくか、その方向性を紹介したい、と語った。

日本アイ・ビー・エム、パーソナルシステム事業部PS製品事業部長の加賀山氏
日本アイ・ビー・エム、パーソナルシステム事業部PS製品事業部長の加賀山氏


「2月に“WorkPad”を、5月に“WorkPad C3”を発表して、従来からのPalmファンユーザーにはものすごく受け入れられて好スタートを切った。プロの方は全部わかっているので教える必要はない。アマチュアの方にどう浸透させていくかが課題だと気づいて、フリーウェアやシェアウェアのソフトウェアを45本パックにした“最強化パック”を付属している。ウェブブラウザーや、シェアウェアのメーラーなども入っている。初心者の方向けにシェアウェアの支払い方法も紹介した。WorkPad文化浸透の第2弾のツールと位置づけている。

また、価格の改定を行なった。もう少しプライスポイントを下げる必要があるだろうということで、オープンプライスながら5万円を切る価格改定を決めた。

日本におけるWorkPadは、ちょうど、DOS/Vを9年前に始めようとした経験を忠実になぞっている。その成功例、失敗例を踏まえてWorkPadを成功させたいと考えている。Palmの文化をぜひ日本で成功させたい。そのためにはコンシューマー分野でできるだけ多くの方に使っていただく必要がある。それを企業向けの文化にもっていく。コンシューマーは大変大事な層であり、IBMが本気になってこのコンシューマー分野に取り組んでいるという、熱気というか本気を感じていただきたい。

DOS/Vはオープンな文化であり、Palmもオープンな文化だ。最初はニッチなものからはじまり、さまざまなパートナー各社が参入してきてこの文化は推進する。実際、WorkPad用のオープンスロット対応8MBメモリカードがアイ・オー・データ機器やメルコから販売開始されている。これまでもWorkPadを改造してメモリーを増やすことは可能だったが、改造ではなく可能になって、とてもうれしいことだ。オープンスロットは、Palm IIIxに対応したワールドワイドな規格なので、ローコストなものを日本にも輸入することができる。

また、WorkPadでは、無線でプリンターにデータを飛ばすことができる。プリントのニーズは少し企業向きだが、ケーブルをつなげるのは嫌というソリューションにこたえ、カシオ計算機やアイコンが可能にした。また、予想外だったのが“キーパッド”だ。グラフティの入力にシールを貼るという発想が新鮮だ。電気は必要とせずグラフィティへその圧力で入力できる。IBMではとてもこういった発想はできない。オープンにすると、こういった優れた周辺機器が出てくる。こういったものの発想が広がっていくと企業向けでも、もっとシンプルな製品ができる」――。

すべきことはIBMがやる。可能な限り参入ベンダーをサポートし、Palm文化を伝えたい

加賀山氏は、さらにこう話をつなげた。

「有料でビジネスをやっていくのもおいしい分野になりつつある。鉄道路線選択ソフトの“トラベルナビゲータ”も人気のあるパッケージだが、ノートパソコンの場合は、瞬時には使えない。WorkPadで使えば、ボタン1つでどういったルートが良いかがわかる。Palmのような瞬時に立ち上がるデバイスに向いたソフトウェアはたくさんある。ワールドワイドなソフトもあるし、日本独自のソフトもある。こういったものが全部一体になってPalmの文化を創っていくのに貢献していきたい」

IBMの最強化パック。WorkPad文化浸透の第2弾のツールと位置づけている
IBMの最強化パック。WorkPad文化浸透の第2弾のツールと位置づけている


加賀山氏は次のように話を締めくくった。

「通信に関してはインフラになるので、PHSのモジュールを内蔵しようと考えている。画期的なものになると思っている。IBMがやった方がいいと考えられるもの、幹の部分はIBMが製品化していく。アーキテクチャーを変えるということではなく、シリアルとIrDAの切り替えなどは、Palm Computingと共同でやる必要がある。明確にニッチではやりにくいところをIBMはやろうかなと思っている。幹の部分以外は、パソコンのDOS/Vと同じで、我々の周りにいるパートナーにやっていただきたい。

コーポレート、企業向けについて言えば、IBMの得意なジャンルだ。IBMはEビジネスを提唱しており、その一環としてやっていく。たとえば、WorkPadとPHSを使って、配送、エレベーターの修理、ビルのメンテナンスなど、あらゆる管理、本部からの指示など、このあたりのニーズに応えていきたい。また、ルートセールスや医薬品の販売なども向いているだろう。ユーザーは、ハイエンドサーバーから、WorkPadまでトータルなソリューションを求める。

おもに企業ユーザー向けだが、Palmのソリューションセンターを青山に創った。Windows NT、Linux、Palmのソリューションセンターを1ヵ所に集約した。IBMがやるべきことはやり、参入してもらうベンダーには可能な限りサポートしながら、Palm文化を伝えていきたい」――。

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