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【Interactive Education'99 Vol.8】パネルディスカッション――“教育におけるインタラクション支援”

1999年08月26日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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“Interactive Education'99”の2日目、20日午後の最終プログラムとして、今回のイベントや講演を総括するパネルディスカッションが行なわれた。議題は“教育におけるインタラクション支援”。演壇に立ったパネリスト以外に場内の参加者からも質問が飛び交い、活発な意見交換の場となった。

司会進行役はNTTコミュニケーション科学基礎研究所の吉川厚氏が務め、パネリストとして多摩美術大学の石田晴久氏、中京大学の三宅なほみ氏、大東文化大学の苅宿俊文氏、福井県大飯中学校の藤田剛志氏、東京書籍(株)の鈴木武夫氏、松下電器産業(株)の松田俊介氏の7名が登壇した。なお、当日の模様を世界へ向けて発信するインターネット中継もあった。

登壇したパネリスト
登壇したパネリスト



“私を巻き込まないで”という教育現場のおびえを解消したい

ディスカッションに先立ち、まず教育現場の代表としての立場から、福井県大飯中学校の藤田氏と、大東文化大学の苅宿氏から簡単な講演があった。

藤田氏は“先生とコンピューターとの関係性”について、「CAEの残骸がいまだに教師のあいだで残っていて、“コンピューターは大変だ”、“私を巻き込まないで”、という強迫観念がある。“ネットワーク、コンピューターは必要ないもの”と考えている教師が多い」と述べた。実際の現場からの提案としては、「現場の考えが管理職、教育委員会、開発者に伝わるまでに横たわる幾つものハードルをなくし、要求が直接伝えられるような“クライアント・サーバー型の関係”にして欲しい」と訴えた。

次に、大東文化大学の苅宿氏は『学習環境デザイン工房』の試みについて述べた。苅宿氏を中心に、研究スタッフ7名、協力スタッフ20~30名がボランティアに近い形で活動している。学校や聾学校にスタッフが定期的に訪問して、複数対複数の授業を作っていく。このようなことができるようになってきた状況を考えても、教える側の意識が変わってきているのではないか? ――との見解を示した。また、現在活動する上で困っていることは、すべてが完成しているソフトしか市販されておらず、要素を組み合わせてできるようなソフトやツールがないということだと述べた。

講演を行なった福井県大飯中学校の藤田氏と大東文化大学の苅宿氏
講演を行なった福井県大飯中学校の藤田氏と大東文化大学の苅宿氏



現場の人間がソフトを開発できるコンテスト

良いソフトがないということを受けて、多摩美術大学の石田氏は「もともと優れたソフトとは誰かひとりの強烈な個性があって作られるものであり、プロジェクト型の開発には向いていない」と答えた。これは過去の国家型の大プロジェクトがほとんど失敗しているという事実を受けての発言である。

石田氏は、小中高の先生や学生に呼びかけてソフトウェアのコンテストを開催し、超大作というよりも“ほのぼの系の作品”を作ることを提案した。優秀な作品を完成させた人は公務からしばらく離れて、開発メーカーに1、2年間出向してもらう。そして開発センターにおいて、ソフトの無料開放、CD-ROM化、DB化を推進するというものだ。

これに対し、藤田氏は「個人ではなく、システムとして、そういうことができるようになったほうがありがたい。個人で動く場合、その人がいなくなった段階で仕事が止まってしまうという現実もある」と答えた。

中京大学の三宅氏からは「コミュニケーションができることが重要であって、掲示板のようなところに書いたりできればいい。特にいい機材は必要ではない。ネットワークだけではなく、紙メディアも重要である」という意見もあった。

また、電子辞書などの汎用ソフトは開発が難しいのでは? という質問に対し、東京書籍の鈴木氏は「優れたソフトを開発するためには、知識を結集するよりも感性の部分が大きいという事実がある。しかし、そういう手法で作ったソフトが必ずしも汎用性のある良いソフトかというと、そういうわけではない。むしろガイドラインとしての役割が大きい。いまの教科書にしろ、デジタル化されて教材にしろ、いずれにしてもコンテンツが重要になってくる」と述べた。

右から多摩美術大学の石田氏、中京大学の三宅氏、東京書籍の鈴木氏
右から多摩美術大学の石田氏、中京大学の三宅氏、東京書籍の鈴木氏



教師は“ファシリテーター”(推進者)である

教育プロジェクトは、もうコンピューター教育以外でも成り立たないものなのだろうか? この問いに対し、会場にいた慶応大学の鈴木氏から「静岡では20年も前からサッカーを地域ぐるみで育てている」という例が挙がった。

さらに松下電器産業の松田氏は、地域地域でそれぞれのリテラシーを育てていくことが必要であり、“第4世代の教室”を作らなければならないと強調した。

「“話して聞く”のが第1世代の教室。第2世代の教室は“写本”であり、第3世代の教室が“黒板、石板”。第4で“コンピューター”を導入した教室を作ろうとしているが、コミュニケーションがすべての人にできるようにならなければならない。さらに教師=実践者が実際に石につまづきながら、メーカーと共同研究をしていく必要がある。教師は科学者であり、創造者であり、発明者である。ここに参加している人たちも教えを請うばかりではいけない」と、自分たちで切り開いていく気持ちを持つ必要があると説いた。

“自分たちで切り開いていく気持ちがないといけない”という点については、教師は“ファシリテーター”(推進者)であるという考えとも一致する。

この点について、佐伯氏は「“研究者と実践者(教師)の2分法”はよくない。教師はもっと学び手であって欲しいし、先導者であって欲しいと考えている」と述べた。また、「自分だけのものを持たないと、インタラクションはできない。人の考えを先取りするのは怖いことである。自分との対話を含んでいるものがインタラクションである」とも。

佐伯氏と同様に、苅宿氏もインタラクティブ性について「他者とのかかわりだけではなく、自分のなかでの対話が必要だということがわかった」とインタラクティブ性に対する重要な考えを述べた。

大きなテーマだけに、その解決の糸口は見つからなかったが、現場サイド、研究者サイド、メーカーサイドそれぞれの立場から熱のこもった有意義な意見交換がなされた。

東京大学の佐伯氏東京大学の佐伯氏



教育現場と企業のあいだで生まれた接点を継続し、来年へ

最後に、初日の基調講演を行なった東京大学教授の佐伯氏が登壇し、今回のイベントを総括した。

「教育現場や企業だけではなく、行政、地域の活動家、ボランティアにもかかわっていただきたい。今回のイベントでは、教育現場と企業の間で話合いの接点が生まれたので、まず第1目的はかなったと言える。心意気をもった企業が血を流し、真剣に語り合おうとしていることが皆さんにも伝わったと思う。企業が儲け主義ばかりに走るのではなく、真剣に考えているということも心にとめておきたい。そして、この力を組織化し、継続していきたい」と締めくくると、会場は賛同の拍手に包まれた。

今年はじめて開催されたイベントであるが、その滑り出しは、まずまずであったといえるだろう。

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