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「世界に情報を発信できる創造力ある社会に」SASユーザー総会で江崎玲於奈氏が講演

1999年08月23日 00時00分更新

文● 編集部 小林伸也

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(株)SASインスティチュートジャパンが販売するアプリケーションのユーザー総会とユーザーによる研究発表会が23日、都内で始まった。総会では技術者によるソフト活用を報告する論文発表の他、ノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈氏による講演も行なわれた。江崎氏は自らの体験を語りながら、「21世紀の日本は欧米から情報を受け取るだけでなく、積極的に発信していく必要がある」と訴えた。総会は24日まで。

総会は、“日本SASユーザー会”が主催し、今年で18回目。同社が販売する『Base SAS』といったデータ分析ソフトウェアを利用している企業や研究機関の技術者らが、ソフトを活用することで得られた成果を発表し合う場となっている。今回は金融や医療分野など企業のエンジニアによるデータ解析結果についての論文41編が発表された。また各ソフトウェアのデモンストレーションなどイベントも開かれた。

都内で開かれた“日本SASユーザー会総会”
都内で開かれた“日本SASユーザー会総会”



総会では、SASインスティチュートジャパン社長のデビッド・フェンダー氏(David Fender)が「多くの論文が発表され、充実した集まりになった」とあいさつ。続いて講演に訪れた江崎玲於奈氏を紹介した。

江崎氏は現在74歳。量子論におけるトンネル効果を利用した『エサキダイオード』の発明で、半導体工学の基礎を築いたとして'73年にノーベル物理学賞を受賞。近年は筑波大学の学長を務めるなど、日本の科学技術の発展に力を注いでいる。今回は“科学技術世紀の展望”と題して講演を行なった。

「リーダーは自分で考え未来に挑む。対するフォロワーはお手本に忠実で過去に固執する。日本はフォロワー型を抜け切れていない」と語る江崎氏「リーダーは自分で考え未来に挑む。対するフォロワーはお手本に忠実で過去に固執する。日本はフォロワー型を抜け切れていない」と語る江崎氏



江崎氏はまず、「核兵器の存在が脅威を与え続け、自然環境に対する深刻な影響を及ぼすなど、科学にも影の部分はある。しかし医療技術を含め、生活の向上に科学がもたらしたものは多い」とした。
また「今世紀の科学でもっとも重要なものは、物理分野での量子力学と、生命科学における分子生物学や遺伝子工学の発展だ。またコンピューターとそのネットワークの発達も挙げられる」と20世紀の科学を振り返った。

その上で「これまでの自然科学は、量子論や分子生物学のように、物事をミクロに分解していく“還元主義”の方法で物事を理解してきた。今では研究も進み、自然の仕組みについて理解は相当進んでいる。今後は自然のルールを解明するだけの傍観者ではなく、自然のドラマへの参加者として、自然そのものにはまり込んだ視点でものを考えることも必要になってくるだろう」と将来に向けての展望を示した。

また「'58年、『エサキダイオード』についての論文をブリュッセルで発表した時はまだ英語が下手だったから、みんな聞き逃すまいと必死に聴いてくれたのが幸いした」などと当時のエピソードをユーモア混じりに語りながらも、「私はイノベーションこそが未来を作ると信じて研究を続けてきた。日本も自ら道を開き、創造力を生かして未来に挑戦するリーダーとなるべきだ。科学分野における論文では欧米諸国が発表したものが今でも8割を占めているように、これまで日本は情報受信型の社会だった。これからは創造力を養い、世界のリーダーとなる情報発信型の社会に変えていかなければならない」として技術分野のみならず、日本の社会に対しても意識改革を訴え、参加者は熱心に聞き入っていた。

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