このページの本文へ

【INTERVIEW】「僕らはユーザーに“better Red Hat”を提供する、目標は昔のコンパック」--レーザーファイブ窪田敏之社長(中編)

1999年09月06日 00時00分更新

文● 文:編集部 桑本美鈴

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

8月24日に米Red Hat Software社とパートナー契約を打ち切った五橋研究所(株)は、レーザーファイブ(株)を設立し、独自ブランドの『LASER5 Linux』を発売する。渦中の人となったレーザーファイブ代表取締役の窪田敏之氏に、Red Hatとの決裂までの経緯や、今後のレーザーファイブの事業展開について伺った。聞き手は日刊アスキー編集部の植山類。

(前編からの続き)

Red Hatに便利な機能を追加していく

植山「Red Hatが今後いい製品ではなくなっていくとなると、LASER5 LinuxがRed Hatベースでいくのも、当面の間だけですか」

窪田「逆にRed Hatがいいものであり続ければ、くっついていくよ。そうでなければ、僕らは離れていくってことだよね」

植山「TurboLinuxなんかは、すでにかなり違うものになってきましたよね」

窪田「Turboはただ違うだけだから。僕が、Turboがいけないな、イヤだなって思うのは、Turboは自分らのブランド名を確立するためにただ変えたのね。Turboが変えたのは顧客のために変えたわけじゃない、それがいけないところなんだよ」

「MandrakeやConectivaがすごく潔いなと思うのは、『僕らはRed Hat99パーセントコンパチです』と、はっきり言ってるのね。なぜかというと、それは顧客のためです、顧客が再評価がめんどくさいから僕らがしてるんですというんだ。だけど、便利な機能が付いていて、これはRed Hatにはないものだとはっきり謳っているわけ」

「Turboみたいにすると、ディストリビューション管理に手間がかかりすぎて、会社自体が危なくなると思う。これからの市場のスピードについていけなくなるよ。ディストリビューションて、甘い商売じゃないんだよね。僕はTurboは今後きついんじゃないかと思う」

「Red Hatから離れていくというよりは、機能を追加していくという感じだね。お客さんはRed Hatコンパチだと思ってるわけだから、違ったんじゃ困っちゃうじゃない。基本的には、コンポーネントでも何でもあんまり変えないよね。だからどんどん足していくわけだよ。僕らが今考えているのはCorel的なもの。ただ、あくまでもそれはRed Hatに足す形を取る」

植山「簡単なインストールを目指して?」

窪田「というか、いちばんはじめにインストール画面出てくるじゃないですか。例えば、その時点でパーソナルコンピューターと選んでCD-ROMを挿入すると、自動認識されて実行するというようなこと。こういうことをやると、伝統的な人は怒っちゃうと思うんだけど、そういうのが好きな人もいるの、実は」

植山「そういう方向に行かないと、これ以上伸びていくのもなかなか難しいですからね」

窪田「そう。コンシューマーに使ってもらうにはね。別にLinuxはLinuxだから、どう使ってもいいんだよね。UNIXじゃないからね」

植山「それは別のディストリビューションにまかしておけばいいだけだから」

窪田「そうそう。ただRed Hatはとりあえずブランドを確立しているから、商売上はRed Hatは必ず抑えておく。僕らはLASER5 Linuxの中に英語版のRed Hatを付けて出すかもしれえない。さらに、Red Hatのサポートも続けていくんだ。サーティフィケーションなんかも、Red Hatとコンパチビリティーがかなりあるわけです。サーティフィケーションはあくまでもサーバー運用のためにあるものですから。そういう意味で、Red Hatはサーバー用ソフト、あるいは技術的なスタンダードとしては非常に優れているわけですよ」

レーザーファイブ代表取締役の窪田敏之氏。日刊アスキーLinuxにて、コラム『窪田 敏之の「Linux 山物語」』を連載中
レーザーファイブ代表取締役の窪田敏之氏。日刊アスキーLinuxにて、コラム『窪田 敏之の「Linux 山物語」』を連載中



目指すは昔のコンパック

窪田「以前、AT機の規格を作ったIBMは、そのATで儲けたわけだけれども、そのときにコンパックも同じように儲けたわけでしょ? 当時コンパックがどうやったかというと、ATなんだけど386が載っている“スーパーAT”だということで儲けたわけだよ」

「僕らも同じようなことでいこうかなと思ってる。つまり、Red Hatなんだけど、さらに便利な機能が付いているということだよね。Red Hatは技術的に非常に優れているし、あるひとつの標準と言える。RPMも持ってて、ひとつのスタイルでまとまっている。そういうひとつの標準を育てたという意味では、すごく意義があると思います」

「僕らは一応会社だから、金が続く限り続ける。個人の場合はね、非常にいいんだけど、興味が続く限り続いていくわけで、興味がなくなったときにいつ投げ出すかわからないという基本的な恐怖感があるんですよ。会社の場合は、興味と金の両方だからね」

「会社の安定のための芯が1本増えるという意味で、Red Hatの価値は、いまだにものすごくあるわけですよ。だから僕らはコンパックになる、ということなんだよね。今のコンパックじゃなくて、昔のコンパックね。昔のコンパックをお手本にしたいと思ってます」

独自の機能を追加した“better Red Hat”を提供したい


窪田「面白いなと思ったのは、Mandrakeの創業者が『僕らはAT互換機をつくる』って言ってたんだよね。僕と同じことを言ってるなって(笑)。この世界にいる人間は、同じようなことを考えているんだなと思った」

「それから、最近Conectivaのエンリケというマネージャーと話をしてるんだ。Conectivaは70人規模の会社で、南米8ヵ国に現在出荷していて、南米における総シェアが95パーセントに達している。そうするとRed Hatは入る隙ないよね。彼らも『僕らは単にRed Hatをポルトガル語化、スペイン語化してるわけじゃない。もちろんそれもやってるけれども、Red Hat自体は変えずに、それに対して独自のスペシャルなフィーチャーを付け加えてるんだ』と言ってる。だからConectivaは自分たちのことを“better Red Hat”と言ってるね。このbetter Red Hatをやろうとしている会社が、世界に何社かあるわけだよ。Conectivaとか僕らとか、それからMandrakeとかね」

植山「それぞれの地域ごとにありますよね」

窪田「あるね。3社を合計するとRed Hatなんか目じゃないくらいの売上になるよね(笑)」

--みんなで仲良くするというのはどうですか(笑)

窪田「そういう手がないとは言えないよね。とりあえず、ゆるい連携は取ろうかっていう考え方があるし、日本にはVineというとても優秀なグループもいるしね」

植山「Vineは完成度高いですよね」

窪田「Vineとは微妙な関係にあって、Vineの代表の羽根さんは、うちの技術顧問なんだよね。技術的にいろいろ示唆を与えてくれるんだ。羽根さんは優れた技術者で、非常に広い視野を持っていて、この世界のことをよくわかってるんだよね。だから、例えばある技術を採用しようかどうしようかと考えたときに、これはスジがいいとか悪いとか、そういう非常に的確なアドバイスをくれるわけです」

「でも羽根さんが関わってるからといって、Vineと同じというわけではないんだよね。VineはVineで独自の方向があって、僕らは僕らで独自の方向がある。まあ、Vineとはケンカはしてないという感じだね。Turboとは競争してる。Turboはbetter Red Hatじゃないから。僕としては、MandrakeやConectiva、Vineなどには親近感を感じるね」

Red Hatの日本法人に対して

--Red Hatが日本法人を設立するようですが

窪田「できるだろうと思うけど、いつできるかわかんないよ。ただ社長は決まったみたいだね」

植山「Linuxとはまったく関係ない人らしいですよね」

窪田「だからRed Hatのサポートは崩れると思うんだよね。多分ハードウェアメーカーも信用しないと思うし。そうなるとRed Hatサポート自体も僕らがやるしかないってことだ」

--Red Hatの日本法人は、製品のサポートはしないんでしょうか?

窪田「するんじゃないの。でも販売会社だから、多分できないでしょう。第一、オープンソースなんて人脈がなけりゃそもそもうまくいかないよ」

「Red Hatは、日本法人にお金を全然出す気がなくて、ともかく1000万円と帽子のマークの使用権をやるから、あとは何とかしろ、というような感じなんだよね。予算だって僕らと数十倍も違うし、全然話にならないよ」

『LASER5 Linux』になって変わったのはロゴとマークだけ

--パッケージを変えないといけなくなりましたね

窪田「もう変えちゃったよ。インストーラーも全部変えちゃった」

植山「Red Hat Linuxからどれくらいの変更を加えたんですか?」

窪田「製品自体の機能にはほとんど加えてない。変わったのは、インストーラーのオープン画面だけ。でもロゴやマークが変わったくらいだね。もともと日本語Red Hatと英語版Red Hatって違うところが結構ある。XTTを使ってるとかね。とりあえず企業ユーザーが困らないように、カーネルや基本コンポーネントは変えてないんだ、実は」

植山「セキュリティーホールをつぶしたぐらいですよね」

窪田「それぐらいだね。パッチを当てただけでおしまいという感じ。ただコンシューマーユーザーなんかで、やっぱり最新のカーネルが使いたいんだという人は結構いると思うのね。それは別に付いてる。Contrib CDに入っていて、RPMで一気に置き換えられるようになっています」

植山「日本独自のソフトはどれくらい入るんでしょう」

窪田「結構多い。XTTとかね。Vineにお願いしてprinttoolsを拡充してるし、日本国内のモニターを付け加えている。秋葉原で売ってるビデオカードも追加してる。あとは日本語入力機能。今回はオリジナルの機能があって、ATOKとWnnとCannaをボタン一発で切り替えられるんですよ。やっとIMEに近づいてきたって感じだね。Wnnも結構使いやすいし、ATOKもいいし、その辺はお客さんに選んでいただければと思います」

「あとは、全体的にコンシューマ向けの機能がちょっと増えてて、KDEとかリファインしてあるよね。もともとオリジナルのRed Hatは、KDEはほどほどだったでしょ。今度僕らはKDEも丁寧にやってて、日本語化も一生懸命やってます。完全にはなってないんですが、かなり日本語化は進んでます」

植山「メニューは日本語化してるんですか?」

窪田「メニューはほとんど日本語化されてると考えていただいていいです。ただヘルプは、量が多すぎるので、使用頻度の高いものだけ日本語化して、蓄積していくって感じだね。まともに全部日本語化すると数千万円もかかっちゃうから。この辺はお互いコントリュビュートしてて、僕らが日本語化したものはTurboでも使えるから、あとは君たちがやってくれ、今度はまた僕らがやるよという感じで、両社でピンポンしている(笑)。KDEユーザー会やGNOMEユーザー会の中にも手伝ってくれる人がいるし、みんなでぐるぐる回しながら資産を増やしていくというのはオープンソースくらいだね」

植山「競合してるけど、同時に協力してるということですね」

(後編に続く)

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン