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【INTERVIEW】『e-one』のブルーは“ヨコハマブルー”――ソーテックの取締役、中尾俊哉氏にe-oneの魅力を聞く

1999年08月19日 00時00分更新

文● 聞き手、文:千葉英寿/構成:編集部 白神貴司

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(株)ソーテックは、7月20日よりトランスルーセント(半透明)なデザインを採用したディスプレー一体型のWindowsパソコン『e-one』(イーワン)の出荷を開始した。

ディスプレー一体型で、トランスルーセントボディーを採用したe-one。やっぱり、“アレ”に似てる?
ディスプレー一体型で、トランスルーセントボディーを採用したe-one。やっぱり、“アレ”に似てる?



e-oneのブルーのトランスルーセントな外観から連想されるのは、やはりアップルコンピュータ(株)の『iMac』だ。いくつかの共通点が見られるe-oneとiMacだが、e-oneのどこがiMacと違うのか? e-oneの魅力について伺うとともに、日本での1000ドルパソコン競争に火を着けた卓越したマーケティングがe-oneで何を狙うのか、(株)ソーテックの管理グループ取締役の中尾俊哉氏にお話を伺った。

テレビCMには“L`Arc-en-Ciel”を採用

--e-oneのテレビCMのBGMに、人気グループの“L`Arc-en-Ciel(ラルクアンシエル)”を採用(*1)していますね。おおよそ『Micro PC Station』の時(*2)からは想像もつかないものになったと思いますが、なぜこういうものになったのですか?

「e-oneはOA機器としてのコンピューターではない、生活空間の中で違和感のないコンピューターを創るという狙いがあります。これまでのイメージ(Micro PC Station)とは明らかに違う、デザインを重視し、ビジュアルを強調した製品ですので、イメージを変えたかったのです」

「e-oneの対象マーケットと考えている20代女性で、特にテレビの視聴者でこれまでパソコンを触ったことのない方にインパクトのあるものにしたかったということです。L`Arc-en-Cielを採用したのは、そこに狙いがあります。今後は、L`Arc-en-Cielのライブにe-oneがついて行くようなタイアップもできれば、と考えています」

*1)このCMは、画面の中央に配置されたe-oneに向かって少女が空から降りてくるという幻想的なもの。BGMとしてL`Arc-en-Cielの“Pieces”が流れる

*2)日本のパソコン市場に旋風を巻き起こしたMicro PC StationのCMは、とにかく価格重視。“しまった!! 9万9800円のパソコンなんてどう考えても安くしすぎだ!! うっかりしてました”という、大音量の合唱に圧倒される

ソーテックのパソコン部門を管理する中尾俊哉氏
ソーテックのパソコン部門を管理する中尾俊哉氏



--女性をターゲットとしているということですが、そうしますと外観についていろいろと話題になっているiMacとターゲットユーザーが重なるところがあると思いますが、やはりe-oneはiMacを意識しているのでしょうか?

「いいえ。特にiMacを意識しているということはありません。e-oneは、社内で新しいマーケットに向けた製品を作ろうという声が上がって、早い時期に本体のデザインが決まりました。あとは12万8000円という価格にあって、そこにどれだけの機能を盛り込むことができるのか、ということが課題でした」

--カラーが青ということもiMacを連想させてしまうと思うのですが。また、e-oneのブルーには何か特別な意味や名前はあるのですか?

「本体カラーリングについては、割と早くから白にブルーという組み合わせに決まっていました。スケルトンに合うブルーをどんな発色にすればいいのかが難航しました。ちなみに、特に公表しているわけではありませんが、ブルーは“ヨコハマブルー”、白は“シルキーホワイト”と呼んでいます」

e-oneは欲張りで贅沢なマシン

--横浜が本拠地だけに“ヨコハマブルー”というのはとてもいいネーミングですね。それではここはiMacとは違うという部分を教えていただけますか?

「e-oneとiMacのマシンコンセプトは、両極だと言っていいと思います。iMacはFDDを内蔵していなかったり、インターフェイスを絞り込んだりするなど取り入れている機能を最低限に抑えています。これに対しe-oneは、可能な限りの仕様を詰めこんだ、ある意味、欲張りで贅沢なマシンに仕上がっていると思います。これは開発コンセプトが根本から異なっているからだと認識しています」

「e-oneは、FDDも搭載していますし、USBをしっかりサポートすると同時にパラレルポートやシリアルポートをサポートし、新旧のインターフェースを取り入れています。USBについては、使いやすさを考慮して、1ポートをマシンの前面に装備しました。また、2基のPCカードスロットがありますので、デジタルカメラなどで撮影した画像を即座に取り込み、加工することができます。10BASE-Tポートと56kbpsモデムも標準で内蔵しています」

e-one本体左側面。各スロット、ポートがまとめられている
e-one本体左側面。各スロット、ポートがまとめられている



「さらに、e-oneはホームPCを意識したデジタル家電という位置付けですが、CPUにCeleron-433MHzを採用し、ハードディスクは8.4GBを実装するなど、パワーユーザーに対しても必要最低限のスペック(*3)を用意しています」

*3)e-oneの主な仕様は、末尾の関連記事を参照

--一体型のマシンにこれだけの機能を搭載させるのは大変だったのではないですか? また、機能を拡張させるために手を加えるのが大変そうですが。

「ソーテックのパソコン開発はもともと、ハイエンド向けのノートパソコンからスタートしています。ここで培ったノウハウがあるので、限られたスペースに必要な機能を入れ込むこと自体には、さほど苦労はありませんでした。しかし、どんな機能を盛りこむか、という点では悩みました」

「最終的に外しましたが、テレビチューナーも候補として挙がっていました。結果的には、ビデオ入力端子を備えることで、テレビチューナー機能を持ったビデオ機器をつなぎ、そこから映像を取り込めるようにしました。これによって、DVDプレーヤーやテレビゲームも楽しめるようにもなりました」

「また、e-oneはディスプレー部分とパソコン機能部分が、それぞれのユニットに内部で分割されていますので、手を加えることはそれほど難しくないと思います。もっとも、e-oneが狙っているような一般ユーザーは、購入したパソコンの筐体(きょうたい)を開けて、機能を拡張しようという人はほとんどいないようですが」

--たしかに贅沢なスペックだと思いますが、メモリーを64MBしか積んでいないのは、将来的に不安が残ると思いますが。

「メモリーについては、今後、128MBにアップグレードするサービスを提供する予定です。まもなく実装サービスのアナウンスができると思います。プランとしては、希望するユーザーから本体を引きとってメモリーを増設し宅配便で届ける、というものを考えています」

『ジャストホーム』をバンドル

--ハードウェアについてはわかりましたが、ソフトウェアについてもお聞かせいただけますか?

「バンドルソフトとして(株)ジャストシステムの家庭向けのスイートパッケージとして『ジャストホーム』を採用しています。ジャストホームには、日本語ワープロの『一太郎Home』をはじめ、 インターネットメールソフトの『カラメル』、はがき作成ソフトの『楽々はがき』など10種類のソフトが収録されています」

--ジャストホームを採用していることについて、ジャストシステムがe-oneに期待していると言っていました。これはバンドルベースでジャストホームの出荷本数が伸びるからという意味ですが。

「ジャストホームを採用したのは、ターゲットとしてSOHOやホームユーザーを強く意識した結果です。ジャストシステムさんに期待していただいているというのは私どもとしてもうれしいですね」

--SOHOやホームユーザーということですが、オフィスユーザーはターゲットには入れていないのでしょうか?

「私どもはもともとホームユーザーに強く認識していただき、信頼を得てきておりまして、コーポレートに対してはあまり強いとはいえないのです。ですので、まずはSOHO、ホームユーザーにアピールしたいと考えています」

--他のバンドルソフトとして気になるものに、インターネットを利用したテレビ会議が可能になる『Intel Video Phone』がありますが、肝心のCCDカメラがe-oneには搭載されていませんね。

「はい。こちらは対応が遅れておりまして、オプションでCCDカメラを用意する予定です。供給元は未定ですが、OEMで供給し、e-one同様、スケルトンボディーのものを用意します。これでテレビ会議も可能になります」

--キーボードの左上部には、“Internet”と“Email”というワンタッチボタンが装備されていますね。

「パソコンの購入動機の多くに電子メールとインターネットが占めていることを考慮しています。そもそもe-oneの開発コンセプトは“インターネットPC”なんですよ。その表れとして、キーボードにウェブブラウザーと電子メールに一発起動ボタンをつけました」

キーボード左上部に装備されている、“Internet”と“Email”ボタン
キーボード左上部に装備されている、“Internet”と“Email”ボタン



「これらのボタンを押しますと、InternetExplorerおよびOutlook Expressが起動します。ボタンで起動するブラウザーとメールソフトは、ユーザーが変更することも可能です。また、オリジナルマウスには、ウェブを閲覧する際に便利なスクロールホイールを搭載しています」

e-oneオリジナルマウス。こっちもやっぱりトランスルーセントだ。中央上部にスクロールホイールがある
e-oneオリジナルマウス。こっちもやっぱりトランスルーセントだ。中央上部にスクロールホイールがある



受注台数は半月で2万台を突破、年内に15万台を出荷予定

--受注が開始されて半月経過したわけですが、受注状況はいかがですか?また、販売目標はどのぐらいを考えていますか?

「受注台数は現在2万台程度で、すでに1万台を出荷しました。好調なスタートだと考えています。現在、月産2万台体制で生産していますが、受注に生産が追いつかない状態です。販売は直販、契約7社、流通3社の3ルートで行なっていますが、各店舗ともに品薄のために入荷待ちの状態です」

「販売目標は年内に15万台を目標にしています。また、提携している韓国のTrigem Computer(トライジェム)社が米国で展開中の『e-machines』(イーマシーンズ)ブランドで、e-oneの製品化を発表しています。今後、ソーテックとトライジェム、KDS(韓国Korea Data System社)、(株)キョーデンの4社連合で100万台の販売を目標にしています。さらに、協力4社のパソコン全製品で年間1000万台を生産できるように成長したいと考えています」

--これだけの仕様、機能を詰め込んで、12万8000円というのはかなり安いと思います。その秘訣はどこにあるのでしょうか。

「低コストを実現したのは部品の大量入荷によります。私どもはスタッフの数もかなり少ない中でやっておりますので、人件費の節減も貢献していると思います」

--在庫を抱えず、リスクを避ける昨今のファブレス(*4)の流れに逆行しているようにも思えるのですが。

「数社で協業することにより在庫リスクを分散し、ソーテックがこうむるリスクを極力低減しています」

*4)自社で工場を持たず、製品の開発、デザインのみをすること。生産は契約工場に委託することで、在庫リスクの低減を図る

ノートスケルトンは? 液晶一体型パソコンは可能性あり?

--今後はこのe-oneをどのように展開しようとお考えですか?

「他のデスクトップパソコン(ハイエンド向けの『PC Station』、エントリー向けのMicro PC Station)のように、新しいCPUが発表されるたびにモデルチェンジを行なうつもりはありません。しばらくはe-oneのスペックは固定のものとしようと考えています。e-oneは、12万8000円という価格で、現時点でできる限りのスペックを提供することにこだわりを持っています」

「これを他社がやろうとすれば、20万円台半ば、もしくは後半の価格設定になるのではないでしょうか」

--今後の展開でもっとも気になるのは、カラーバリエーションは増えるのだろうか、という点なのですが。

「カラーバリエーションについては、当面は予定していません。しかし、弊社のウェブサイトにユーザーが意見を書きこめるフォーラムを設け、ユーザーからの意見を集めています。そこに意見が集まれば、それを尊重する形でカラーバリエーションについては検討したいと思います」

「それにしても、スケルトンは発色は本当に難しいんですよ。ヨコハマブルーもかなり苦労したんです。むしろ、スケルトンではない形でオフィス向けの対応を考えています」

--ソーテックと言えばノートパソコンですが、ノートでのスケルトン対応や液晶ディスプレー一体型というのはお考えではないでしょうか?

「ノート型のスケルトンパソコンは、考えていません。ノートに対してはかなりのこだわりがありますので。しかし、液晶ディスプレー一体型については、できれば製品化したいと考えています。もっとも、具体的な話はまだありませんよ」

ヨコハマランドマークタワー36階のある、ソーテックのショールーム。ここもe-one発表以来、盛況だという
ヨコハマランドマークタワー36階のある、ソーテックのショールーム。ここもe-one発表以来、盛況だという



肝心なところははぐらかす中尾氏だが、その視線はe-oneの上にはもはやとどまっていないように感じた。1000ドルパソコン競争を日本に持ち込み、今度はトランスルーセントな一体型パソコンをリリース。「市場を常にアッと言わせたい」というソーテックに、今後も注目したい。

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