今回、米国でインターネットを舞台にソフトウェアやハードウェア、サービスなどの事業を展開するいくつかの企業の話を聞く機会を得た。それらの多くは、日本ではその名を知られていない若い企業だが、彼らがアマゾンコムのように有名になる日も近いかもしれない。
若い企業といっておいて恐縮だが、最初はサン・マイクロシステムズ社である(これから続くレポート中で、おそらく読者の多くが知っているのはこのサン・マイクロシステムズだけだろう)。サン本社のあるカリフォルニア州パロアルト近郊の、メンロパークにある“キャンパス”と呼ばれるビルを訪ねた。
サンの“キャンパス”の外観。建物はほとんど2階建てで、かなりの数が中庭と通路をはさんで立てられており、キャンパスというよりきれいなアパート群といった印象を受けた |
初めにNetwork Service Provider Divisionのジョン・マクファーレン(John
McFarlane)Presidentが、サンの考える企業のネットワーク戦略のあり方について説明した。
Network Service Provider Divisionのジョン・マクファーレンPresident |
マクファーレン氏は、「インターネットの普及が会社のあり方を変える。企業の将来は、インターネットにその企業がどのように取り組むかにかかっている」という。例として、インターネットでの事業展開で売上を伸ばし、企業規模を拡大しているデルコンピュータやゲートウェイを挙げた。また、バーンズ・アンド・ノーブルやアマゾンコムのような、(実際には本を展示しない)低コストなオンライン書店が登場したことにも触れた。
これらの企業、特にオンラインショップは、自分たちでネットワークやホストコンピューターを持つのではなく、ウェブサイトホスティングなどのサービスをアウトソーシングすることで成り立っており、こういったビジネス・トゥ・ビジネスのコマースがますます増加する傾向にあるという。
「米国においては、長距離通信事業者がどんどん参入した結果、通信料金が非常に下がり、限りなくゼロに近づいている。そのため、通信事業者は回線を提供するだけではなく、メールサービスなどさまざまなサービスを付加しており、単なる通信事業者から、ネットワークサービスプロバイダーへと変化している」
一方、ヨーロッパや日本においては、携帯電話から発展したワイヤレス通信インフラが米国よりも進んでおり、ワイヤレス通信サービスが大きな割合を占めるようになると見ているという。
米国でもそれ以外の地域でも、今後の大きな流れとしては、「現在インターネットに接続するために多くのユーザーがパソコンやワークステーションを利用しているが、これが、JavaやJiniテクノロジーを利用したシンクライアント製品に変わっていくだろう」という。
「例えば、携帯電話でも今は小さなスクリーンしかないが、スマートフォンといったようなもっと大きなディスプレーを持った製品が登場する。それらがパソコンと大きく違う点は、HDDなどのストレージを本体に持つのではなく、ネットワーク上にデータを持っているという点だ」
サンの戦略としては、ワイヤード/ワイヤレスを問わず、それらのシステムのバックエンドとなるサーバーを提供する。エンドユーザー製品についてサンが提供することはないが、それらの製品を作るための(JavaやJiniといった)テクノロジーは提供していくと述べた。
Architecture & Technology Computer SystemsのVice President、スティーブン・A・マッケイ博士 |
次に、Architecture & Technology Computer SystemsのVice President、スティーブン・A・マッケイ博士(Steven
A. MacKay, Ph.D)が、ホワイトボードを大きく使いながら、サンの、サーバーを核としたアーキテクチャーについて説明した。
ちょっと見づらいかもしれないが、右から“datacenter.com”、“portals.com”、“webtop.com”という.com戦略の枠組みを示している |
最も上位にあるのが“datacenter.com”で、これはサンのサーバー製品/技術そのものといってよく、スケーラブルなサーバーとストレージから構成されており、メインフレームやWindowsシステムといった異なるシステムであっても、接続可能でかつ拡張した機能を持たせるというもの。これを支える技術として、プロセッサーである『SPARC』、OSである『Solaris』と、クラスタリングシステム『Full
Moon』、ストレージストラクチャー『Jiro(ジャイロ)』を挙げていた。
中間に位置するのが“portals.com”で、企業などでのアプリケーション(今後はサービスになるとみている)の部分になる。ここでは、コンポーネントとプラットフォームの提供に力をおいており、EJB(Enterprise
Java Beans)、J2EE(Java to Enterprise Edition)がそれぞれの基本となる。これらを企業に使ってもらうサポートとして、Sun-Netscape
Allianceや、EJBソフト開発ツールを提供するForte(フォルテ)社、ポータル上でオフィスアプリケーション『StarOffice』を動かす仕組みとなる“StarPortal”などに力を入れているという。
そして最もエンドユーザーに近い部分が“webtop.com”で、さまざまな数え切れないほどのネットワークデバイスを想定している。これらのデバイスがネットワークにいつでもどこでも簡単に接続する“Universal
Access”を実現するためのテクノロジーとして、“Java”、“Jini”などを提供し、製品を出そうとするパートナー企業に協力していくという。
Data Center and High Performane Computing Product Group Computer Systemsのシャヒン・カーンMarketing Director |
最後にData Center and High Performane Computing Product Group Computer SystemsのMarketing
Director、シャヒン・カーン(Shahin Kahn)氏が、エンタープライズサーバーを中心とした、サンのハードウェアについて説明した。
サンのエンタープライズサーバーの最上位機、『Sun Enterprise 10000
Server』は、優れたSMP(Symmetric MultiProcessing)技術により、IBMが24プロセッサー、ヒューレット・パッカードが32プロセッサーまでの製品しか投入できていないのに対して、64プロセッサー動作を可能にしたという。これによって、以前はいわゆるメインフレームが持っていたパフォーマンスに達したとしている。
エンタープライズサーバー製品を開発していく上でのキーワードとして、“Consistency(一貫性)”と“Continuity(連続性)”の2つを挙げた。Consistencyとは、サーバーにおいてそのスケール(CPU数)にかかわらず、同じシステム(OS、ハードウェアアーキテクチャー)で動いていることを指し、Continuityとは新しい製品群においてもそのConsistencyが保たれることをいう。
また、サンが再三述べている、ネットワーク上のサーバーにデータが集約されるというビジョンに対して、ユーザーは本当にそれを安心して許すのだろうかという疑問には、「かつて水道が世の中に登場したときに、『本当にこの水は安心して飲めるだろうか』という疑問を持った人がいたが、それから何年もするうち、それを疑う人はいなくなった」また、「銀行にしても、皆なんの疑いもなく自分のお金を預けているじゃないか」というたとえ話で切り返した。
そのほか、サンのハードウェア製品へのIA-64やLinuxの採用についても聞いてみたが、IA-64については「Never!」、Linuxについても「オペレーティングシステムは、ハイエンドエンタープライズ製品において、その信頼性確保のために、ストレージなどの各種の周辺ハードウェア製品と密接なつながりの元に開発されている。それがサンの持つSolarisのアドバンテージであり、そういった意味でLinuxを採用することはないだろう」と、否定的な考えを明らかにした。
今回の取材では、サンの強みであるサーバーを中心として、インターネットのビジネスを行なう企業(つまり今後はほとんどすべての企業)をサポートしていくという戦略について聞くことができた。このまま社会のインフラとしてのネットワークがもっともっと進んでいけば、“Network
is Computer”というキャッチフレーズが文字通りの意味になるように感じられた。