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新しい医療技術フレームワーク

1999年08月18日 00時00分更新

文● 尽田万策

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8月5日、札幌医科大学において、“ネットワーク先端技術フォーラム『次世代ユーザ開放型開発環境』――サイバーフレームワークを用いた医療技術フレームワーク”が、北海道地域ネットワーク協議会(NORTH)、札幌医科大学附属情報センターの主催により開催された。札幌医科大学附属情報センター所長、NORTH会長の辰巳治之氏と、(株)サイバー・ラボ代表取締役社長、加藤康之 の講演の模様をお伝えする。

医療情報ネットワークプロジェクトへの期待

辰巳会長は以下のように講演した。

「先日、アメリカのハーバード大学医学部と電話回線をつないで医療シミュレーションをしたときに気付いたことですが、国際電話代が1分間80円と意外に安いのです。札幌から釧路への公衆電話代が1分間73円なので、ほとんど差がないことに気づきました。これは一見、長距離電話が安くなり、北海道のような広い地域でネットワークを生かして田舎と都会の格差をなくせるかのように思えます。しかし、逆に言うと国際電話代と同じぐらいの負担をしなければ、北海道ではネットワークを本格的に高度利用できないことを意味します。

札幌医科大学附属情報センター所長、NORTH会長の辰巳治之氏札幌医科大学附属情報センター所長、NORTH会長の辰巳治之氏



そこで、高度情報化のインフラとしてのインターネットに期待が掛かるわけです。すなわち、各地にNOC(Network Operation Center)があれば、そこまでの回線費用で近隣のみならず、道内、全世界と対等に通信ができるわけで、そのインフラの整備が早急に望まれます。
さて、北海道のインターネットの歩みを簡単に振り返ると、東京でJUNETが開始されたのが'84年で、その後ようやく北大がJAINにつながった'91年が北海道のインターネット元年でした。それと前後して'90年にJCRN(Japan Committee for Research Networks:http://www.sapmed.ac.jp/jcrn/)が設立され、その活動の中から'93年にはJPNICができ、同年に今日のセミナーの主催団体である北海道地域ネットワーク協議会=NORTHが設立されました。NORTHは北海道のインターネット先導者として、道庁や地域行政をはじめ経済界や市民に対してインターネットの活用を啓蒙するとともに、自主的な研究開発を進めてきました。

例えば、End User(医師など)が、モジュールを組み合わせデータベースの利用や画像処理等ができるアプリケーションを容易に作れるシステムの開発をしたり、ネットワーク障害時に備えた学術インターネットと商用インターネットを地域内で経路制御するマルチホームの実験などを行なって来ました。そしてこの間、インターネットは予想をはるかに超える勢いで北海道でも普及を続けてきました。

将来は電子カルテによる情報一元化も

では次に何をするかです。2005年を目標に家庭にまで光
ファイバーを敷設するという国のFiber to the Home構想もいよいよ現実味を増してきましたが、要は高度なインフラの上にどのようなアプリケーションやサービスを実現するかに尽きます。超高速のスーパーハイウェーがどうしても必要というほどのアプリケーションはどんなものなのでしょうか?

私が所属する札幌医科大学附属情報センターも、そうした高速ネットワーク時代の新しい医療サービスのサポートを目的に今年4月に設立されました。学内外に対する学術・医療情報の提供や、診療診断をサポートする“地域医療支援システム”をはじめ、高度医療技術に対応する人材育成のための“教育支援システム”、高度情報処理機器の整備による“研究支援システム”などがスタートします。そして、将来的には電子カルテを中心とした、オーダーリングや各部門の個別情報を一元化する総合システムも構築したいと考えています。

今日の講演は、情報インフラの拡張とそこで提供されるべきアプリケーションの落差といった、ネットワークのこれからの課題解決に向けてとても良いヒントを与えてくれるでしょう。加藤さんはNTT時代に阪神大震災の通信回線復旧に威力を発揮したシステムを開発し、ソフトウェア界のノーベル賞『スミソニアンアワード』を受賞した方です。もともとソフト屋ではなかったのですが、道路工事や光ファイバー工事を長年やってきて、本当に必要なものを知っている人は自らモノを作ることができるという見本のような人です」――

サイバーフレームワークを用いた医療技術フレームワークとは?

(株)サイバー・ラボの加藤社長は次のように講演した。
(株)サイバー・ラボはNTTアクセス網研究所を母体に、NTT社内ベンチャー制度の第1号プロジェクトとして昨年'98年に設立された会社です。当初は社員4名でスタートして現在は6名になりました。本社は研究所の中にありますが、全員が集まるのは設計ミーティングなどの時だけで、普段は全員フレックスタイムで、在宅勤務をしながら北海道に住んでいる人もいます。

(株)サイバー・ラボ代表取締役社長、加藤康之氏(株)サイバー・ラボ代表取締役社長、加藤康之氏



さて、今日紹介する“サイバーフレームワーク”という製品は、ユーザー開放型システムを目指したオブジェクト指向型のアプリケーション開発システムです。実績がある導入ジャンルは大きく通信系、金融系、医療系ですが、今日は医療情報システムへの応用についてお話をします。

これまでの医療情報システムの開発ステップは、まずユーザーからの開発要望を聞き、次に半年から数年掛けてシステム開発を行ない、そして納品するというものです。しかし現在の情報技術の変化はめまぐるしく、納品したときにそのシステムはすでに時代に合わないものになっているという問題が起こっています。そしてこれは医療だけでなく、すべての分野に対して言えることでしょう。

そこで私は、ユーザーが、用意されたソフト部品をつないで自分が求めるアプリケーションを自ら組み立てるオブジェクト指向の開発システムを作りました。しかし、それだけでは実際にあまりうまくいきませんでした。というのは、膨大な部品とマニュアルが用意されているからといって誰でも自動車を作れるわけではないように、さまざまな機能を満たす部品を作るほど、作る側にとっては複雑性が増すという問題があったのです。

部品を集めるとシステムが組みあがる

この問題を解決するために以下の3つの仕組みを作りました。

(1)細かな部品同士の関連をユーザーが知らなくとも自動的に部品が組み上がる仕組みをフレームワークとして実現しました。部品の神様となる“スーパークラス”にこのフレームワークを埋め込んで置くと、これを継承する様々な子供のクラスはすべてこのフレームワークの機能を持つことになります

(2)アプリケーションの増大によって部品の種類が無限に増大するのを防ぐために、3つの要素オブジェクトを見い出し、この要素オブジェクトの組み合わせで、ほぼ無限とも言えるアプリケーションの多様性を生み出しました。これは4つの塩基の組み合わせだけで数百万種ともいえる多様な生態系を作り上げているDNAの存在に似ております

(3)LEGOの積み木細工のように部品を簡単に連結して、高度なアプリケーションを実現するには、もう1つ重要な課題があります。それは各部品間を流れるデータオブジェクトの設計とその有機的な連結方法です。具体的にはデータベース、オブジェクト、アプリケーション、ファイルシステム等、それぞれの間のデータ処理を“Dictionary Data Object”という単一のインターフェースでつないで実現しています

サイバーフレームワークの医療情報への応用と課題

さて医療現場では、時々刻々と変化する性質を持った膨大な基礎データから必要なデータ群だけを取り出して解析出来ることが望まれています。サイバーフレームワークではデータベースからあるデータを取り出すと、関連して必要なデータ群が自動的に抜き出されて関連処理される仕組みになっています。

例えば電子カルテアプリケーション、時系列診断アプリケーション、検査結果表示アプリケーションなどを、1つのデータベースをもとに連動して動かすことができます。しかも解析パターンやユーザーインターフェースの変更程度であれば、1行のコーディングもなくまったく簡単な操作によりユーザーが自分で行なえます。サイバーフレームワークでは、データベースの構造に依存しないユーザーインターフェースの設計が可能なのです。
サイバーフレームワークの医療情報への応用において、わたしは以下の4つの特徴的な機能が実現できると考えており、現在実践導入に向けて準備を進めているので期待してください。

(1) 電子カルテの自作
(2) 病院内にあるすべてのリソースの管理
(3) それら全データの一貫性管理
(4) 強力な病理データ分析機能

それから、サイバーフレームワークの次の課題として、作ったアプリケーションをウェブサーバーとブラウザーで動かすということがあります。それによりサイバーフレームワークの汎用性が一気に高まると考えています。

実は、すでにNTTだけでも数百くらいのシステムがサイバーフレームワークにより動いているのですが、当社だけでは引き合いに対応できない状況になっています。今後はプラットフォームを当社が提供し、ユーザーカスタマイズやプラグイン作成をユーザーにより近いところで行なえるベンダーとの開発体制作りが重要になっていくことでしょう」――

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