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【田中維佳のマレーシア報告 Vol.4】「マレーシアプライスで、日本と同じサービスを!」--DAアジア宇塚陸夫所長

1999年08月27日 00時00分更新

文● 取材/文:田中維佳

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ディーエー・アジア(DAアジア)は、デザインオートメーション(株)が'96年7月に設立したマレーシア現地法人。東南アジア地区の統括事務所として、CADソフト『CADPAC』を中心とした販売拠点としての役割を担っている。19人いる従業員のうち、日本人は3人だけで、現地に根ざした活動を行なっている。

4月2日にはマレーシア政府からMSCステータス(*)の認定も受け、今後はクアラルンプール市内のテクノロジーパークにオフィスを移転する予定もある。今回はDAアジアの宇塚陸夫所長に、MSCや今後の企業展開についてインタビューした。

*MSCステータスを取得した企業には、マレーシア進出に際して各種の制限が大幅に緩和される。具体的には、出資比率制限の免除、外国人に対する入国やビザ発行の無制限化、法人税の5年間免税などが挙げられる。


--MSCというプロジェクトについてどう思われますか?

「マレーシアが発展していく上での大きな問題点というのは、人材が少ないということです。毎年9つの大学を卒業するのがたった1万人で、これは日本でいうマンモス大学1校の卒業者数よりも少ないことになります。MSC(マルチメディア・スーパー・コリドー)というプロジェクトで、土地開発を進めて経済を活性化をし、2020年に先進国の仲間入りを果たすという政府の思惑も、この人材不足という点で非常に難しいものとなっていました」

DAアジアの宇塚陸夫所長
DAアジアの宇塚陸夫所長



「人材が少なく、マーケットも小さいマレーシアで、継続的に経済を発展させていく……。マレーシアにはマハティール首相が推し進めたMSCという構想しかあり得なかったし、マレーシアという国が進む方向性として、MSCというプロジェクトは間違っていないと考えています。ただ、世界の一流企業をどれだけ誘致できるかというのがポイントになるでしょう」

--DAアジアはすでにMSCステータスを取得されていますが、MSCステータスについてのご意見をお聞かせください

「このような優遇策は、タイをはじめシンガポールやインドでも実施されており、別段珍しいものではないわけです。ましてや自国に技術者がおらず、企業を誘致してエンジニアを育てていくためのプロジェクトであるのなら、マレーシアならではのメリットをもっと強くアピールする必要があると思います」

MSCステータスの認定書、4月8日に来日したマレーシアのラフィーダ通産大臣からデザインオートメーションに授与された
MSCステータスの認定書、4月8日に来日したマレーシアのラフィーダ通産大臣からデザインオートメーションに授与された



「たとえば、優遇策の中には“個人の所得税免除”という項目が欠けています。知識のある優秀な技術者がマレーシアで働けば、それなりの給料を貰うことになるわけですが、いくら法人税が免除といえども、所得税として個人が莫大な税金を収めなくてはならないとなれば、人材は集まりません。この点は私もマレーシア通産省に提案をしており、見直していくという方向にあるという返事をいただいております」

--公式にMSCを推進する組織であるMDC(Multimedia Development Corporation )については、どういう印象をお持ちですか?

MSCに興味を抱いた企業のほぼ全体が感じていることに、MDCの組織がしっかりとした体制を整えられていないということが挙げられます。MDCにはクライアントサービスという部門があり、そこが企業に対する窓口になっているわけですが、部署そのものが“クライアントサービスが何であるか”を理解していないというような現状です」

「たとえば、申請の手続きに関する指示も非常にわかりにくく、指定された6ページにわたる書類を出しただけでは、MSCステータスにふさわしい企業であるかどうかがまったく判断できないような状態です。また、我々は日本企業ですから日本語の申請書とまでは言わなくとも、日本語の解説書くらいは用意してもいいのではないかと考えます。三井物産が日本語パンフレット作成のお手伝いをしようと名乗りをあげ、MDCに働きかけてもいるのですが、未だに完成していません」

DAアジアのオフィスにて、現地スタッフと打ち合わせをする宇塚所長
DAアジアのオフィスにて、現地スタッフと打ち合わせをする宇塚所長



「このような状況で『MSCのステータスを取った企業のうち、6パーセントしか入居していないのはなぜか?』とマレーシア側から問われても、それは当然ではないかとも思えるのです。MDC自体も努力はしていますが、弊社も日系企業としてMDCとの交渉を続けていく予定です」

--MSCステータス取得を受けての、MSCへの移転について教えてください

「MSCステータス取得に際しては、サイバージャヤ、クアラルンプール市内のテクノロジー・パーク・マレーシア、KLCC(ペトロナスツインタワー)という3ヵ所のうちのいずれかに移転する決まりになっており、DAアジアではテクノロジー・パーク・マレーシアへ今年中に移転することを考えています」

クアラルンプール市内にそびえたつペトロナスツインタワー(KLCC)、アジア一ののっぽビルとして知られている クアラルンプール市内にそびえたつペトロナスツインタワー(KLCC)、アジア一ののっぽビルとして知られている



「しかしサイバージャヤとKLCCはともかく、テクノロジー・パーク・マレーシアでは、賃貸料が現地資本の会社では1平方フィートあたり2.45リンギット(約72円)、外国資本の会社では5.5リンギット(約160円)と格差があります(1平方メートルあたりでは約1700円)。この点でも、MSCステータスの中にある“何人であろうとも雇用が自由”という趣旨に反するのではないかと、MDC側に訴えかけているところです」

--DAアジアの戦略と展開、最近の動向などをお聞かせください

「マレーシアにある1500社の日系企業を対象に、CADソフト『CADPAC』、生産管理ソフト『RPiCS』、会計管理システム『PCA WORLD MODEL』、ドキュメント管理システム『DA-VDM』を販売していくのが当社の方針です。我が社のソフトを使っていただくからには、導入してよかったと顧客に喜んでいただけるよう、基礎となるネットワークの構築からハードウェアの導入、ソフトウェアのインストール、サポートを総合的に行なっています」

『CADPAC』、建築・機械設計・配管デザインなどさまざまな用途に向く2D/3D対応のCADソフト
『CADPAC』、建築・機械設計・配管デザインなどさまざまな用途に向く2D/3D対応のCADソフト



「“マレーシアプライスで、日本と同じサービスを!”ということで、サポートを重視しており、問題があれば2時間以内にエンジニアが出向くという仕組みを取っています。現在はジョホールバルに代理店、クアラルンプールとクアンタンにサポートの拠点を置いています。年末にはペナン事務所を開設予定で、今後はマレーシアの各地に事務所を設けていきます」

「MSCのプロジェクトの中に、学校教育にIT技術を取りいれるという“スマートスクール”と呼ばれる計画があり、MSC内のデンキルという場所に2200人の生徒を集め、ボランティアベースの学校が作られました。現在はブリティッシュエアロスペース(BAe)、マイクロソフト、富士通など約10社が参加していますが、DAアジアもそのひとつとなっています」

DAアジアはデンキルの小中学校にCADソフトを各25セット寄付している、これはその寄付に対しマレーシア政府から贈られた記念品
DAアジアはデンキルの小中学校にCADソフトを各25セット寄付している、これはその寄付に対しマレーシア政府から贈られた記念品

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