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「教科書のない学習の時代が始まった」--教育とコンピューター利用研究会のシンポジウム開催 その2

1999年08月11日 00時00分更新

文● 船木万里

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6日、7日の両日にわたり、ACE(教育とコンピューター利用研究会)の主催による“シンポジウムPOEM(the Party On Education of Multimedia)'99”が玉川学園の視聴覚センターで開催された。教育関係者や関連企業も参加、メーンステージでは基調講演や事例報告があった。また、視聴覚センター各フロアーでは、研究団体や協賛企業によるブース展や教室会場でのワークショップ、企業発表なども開かれた。

企業ブースと教室会場での多彩な展示・発表

6日午後には、ステージで各フロアーの展示や発表を紹介する時間が設けられた。まず最初にステージに立ったのは、“MES(Mac Education Society)障害者とコンピューター利用教育研究会”。それぞれギターを手に『だれでもテケテケ名人入力装置』などを説明する。これがあれば、ギター演奏が困難な体の不自由な人でも、エレキギターでのプレーを楽しめるというもの。障害児教育に携わる家族や教育関係者が集うこの研究会では、テクノロジーを利用した支援を研究している。最新の教育情報の調査や紹介・自作教材の作成なども行なっているとのこと。

『だれでもテケテケ名人入力装置』を披露する“MES(Mac Education Society)障害者とコンピュータ利用教育研究会”のメンバー
『だれでもテケテケ名人入力装置』を披露する“MES(Mac Education Society)障害者とコンピュータ利用教育研究会”のメンバー



続いて、各教室会場でのプログラムが紹介された。主催団体であるACEの関東支部、北海道支部などがそれぞれ3つの教室を受け持ち、全国の学校での実例報告や企業による研究発表、ワークショップなどを開催。各教室では、少人数ながらも熱心に質問する姿が見られた。また、“玉川学園小学部マジカルツアー”と題した教室見学、視聴覚センターの機材を利用した“インターネット探検隊”といった参加型プログラムもあった。

協力企業によるブースのCMタイムでは、各企業から1名が壇上に上り、自ら内容をPR。司会のACEメンバーである西澤氏は「企業各社の方々にも、我々と共にコンピューター教育の発展を真剣に考え、協力していただいていますので、ブースゾーンも単なる企業展示ではなく“エデュースの森”と呼んでいます。教育に関することなど、気軽に訊ねてみてください」と紹介。実際ブースでは、参加者から製品に対する質問や、教育に利用する際の相談が寄せられて賑わっていた。

各企業が壇上で自社ブースのプレゼンテーションを行なうCMタイム
各企業が壇上で自社ブースのプレゼンテーションを行なうCMタイム



メーンホールの上の階には、託児所代わりに利用できる“こどもの陣地”を設置。玉川学園幼稚部の教諭と学生ボランティアによる運営で、子供たちは折り紙やパソコンによるお絵かきなどで楽しく時間を過ごしていたようだ。

“こどもの陣地”ではiMacで遊ぶ子どもの姿が見られた
“こどもの陣地”ではiMacで遊ぶ子どもの姿が見られた



基調講演--21世紀に必要な教育とは?

15時40分からメーンホールで行なわれた基調講演は、富山大学教育学部教授である山極隆(やまぎわ・たかし)氏による“総合的な学習の時間における情報教育”。山極氏は開口一番、「カジュアルな雰囲気のこのような催しに、背広にネクタイはふさわしくありませんな」と上着を脱ぎ、ネクタイもほどくというパフォーマンスを演じ、拍手を浴びた。

上着とネクタイを取って基調講演に臨む山極氏
上着とネクタイを取って基調講演に臨む山極氏



昨年まで教育課程審議会委員を務めていた山極氏は、教育課程の改善に伴って採用が決定された“総合的な学習の時間”の考え方について、以下のように述べた。

「総合学習とは、教科の枠を越えて総合的・自主的に学習するというものです。高度情報化社会においては、自分で情報を収集したり、その情報を駆使して自ら問題解決を図り、また情報を発信していく力が求められています。しかし、現代の子供たちは、与えられた課題はこなしても、自分で課題を見つけたり主体的に行動する力が少ない。今後は、新しい知・徳・体が求められています。“知”とは自分の頭で考え、筋道を立てて表現する力。“徳”とは、豊かな人間性、社会性。そして“体”は基礎的な体力、精神力、いい意味での闘争心。このような方向性で教育を考えた場合、各教科の学習だけではなく、そこで得た知識を使いこなす力をつける、という学習が必要だと審議会では考えました」--。

総合的学習の時間について説明する山極氏総合的学習の時間について説明する山極氏



こうしたことから審議会では、新しい教科として独立させるにあたって、中途半端な時間数では効果も上がらず、新教科の意味がないと考える。これに対して教育現場からは、「週5日制の導入に伴って、ただでさえ授業時間数が減っているのに、これ以上教科の学習時間を減らせば基礎学力が低下するのでは?」と懸念の声が上がった。しかし審議会側では「総合学習の時間によって、むしろ学力を上げることが狙い。各学校ではそのための工夫が必要」として、“総合的学習”を小学校では3年から年間105時間、中学・高校でも必修科目として位置づけた。

小学校での“総合的学習”には教科書がない

“総合的な学習の時間”の内容は、各学校に一任。“教科書も作らない”という画期的な教科になる。このため「何を教えればいいのか?」と悩む声も多く、現在、教員向けのセミナーがさかんに行なわれている。山極氏も教員の指導に全国を飛び回る毎日だという。

ここで山極氏は、全国2万校の小学校校長へのアンケート結果を紹介。どのような学習活動を設定し展開しようとしているか、という問いへの答として最も多かったのは“地域や学校の特色に応じた課題”。その後に“環境問題”、“福祉・健康”などが続き、“情報に関する課題”は最下位。ネットワーク環境も整備されていない中、無理に取り入れなくても……と消極的な姿勢をとる小学校が大半だという。

しかし、今後中学校では“情報基礎”を技術家庭科のなかに必修領域として、高等学校では“情報”を必修教科として設定するという教育体制がすでに決定している。小学校では、こうした情報教育の前段階として、小学校でも“情報”に関する課題を“総合的な学習”に取り入れるべきだと山極氏は考える。

外国語もコンピューターも、コミュニケーションツールの1つに過ぎない。しかし、それらを道具として利用することによって、課題を総合的に解決する主体的な力が養われることを考えれば、情報利用や国際感覚というテーマは、小学校においても無視できない学習活動の1つであるだろう。審議会では、これまでは各教科の枠に縛られ、こうした学習内容を取り入れることは難しかったが、今回“総合的な学習の時間”を設けることにより、時間的な環境はとりあえず整備されたものと考えている。

山極氏は、「今回のPOEMのように教職員が各学校の事例を紹介しあい、互いに吸収する場をつくることによって、今後、小・中学校での情報教育を無理なく普及させていただきたい」と講演を結んだ。

POEMは7日に終了したが、ACE のホームページでは、RealVideoによって会場の様子がリアルタイム中継され、デジカメ映像による速報も紹介された。ACEでは今後も、環境教育や指導事例の報告など、多彩な活動を予定している。

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