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“E-Camera”で次世代デジタルカメラ市場の主導権を狙うエキスパートベンチャー――米Photo Access社

1999年08月17日 00時00分更新

文● デジタルアドバンテージ 小川誉久

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あなたの母親はコンパクトカメラを使えるだろうか?「フィルムの脱着は怪しいが、かろうじてイエス」それでは、コンパクトカメラと姿形はよく似たデジタルカメラは?おそらくほとんどの答えは「ノー」だろう。

同じスナップを撮影するにしても、銀塩フィルムを使用するコンパクトカメラとデジタルカメラでは、内部のしくみがまったく異なる。だが、しくみの違いは本質的な問題ではない。今のデジタルカメラは、こうしたしくみを意識しないで使えるほどは洗練されていないということが問題なのだ。

記録用のメモリカードの仕様はメーカーによってまちまちだし、プリントが欲しいと思っても、銀塩フィルムのように近所のDPEならどこでも対応してくれるというレベルではない(最近では、FDI(*1)やDCF(*2)、DPOF(*3)などといったデジタルカメラ向けのサービスも充実しつつあるが)。

注1)F-DI:富士写真フイルム(株)が提供する、デジタル画像プリントサービス。
注2)DCF:Design rule for Camera File Systemの略。画像ファイルをリムーバブルメディアに記録する際のディレクトリ構造や、ファイル名称のルールなどを規格化したもの。
注3)DPOF:Digital Print Order Formatの略。デジタルカメラで撮影した画像の中からプリントしたいコマや枚数などの指定情報を記録メディアに記録するためのフォーマット。

セイコーエプソン(株)の『プリントン』のように、デジタルカメラを接続したり、スマートメディアやコンパクトフラッシュスロットを装備して、撮影した画像をパソコンなしで直接出力できるようにしたものもある。しかし通常、デジタルカメラで撮影した画像を印刷するにはパソコンが必要である。メカオンチといわれるような人が使うには、あまりに考えなければならないことが多すぎる。

米国の調査会社である米International Data Corporation社(IDC)の試算によれば、全世界のデジタルカメラ市場は、2000年で約850万台、2001年で1800万台強、2002年には2800万台と急速に拡大するという。しかしこの試算が現実になるには、今のデジタルカメラは、まだまだ値段が高く、使いにくく、分かりにくい。こうした問題を解決して、次世代デジタルカメラ市場の主導権を狙う。これが今回紹介する米国のベンチャー企業、Photo Access社である。

次世代デジタルカメラのインフラストラクチャー“E-Camera”

米Photo Access社が設立されたのは'97年。現在は米国カリフォルニア州マウンテンビューに本社を構える。同社のCEOであるGene Wang(ジーン・ウォング)氏は、コンピュータ業界では知る人ぞ知る有名人だ。同氏は米ボーランドインターナショナル社(現米インプライズ社)の元副社長/ゼネラルマネージャーで、ボーランドを開発者向けプロダクツのトップ企業に押し上げた。

Photo Access社 CEOのGene Wang氏。プログラム開発ツール、手術用ロボットの次はデジタルカメラ市場を狙う。根っからのベンチャーパーソン
Photo Access社 CEOのGene Wang氏。プログラム開発ツール、手術用ロボットの次はデジタルカメラ市場を狙う。根っからのベンチャーパーソン



その後、電撃的に米シマンテック社に上級副社長として移籍してからは、名前を聞かなくなっていた。今回分かったところでは、シマンテックを退職し、手術用ロボットを開発する米Computer Motion社のCEOとして同社を株式公開まで発展させ、今回のPhoto Access社の設立に至ったという。根っからのベンチャーといってよいだろう。

これ以外にもPhoto Access社には、米アルダス社の技術担当チーフから米アドビシステムズ社のコアテクノロジ部門の上級部長だったJerry Barber(ジェリー・バーバー)氏(Photo Access社副社長)や、米S3社の上級マネージャーとしてマイクロデバイスの開発に携わっていたMammad Safai(ママド・サファイ)氏など、いずれも各方面の第一線のエキスパートが多数参画している。

Photo Access副社長、Jerry Barber氏。アルダス社の技術担当チーフからアドビシステムズ社のコア テクノロジ部門の上級部長を経てPhoto Access社へ。このほかにもPhoto Access社には、各方面のエキスパートが集結している
Photo Access副社長、Jerry Barber氏。アルダス社の技術担当チーフからアドビシステムズ社のコア テクノロジ部門の上級部長を経てPhoto Access社へ。このほかにもPhoto Access社には、各方面のエキスパートが集結している



このように強力なスタッフを率いるPhoto Accessは、“E-Camera”と呼ばれる次世代のデジタルカメラ・インフラストラクチャーを提唱している。E-Cameraは、デジタルカメラ用のチップから、各種アプリケーション、インターネット上のサービスまでを含むトータルインフラストラクチャーの名称だ。今回は、来日したGene Wang氏、Jerry Barber氏によるプレゼンテーションをベースにして、同社の戦略をかいま見てみよう。

第一歩は『PhotoChip』

Photo Accessが手がける製品としては、大きく4つがある。1つは、最先端のイメージ処理アルゴリズムを始め、デジタルカメラのほとんどのデータ処理を1チップで実現する『PhotoChip』と呼ばれるASIC(特定用途向けのICチップ)だ。

これは900万画素までの画像を前提として設計されており、130万画素のCCDを備えたデジタルカメラで、毎秒8フレームという処理能力を持つ。Photo Accessは現在、PhotoChipのサンプル開発に注力しており、今月中にはサンプルが出来上がる予定である。

Gene Wang、Jerry Barber両氏が今回来日した第一の目的も、このPhotoChipを日本のデジタルカメラメーカーに売り込むためだと思われる。明言はしなかったが、Wang氏は「デモの反応は上々。近い将来には大口の提携先について発表できるだろう」と述べた。

PhotoChipを土台とする上位アプリケーション

第2の製品は、デジタルカメラ上で実行可能な各種アプリケーションソフトウェアである。これらには、カメラからパソコンを経由せずに直接電子メールを送信可能にする『PhotoEmail』、カメラから高解像度プリンタに画像を送信する『PhotoPrintIT』、カメラ上で画質の向上などの編集作業が行なえる『PhotoEdit』、カメラから直接インターネットを介して画像のプリント出力などを依頼できるようにする『PhotoDevelop』、フラッシュ設定や絞り設定などカメラの各種設定を可能にする『PhotoSettings』がある。

たとえばこのうちのPhotoEmailを利用すれば、カメラを直接インターネットに接続し、カメラに付属するLCDモニターと操作ボタンを使って、撮影した画像をインターネットメールとして相手に送付できる。

これらのアプリケーションは、Windows CEにデジタルカメラ用のプログラムインターフェイスを加えたDCAPI(Digital Camera API)を使って開発される。つまりPhoto Accessの各種アプリケーションを実行するには、デジタルカメラにWindows CEが組み込まれている必要がある。

なぜWindows CEなのか、という問いに対し、Wang氏からは明確な回答は得られなかった。これはあくまで筆者の個人的な意見だが、ホームネットワークや、家庭内サーバーなどとして、Windows CEが普及する可能性を考慮してのことではないかと感じた。現在、家庭内のさまざまな家電製品をネットワーク接続しようというホームネットワークの仕様は、大手メーカー各社による熾烈な規格化競争のまっただ中にある。

これに対しマイクロソフトは、自社のWindows CEをセットトップボックスに搭載し、これを家庭内ネットワークサーバーのように機能させることで、各種家電製品を制御しようとしている。具体的な構想は明らかではないが、こうした家庭内サーバーとデジタルカメラの双方にWindows CEが搭載されれば、データのやり取りはより自然にできるだろうし、場合によっては、Photo Accessのアプリケーションを、家庭内サーバーで実行できるようになるかもしれない。

インターネット経由で画像を送るというが、現在でも一般的なデジタルカメラの画素数は200万画素を超えており、データサイズは1枚あたり数10KB~数MBに及ぶ。撮影したすべての画像をDPEに送るには、数10MBのデータ転送を実行する必要がある。一体どのような通信手段を使うのかという疑問が生じる。

しかしインターネット接続はもとより、パソコンとの接続インターフェイスについても、E-Cameraのイメージ図に赤外線通信ポートが描かれていた以外は、はっきりとした回答は得られなかった。まだ未定なのか、公開できる段階にないのかは不明である。

インターネットへの接続インターフェイスについて、Barber氏は、「あくまで個人的な意見ではあるが」と前置きしたうえで、携帯電話やPHSなどを利用した無線通信の可能性について触れた。確かに、NTT移動通信網(株)が2000年内にサービス開始を予定している次世代携帯電話機『W-CDMA』(IMT-2000)では、384kbps~2Mbpsでの高速データ通信が実現する。

しかし230万画素クラスのカメラで高画質モードで撮影すると、1枚あたりのデータサイズは約4MB強になる。仮に384kbpsの速度で通信できたとしても、1枚あたりの転送時間は約1分半。決して気軽に転送できる時間とはいいがたい。次に述べる“インターネット上の写真アルバム”も魅力的なサービスだが、データ転送のインターフェイスと、利用可能な帯域幅は、E-Camera構想全体に影響を及ぼす鍵になるだろう。

インターネット上の写真アルバム――photoaccess.com

第3の製品は、インターネット上にウェブサイトを構築し、各ユーザーが利用できるインターネット上の写真アルバムサービスを提供することだ。デジタルカメラで撮影したデータをこのサイトに送れば、インターネットにアクセスできる環境さえあれば、いつでも、どこからでもアルバムを参照できるというわけだ。URL(ないしこれに代わるポインタ)を実家の両親にメールで送れば、彼らは孫のアルバムにアクセスできるようになる。

さらにphotoaccess.comでは、写真を保存しておくだけでなく、ここから出力サービスにデータを送ってプリントを行なったり、Tシャツやマグカップなどに写真を印刷して贈り物にしたりといったさまざまなサービスを展開する予定だ。このphotoaccess.comでは、各種デジタルカメラや出力機の属性情報をデータベース化しておき、撮影に使われたカメラと出力機の特性に応じて自動的な補正を加えることにより、常に最適な出力が行なえるようにするという。

カメラからphotoaccess.comサイトへ、photoaccess.comサイトからDPEへのデータ交換は、IML(Image Markup Language)と呼ばれるフォーマットで行なわれる。このインターネットサービスは、年末までに米国で開始されるとのことである。

特定用途向け“コンサルティングサービス”

第4の製品がこの“コンサルティングサービス”である。これまでの製品は、基本的にコンシューマーユーザーを意識したものだが、ここでは、E-Cameraのしくみを特定業務に特化させてサービスを提供する。具体的には、不動産業や保険業などが考えられるだろう。

国内メーカーがすでに開始している既存サービスにどう対抗するか

総合的なインフラストラクチャーと呼べるまでに完成されていないとはいえ、インターネットを経由したデジタルカメラ画像のプリントサービスなど、Photo Accessが提唱するインフラストラクチャーのパーツのいくつかは、すでに国内の大手カメラ/フィルムメーカーなどによってサービスが実施されている。

たとえば富士写真フイルムは、F-DIと呼ばれるデジタルカメラ向けのプリントサービスを全国展開しており、東京、神奈川、千葉地区では、セブンイレブン・ジャパン(株)の店舗を窓口として利用できる。また同社の“ネットサービス”では、インターネットからプリントを依頼したり、ネットアルバムを作ったりすることができる。

競争の激しい分野だけに、こうした大手メーカーの動きに対し、Photo Accessはどう対抗するのか気になるところだ。今回の来日プレゼンテーションでの説明はごく限られたもので、Photo Accessの戦略のすべてが明確にされたわけではない。しかし、Wong氏は、年内になんらかの発表を行なうことを示唆した。同社の今後に注目したい。

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