このページの本文へ

ユビキタス情報化社会とは?--“電子情報技術長期戦略シンポジウム”開催

1999年08月31日 00時00分更新

文● 編集部 寺林暖

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

30日、品川のコクヨホールにて(社)日本電子工業振興協会主催による“電子情報技術長期戦略シンポジウム”が開催された。同協会は平成9年度('97年度)から2年計画で、電子情報基礎技術の長期戦略を策定し、平成10年度('98年度)には“ユビキタス情報社会の実現”を提言している。“ユビキタス情報社会”とは“多様な情報ネットワークの中で、必要とする情報を、時間や場所の制約を超えて、安全にかつ意識せずに活用できる社会”を指している。今回のシンポジウムは第1部と第2部に分かれ、第1部はユビキタス情報化社会を実現させる産業技術戦略についての基調講演、そして第2部では同社会の具体的な姿についてパネルディスカッションが行なわれた。

:ユビキタスとは“至るところにある、遍在する”の意味

基調講演

初めの基調講演では、まず東京大学の先端科学技術研究センターの荒川泰彦教授が「ゲーム/携帯電話/ノートパソコン/GPS/通信カラオケの普及に見られるように、日本には技術/アプリケーションの開発を促進させる“ユーザーニーズの先進性”があり、また技術/アプリケーションの利用シーンを拡大させるような“技術の応用力”がある。“ビジネスの情報化”で先行するアメリカに対し、日本は“個人の情報化”で競争力を確保できるのではないか」と語った。



次に(株)国際電気通信基礎技術研究所の企画部長である東田正信氏が「(ユビキタス時代の)入力方式は、運指検出と空間デジタイズによる“バーチャルキーボード”、音声や視線による“認識入力”が主流になるだろう。出力方式は、紙のように薄いディスプレー“ブックビジョン”や、視線や顔の向きを検出する眼鏡型ディスプレー“グラスビジョン”という形に発展するのではないか」と語り、「3次元やバーチャルリアリティーなどのグラフィック技術、そして音声認識や画像認識などの知的入出力技術の発展により、言葉の壁、国の壁、慣習の壁を越えた豊かなコミュニケーションが実現されるだろう」と語った。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは司会進行を日本電気(株)の研究開発グループ支配人である渡辺久恒氏が務め、パネリストとしてソニー(株)デジタルネットワークソリューションカンパニーのシニアーバイスプレジデントである大塚博正氏、シャープ(株)液晶システムデバイス戦略室技師長の小寺次夫氏、(株)東芝の常務である中塚春夫氏、(株)日立製作所中央研究所の主管研究長である長島重夫氏、東京大学先端科学技術研究センターの安田浩教授の5氏が参加した。



まず中塚氏がユビキタス時代への技術的課題について、「超微細なデバイスの開発技術は発展しているが、それを低コストで量産するための装置や材料は開発されていない。量産化のためには産・官・学による協業が不可欠になるだろう」と語った。

長島氏は、「ユビキタス時代のサーバーはPCからPDA、そして携帯電話まで、あらゆるクライアント端末の要求に答える必要がある。現在のサーバーは1年間あたりの停止時間(システムダウンしてから復旧するまでの時間)が約9時間前後だが、将来的には約30秒程度で済むぐらいの信頼性と安定性を持たねばならないだろう」と語った。

大塚氏は「アメリカではインターネットはすでに10代のインフラとして確立し、彼らの電話/読書/テレビ鑑賞に使われる時間は減少している。しかし、インターネットの利用目的が電子メールやネットサーフィンであることからもわかるように、“コミュニケーションをとる”、“何気なく画面を眺めている”、といった本質的な内容は変わってはいない。日本でも携帯電話のショートメッセージによるやりとりが爆発的に増えたが、日本古来から続く“井戸端会議”の形だけが変わったにすぎない」と語った。

小寺氏はユビキタス時代でもネットワーク上の問題点が存在すると指摘し、「技術的な知識を持つ人は強者になり、技術に疎い人は弱者となってしまう。また、名前やメールアドレスを知らぬ間に使われてしまうなど、“個人”を盗まれてしまうことも少なくない」と語った。

シャープ(株)液晶システムデバイス戦略室技師長の小寺氏
シャープ(株)液晶システムデバイス戦略室技師長の小寺氏



最後に安田氏は「ネットビジネスは2005年にはGNPの40パーセント(約240兆円)占めるまでに成長する、と予測されている。18世紀の産業革命をイギリスがリードしたように、日本はエンターテイメント/家庭電子機器/携帯電話などコンシューマー市場へ注力することで、この第2の産業革命をリードしていかなければならない」と語った。また、「“速く、安く、移動中でも切れない”といったユーザーのニーズを満たす通信環境を実現するために、インターネット関連技術を発展させ、行政/公共/交通/放送/教育におけるインターネット環境を整備することが、当面の課題だろう」と締めくくった。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン