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【夏季特別企画 Linux対談 Vol.2】日本のプログラマーよ、立上がれ!Linuxコミュニティーに小(さ)村井(むらい)、出でよ!

1999年08月10日 00時00分更新

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夏季特別企画Linux編1回目では、3人の専門家をお招きして、思う存分、Linuxの現状と課題、希望などを語ってもらった。Linuxブームに沸き立つ昨今のコンピューター業界だが、前回は日米のLinuxコミュニティーには微妙な温度差があるという話になり、そのなかで今後のLinuxコミュニティーの有り方と課題がいくつか挙がった。第2回目は、より深く日本の問題点をえぐってもらう(発言の一部で登場人物の敬称略)。

カーネルをハックするような元気のあるプログラマーがいない日本という国の現状

本誌編集部「たとえばUS(米国)ではものすごく盛り上がるのに、日本では萎んでしまうという、日米での乖離(かいり)みたいなのが出てくる可能性もあり得るわけですか」

風穴「うーん、でもそういうときは米国で流行って、日本では時差があるけど、あとから流行るっていう(笑)。だいだいこの業界は」

本誌編集部「なるほどね」

吉岡「私がエンジニアとして見た、非常に素朴な見解なんだけど、たとえば日本のプログラマーは元気ないんですよ、全体的に。というのはね、たとえばLinuxのハッカーでも、オープンソースのハッカーでもいいんだけど、USでハックしてる人たちっていうのは皆、元気がある。でも日本人はぜんぜんダメ」

本誌編集部「元気がある人がそんなにいないんですか」

吉岡「いない。もう、圧倒的に少ない。だから、1つは、たとえばサラリーマンが長時間の通勤時間に疲れちゃって、会社でエネルギー使い果たして、家に帰ってまでそんなことはしないっていう人なのか、あるいは、どうなのか知らないですよ。だけど日本のプログラマーってのはあまりにも元気がなさすぎるんですよね、そういう意味で」

風穴「仕事としてのプログラムしかやっていないわけですね」

吉岡「やっていないですね。で、コミュニティー、コミュニティーと言ってるけど、彼らがどれだけ面白いハックをしているかというと、日本のLinuxコミュニティーの人たちでね、Linuxのカーネルのクレジットっていう、コントリビューターのファイルがあるんですよ。それに日本人何人載ってるかっていうとね、世界中のハッカーが273人ぐらいクレジットって載っているなかで、たった1人しか載ってない」

本誌編集部「1人だけ」

吉岡「新部さんっていう方なんですが。Linuxの、たとえば偉そうにしている日本Linux協会のお偉方は、どれだけLinuxに貢献してるかというと、カーネルハックなんかしてないんだもん。単にカーネルが面白いよって、インストールの紹介しているだけの人が偉そうにしている。

だけど、プログラマーとしての資質を持っていて、プログラマーとしてどれだけ(面白い仕事を)やってるかっていうと、日本のプログラマーはあまりにもお寒いんですよ。デバイスドライバーをゴリゴリ書いて、おれがたとえば東芝のね、何とかって? PCMCIAは動かないから自分で作ったよ、これ、使ってくれっていうような、本当の意味でのハッカーが、日本にどれだけいるか。残念ながらほとんどいないですよ。そういう人たちがいないコミュニティーで、単にメーリングリストの箸の上げ下ろしだけを言っているエセ何とかっていうのを、それをぼくは不健全なコミュニティーだと思いますね」

風穴「でもその地味なデバイスドライバーをガリガリ書く人がたくさんいれば、みんながどんどんノートパソコンでLinuxを持ち歩くようになって、もっともっと、まあエバンジェリストが増えて、本当はもっとみんなが触発されるはずなんですがね、そうじゃないと」

生涯一プログラマーでは向上心がないことになるのか?

吉岡「だから、たとえば日本の、非常に大きな言い方をすると、プログラマーの置かれている非常に悲惨な状況があって、私がたとえば10年ぐらい前に言われていたのは、日本では“プログラマー30歳定年説”っていうのがあって、30歳を超えてプログラマーをしてる人間っていうのは、はっきり言ってだめだと、そういうことを言われていたわけですね。

ある種の階級制度があって、プログラマーがあって、SEがあって何とかって、コンサルタントっていうのがいい、非常に知的な仕事だけど、プログラマーっていうのは、なんか力仕事でっていうようなところで、プログラマーがリスペクトされてない部分が本当にあるんですよね」

本誌編集部「それはいまでもあるのですか」

吉岡「いまでもある。たとえば大企業で入社して、SEとかで入って、大きな何とかって日本を代表する企業で、実際にコードを書いてる人っていないんですよ。だから外注に全部下請けして、仕様を決めて、ああだこうだっていうところで。だから現場レベルでプログラムを書いて、Cのプログラムを読んでる人っていうのは、日本ではほとんどいないですね。

日本オラクル株式会社 吉岡弘隆氏。オラクルでプリンシパル・エンジニアを務める吉岡氏は、この8月に発売された『Oracle8i最新テクノロジガイド』(弊社刊)の共著者でもある。
日本オラクル株式会社 吉岡弘隆氏。オラクルでプリンシパル・エンジニアを務める吉岡氏は、この8月に発売された『Oracle8i最新テクノロジガイド』(弊社刊)の共著者でもある。



従来はね、従来っていうか、若いころちょっとプログラムを書いた人はいっぱいいるし、それはいるんだけど、ゴリゴリ書いて、それを十何年、あるいは20年ぐらい自分の職業としてやってる人っていうのは現役でいるかっていうと、私は十数年プログラマーとしてやってるけど、日本人ではほとんど会ったことないですね」

健全なプログラマーのコミュニティーがないのはなぜ?

本誌編集部「日本というのは日本企業という意味なんですか、それとも……」

吉岡「いや、日本。日本という地域でね」

本誌編集部「じゃあ、外資系企業であっても日本にいれば一緒ということですか」

吉岡「だって外資系企業で十何年同じ仕事してる人って、いないですよね。ところがね、私、シリコンバレーに行って、自分がすごい心地よかったのは、プログラマー10年のおじさん、おばさん、いっぱいいるわけですよ、私と同じぐらいの年代の人が。

そういう人たちとお話してて、プログラムの話かなんかしてると、仕事としてはそうなんだけど、なんか同じ趣味じゃないけど、同じ話題の中で、何となく違った仕事だとしても、分かり合える部分もあって、そういうコミュニティーっていうのは心地いいですよね。で、彼は、彼女は何々を作ったと、おれはオラクルでこういうのを作ったよと、ああ、そうか! とか、そういう話でわりと盛り上がったりする。

で、シリコンバレーのLinuxユーザー会に行っても、私は今回こういうものを作ったよとか、ネットワークのどうだこうだとか、私にとってはチンプンカンプンなんだけど、聞いていると、そういうことか、面白いな、みたいな。質疑応答も、こういうふうにやったほうがいいんじゃないとか、ああだこうだとか、おれだったらこうやってやるとか。それこそドライバーを作った人が質疑応答しているわけですよ。これは、それでまた非常に面白いですね。そこらへんの、健全なプログラマーのコミュニティーがあるかっていうと、日本では残念ながら、私はまだ発見してないですね」

本誌編集部「風穴さんとしては、吉岡さんの意見はどう思います?」

風穴「それはLinuxに限らず昔から言われていますから」

本誌編集部「Linuxの、実際にプログラマーとかエンジニアたちもそうでしょうね」

風穴「確かに少ないですね。向こうでコンファレンスのセミナーとか、BOFとか、同じ興味を持つ人があるテーマで集まってガヤガヤ話しようみたいなところがあるんですけど、そういうのって日本では盛り上がらないんですよね。だからスピーカーと、あとは聞く人っていう、セミナーと一緒じゃん、みたいな。みんなで話し合う気配が全然ないし、そういう意味ではお客さん的な人であることは確かですね、日本は」

本誌編集部「これを逆の視点で考えれば、日本の企業が全体主義的にLinuxに走るようになると、大量のプログラマーはLinuxに投入されるわけですよね。そうすると一挙に現状が解決するというか、そういう可能性もあるわけですか」

吉岡「それはないんですよ」

本誌編集部「ない。あっさり“ない”と(笑)」

吉岡「要するにね、素人を何人突っ込んでもだめなんですよ。たとえば、ある文学というジャンルがあって、何とか小説というのは売れると、素人100人集めて、渋谷あたりで100人集めて、その人たちに小説書かせたらベストセラーが作れるかっていったら、そんなことないでしょう」

本誌編集部「日本では大企業にいる人たち、エンジニアたちも、まあ素人の域だと」

吉岡「素人ですよね」

本誌編集部「普段、ソースコードなんか全然見ていない」

吉岡「見てないんだもの。だから、たとえばね、まあいいんだけど、小説学校ってのを作って、予備校を、それから大学、大学院、小説大学っいうので大学院作ったとして、そのテストに生き残ってきた人が、人の心を揺さぶるような小説を書けるか、文学を書けるかと」

本誌編集部「なるほど、たとえとして」

吉岡「でも訓練としてはたとえば何かね、やっぱり「てにをは」とか日本語の文法は訓練として必要ですよ、わかりやすい文章を書くという。だけど、それが世界で通用するような文学になり得るかといったら、なるわけないじゃないですか。いいんですよ、天才プログラマーが天才1人で書けば。それ、リーナスでいいの。リーナスとおんなじようなパッションを持ってて、それがずっと、プログラムが好きで好きで、寝食忘れて、おれは飯食うよりプログラムが好きだっていう何千人かが勝手にやってればいいんですよ。それが教育でできるなんて思うのは幻想なんですよ」

インストールという“用途”

本誌編集部「いま、この話っていうか、今回の対談のテーマがですね、“今年前半のLinuxの盛り上がりを振り返り”っていうところだったんですが、(笑)実はそのLinuxの盛り上がりっていうのは幻想だったのかという」

風穴「盛り上がっているのは盛り上がってんですよ」

吉岡「盛り上がっているのは盛り上がってる」

本誌編集部「誰が盛り上がっんですかね」

風穴「いや、みんなインストールの設定をしている(笑)。Linuxの主な用途はインストールです」

本誌編集部「なるほど。すると、企業として何とかウハウハになろうとしているのは、五橋研究所とか一部のディストリビューターだけですかね」

風穴「企業はもちろん、中小企業、その近いレベルから、LBIとか、Linux・ビジネス・イニシアチブとか、Linuxでビジネスをしようとしている人がたくさんいますけど、でも全体として、やっぱりお客さん的なプログラマーが多いのは確か。

そう、プログラマーが少ないというのは、たとえばWindowsのアプリケーションなんかを見ても、ほとんど外資系じゃないですか。日本のソフトメーカー、まあジャストががんばってるけど。みんな結局米国のソフトを翻訳して持ってきている。ずっと昔から言われていますよ」

日本のプログラマーよ、立上がれ!Linuxブームは幸せな状況を生み出す大きなチャンス

本誌編集部「ウェブ系で新しいアイデアなんて、ぜんぜん日本から出ませんよね」

吉岡「だからね、別に地域にこだわっいるわけじゃないんだけど、すごいプログラマーって日本でいっぱいいるんですよ。たとえばMULE作った半田さんとかね。で、数えるぐらいしかいないけど、いないことはない。絶対いるんですよ。だけどその人たちは日本の社会がリスペクトして、盛り立てて……」

吉岡「日本でオープンソースのコードを書いているようなプログラマーでも、いままでは別の仕事を持っていて片手間に作っていたのが、好きな仕事で飯を食えるようになりつつあるということは非常にいいことだと思いますね。そういう人たちがもっともっと増えて、たとえばプログラムを作って何か一旗挙げたいと思う若い人とか、おじさんとかがどんどん出てくれば、それはいままでとは違う流れになってくると思いますね。

だから私は現状についてネガティブなことを言っているのではなくて、そういうプログラムをやっている人たちをエンカレッジしたいわけですね。米国でできて、日本でもそれ、できないわけないんだから、米国でできて。だから、せっかくなんだからこの機会を利用してプログラマーがプログラマーとして幸せに行けるところというのがでできればいいなと。その道具としてLinuxが使えるよっていう」

清水「それは、つまり自分の好きな範囲でやっていた人たちがビジネスをやっていくということになるわけですよね。そういうことは可能なんでしょうか。

Vol.2で初発言の日刊アスキー編集部 清水久美子氏。Linux専門サイト立ち上げのために、日刊アスキーに異動したascii24の元部員。この対談の鴻(こう)一点。ふく面編集者。別にお多福面だという意味ではない(お多福面でないとも言っていない)。机に突っ伏すことなく、椅子に座った格好のまま寝られるという特技の持ち主。この特技のおかげで、ゴキブリの這い回る床に寝転がらずに済んでいる Vol.2で初発言の日刊アスキー編集部 清水久美子氏。Linux専門サイト立ち上げのために、日刊アスキーに異動したascii24の元部員。この対談の鴻(こう)一点。ふく面編集者。別にお多福面だという意味ではない(お多福面でないとも言っていない)。机に突っ伏すことなく、椅子に座った格好のまま寝られるという特技の持ち主。この特技のおかげで、ゴキブリの這い回る床に寝転がらずに済んでいる



自分にお金が入ればビジネスとして嫌な仕事とかもあるわけで、実際に嫌な仕事もやるんでしょうかね」

吉岡「いや、だから嫌なことだけじゃなくて、楽しいことをやっていても食えるようになる状況っていうのができつつあるんじゃないかなっていうところですよね。だから仕事だけだったらいやなこともいっぱいやらなくちゃいけないっていうのが常識なんだけど、仕事としてやっていても楽しいことのほうが多ければ、わりとハッピーですよね」

富と名声のためでなく

本誌編集部「さっき吉岡さんが、日本ではハッカーが全然いないとおっしゃってました。それは、逆に言えば1人でハッカーやってて、ドライバーとかゴリゴリと書いても評価される素地がなかったということですよね。それがだんだん、Linuxの浸透とかオープンソースに対する理解が深まってくることで、そういう人たちが称賛される、評価されるようになってくる」

吉岡「そうそう」

本誌編集部「そうなってくる方向が、いまのところ見えてきているという」

吉岡「そうなってくるんじゃないですかね。だからそれは称賛されるというのは単に経済的なメリットがあるだけじゃなく、コミュニティーで、あいつは面白いやつだぞ、めちゃくちゃすごいプログラマーだっていう尊敬を集めるとかというところが快感になるとか、そういった動機づけになるとかっていうことでもいいわけですよ」

本誌編集部「やっぱり名誉は非常に重要ですからね」

吉岡「めちゃくちゃ重要ですね。だからその名誉というものが大きなプログラムを作る動機にさえなり得るというところを、もっと紹介していかなくちゃいけないんじゃないかな。世界中、何千人というプログラマーが自分の時間を費やしてプログラムを書いてるんですよね。何でか分かんないけど書いてる。そこをもう少し注目していいような気がしますね」

本誌編集部「一般の人たちは、プログラムというものを仕事だと捉えていると思うんですよ。バスの運転手がバスを運転しているようなもので、あの人はプログラマーでプログラムを仕事にしているっていう。なんですけど、でも本当はプログラム自体は趣味で、それ自体が楽しくて、という現状があるんですね」

吉岡「そういうプログラマーもいるでしょうね」

本誌編集部「しかもそこで、“あいつはすごいドライバーを書いた”とか、そういう声が出たりした日には、もうたまらんという(笑)」

吉岡「たまらん、気持ちいいと(笑)」

本誌編集部「気持ちいい(笑)。そういうふうに熱意のある人たちをサポートする人たちが、うまいことかみ合っているのがLinuxのいまの盛り上がりだという感じですね」

吉岡「うん、エンジニアから見ればね」

風穴「うん」

本誌編集部「ところで、さっき風穴さんがおっしゃっていた、日本では、いまインストール大はやりっていうところはどうなんでしょう?」

風穴「まあ、昔からそういう風潮はありましたよね。Windowsのころから。雑誌なんてやっていても、プログラミングの記事なんか全然ウケない、誰もついて来れないんです」

Linuxコミュニティーのカリスマ待望論

吉岡「ぜんぜん話は違うんですけど、私、『日経ソフトウエア』で今月号、記事書いたんですよ。何を書いたかっていうと、いまの言っているようにね、日本のプログラマーって元気ないよっていう現状認識があって、カーネルソースを読むなんて、そんなこと考えたこともありませんでした、みたいな人が多いんですよね。でも、私なんかから言わせれば、タダで世界中のエキスパートの知恵が集まっている宝の山を見るだけで楽しいじゃないかと、その楽しさをみんなに伝えたいなっていうところが動機なんですよ。

でね、ハックしてるというのは楽しいことだと。それを誰かに伝えないとっていう自らの、内なるパッションがあって、それを書いてみたんです。そうしたら、吉岡さんの記事をきっかけに何となく見てみましたとか、そういう人はやっぱり少なからずいるわけですよね。

だからそこらへんで、Linuxのコミュニティーの中には、カーネルハックの面白さを伝えようとした人が、あまりにもいままで少なかったんじゃないかなと感じるんですよ。インストールだけで終わっていて。だからそれを言うと、たぶんコミュニティーの第1世代の人たちにはケンカ売ってるように思われちゃうかもしれないんだけど、だけどプログラミングの面白さっていうのはLinuxに限らずあるわけで、そこを伝えておかないと広がっていかない、要はプログラマーの層は広がらないような気がするんですよね」

本誌編集部「たとえば一般ユーザーの目から見ると、カーネルのソースとかプログラムってわりあいどうでもいいっていうか、そのプログラムをつかって自分が何ができるかというのがやっぱり一番興味あることですよね。で、Linuxをインストールしてるユーザーにも、それこそプログラマーじゃない人もたくさんいるわけですから、“これで何ができる”、“何々が面白い”というのは1番興味があるころじゃないですか。

いま、ディストリビューションとかいろいろあって、そこで、みんなガンガン、インストールしてるんですけど、この次の段階っていうのは、今年後半ぐらいから次の段階にいかざるを得ない、Linuxの雑誌も次の段階を考えなきゃやらないところだと思うんです。果たしてどういう方向性がこれからあるんでしょう? 特に風穴さんあたりにとっては、それこそ雑誌作りの要のような気がするんですけど」

風穴「どうなんでしょうね。確かに傾向としては、プログラム書くという人たちが増えていますよ。カーネルには名前が載ってないですけど、みんなそれなりにやってきたっていう面もあるんですよね。ただ、カーネルのソースコードに載っている名前という面ではFreeBSDのほうが多いですよね」

吉岡「FreeBSDのほうが多いですよね」

本誌編集部「FreeBSDではバークレーで実際に中心でやってらっしゃる日本人の方、いますよね」

風穴「それ以外にも日本から名前入っている人、けっこういるんですよね。FreeBSDはわりとアカデミックなバックグラウンドがあるんで、日本の大学院教育で言えば、いまのインターネットを作ってきた人たちがみんなFreeBSD的なハッカー、慶應の村井さんなんかもそうだし、日本的にはそういう技術を持った人たちがFreeBSDを使っていた。一方、Linuxは、本当にアマチュアだったところからきた面があるんで、そういう違いは多少あるような気がしますけど」

吉岡「日本のインターネットっていうのは、やっぱり村井さんがテクニカルリーダーになってずっと引っ張ってきましたよね。で、彼はアカデミックな立場にいるにもかかわらず、ビジネスの人たちとも非常によくコミュニケートしていて、それを束ねるというカリスマ的なものがあるんです。彼が緩衝地帯になって、彼が言うんだったらそれでいこうみたいな雰囲気が、ビジネスからもそうだし、アカデミックからもそうだし、そこの下にすごい若手の人たちが育ってきたわけですよね。

そういう面があって、日本のインターネットというのは極めて健全に発展してきたし、技術的な問題も要所要所で、わりと上手に解決していったということが総括してあると思うんです。

だけど、日本のLinuxは、じゃあテクニカルリーダーが誰で、ビジネスの人とアカデミックをどうやって束ねていくカリスマがいるかっていうと、ちょっといないですよね。そこが日本のインターネットとLinuxコミュニティーの非常に大きな差になっているんじゃないかなと。

実際、WIDEのプロジェクトなんていうのは、教育現場でもあれば研究機関でもあって、新しい技術の実験場所でもあるという理想的な場所ですよね。Linuxがそういった場所を持っていないということを、真剣に日本で考えてもいい時期なのかなって感じがします」

風穴「村井さんは、技術的にもすごいんだけど、ビジネス的な才覚というか、まわりを引っ張って来れたっていうところがすごい。村井さんは、インターネットはテクノロジーと、それを実際にどう運用するかっていうのを両手でしっかり離さないようにしろって言っているんです。ネットワークって動いてなんぼですからね。いくら机上で研究してても全然だめで、実際に動かして、しかも長い間ずっと信頼性を保ってきたものを運用し続けるっていう基本ですもんね。それを本当によくやってきたなと。本当に希有な人だと思いますけどね」

出でよ! 小(さ)村井(むらい)

清水「Linuxの場合、日本でそうやって、村井さんみたいな感じで進めていくような人もいるんでしょうかね」

風穴「ユーザー会というレベルでは、生越さんがやってきたぐらいですかね。いま、ちょっとビジネスも入ってきた面で、本当に村井さんみたいな人がいないっていうか、いまちょっと転換期にあるのかなっていう気がしますね。企業の人も含めて、村井さんのようには引っ張れていない面がありますよね。JLAっていう日本Linux協会に期待されているほどは、実際にやれていないということはあると思います」

清水「そのやらない部分というのは、JLAがまずいんですか」

風穴「いや、まずいってことじゃないんです。私は内部の人もたくさん知ってるけれど、それは大変な思いをして、みんな一生懸命やってるんです。だから、一概にそんな、だめだとは言えないけれど。

Windhole 風穴 江氏。Linuxがブームになる以前から、Linuxを追いつづけていたという正真正銘のLinuxウォッチャー
Windhole 風穴 江氏。Linuxがブームになる以前から、Linuxを追いつづけていたという正真正銘のLinuxウォッチャー



とにかく現状としてうまく回っていないってことは確かなので、何とかしなければいけないと思いますね。そのために、どうすればいいのかはわからないけれど。一番簡単なのは村井さんみたいな人が彗星のように現れて(笑)、グイグイ引っ張っていけばたぶんうまくいくんじゃないかとは思うけれど。そんなうまくいくわけはないんで。だけど、何かしないと、やっぱりうまく回らないと思いますよ。いまの現状だと。

本誌編集部「Linux界の村井さんみたいな人たちに現われてほしいですね」

風穴「そんな簡単にはいかないですけど(笑)。本当に村井さん自身、世界的に見ても希有な人だと思いますよ。そういう人をあんまり何人も求めるなんていうのはぜいたくすぎるのではないかというぐらいに(笑)。

OS普及のものさしは1つか?

本誌編集部「実際、Linuxというのはどこまでいってほしいとみんな思っているんですかね。それこそアンチマイクロソフトな人たちはWindowsを駆逐して、みんながLinuxを使えばいいと思っているんでしょうか」

風穴「それはすごく一部の意見じゃないかと思うんですけどね」

本誌編集部「現状として、一般的なユーザーがLinuxを使うのかっていうと、やっぱり使わないと思うんですよ」

風穴「いまの状態でいうところのOS、何ていうのかな、おもちゃみたいな位置づけでは確かに使わないでしょうね。でも、さっき言ったみたいに組み込み用途だとか、あるいはWebTVみたいなセットボックスの中に入っていたとしたら、それはもちろんLinuxを使っているという意識はないだろうけれど、結果的に使っているようなことって、これからあるんじゃないかと思いますけど。エレベーターのボタンを押して、実はそのエレベーターのファームウェアにはLinuxが入っていたとか、そういうことはあるわけで」

本誌編集部「その例で言うと、たとえば、TRONは死んだと思っている人は多いですけど、実はITRONはすごい使われているんですよね」

風穴「BTRONは確かに思い通りにはいかなかったんだろうけれど、ITRONという意味では非常に成功したというか、ある面では共通化したっていうか、功績は大きいと思うんですよね」

本誌編集部「Linuxもそのような感じになるかもしれないと?」

オープンソースであることの意味、その原点に帰る

風穴「別にLinuxというのは、“これはこうやって使うもので、こうやってはいけません”、みたいに押しつけられるようなものじゃないですよね。自分で好きなように、それこそソースコードをいじれるんですから、好きなようにすればいい。だけどソースを触る、あるいは見るような人は少ないという現状は確かにどうかなと思うんです。だって単に使うだけだったらWindowsでも一緒じゃないですか。中見ないで使うんだったら、たぶんWindowsでも一緒ですよ」

本誌編集部「Linuxを推進する立場にある風穴さんでも、中見ないで使うのならWindowsでもいいだろうと思うわけですか?」

風穴「思いますね」

吉岡「だけどよく言われてるんですよね、“Linuxはオープンソースだから、最後のところはソース見て、バグをフィックスできる”なんて受け売り的なことを右から左に言う人はいるんです。でもそういう人たちに対しては、“おまえ、本当にソース見たことあるのか”と言いたいですね。いないんですよ。そういう受け売りを言ってもしょうがなくて、ビジネスの現場で困っているのをどうやって解決しようかというのは、別にオープンソースだろうがクローズソースだろうが関係ない。

だから、そういう受け売りのほとんどはね、実際にあんまり関係ないことなんですよね。それがある意味でLinuxの光と影というふうに、絶対どこかで言われちゃうことなんだけど、あんまりはしゃぐんじゃなくて、もう少し地に足をつけて、どうしようかなっていうのを議論しないと、後半戦、そら見たことかっていう話はいくらでも出てくるでしょうね」

風穴「オープンソースであるってことだけじゃだめなんですよね。それだけで別に信頼性のあるシステムになるかっていうと、そんなわけはありません。だって、別にソースコードを見られなくても、要求したらすぐ、迅速に、素早くきれいに直してくれるパートナーがいればいいじゃないですか。結果的には同じことですよね」

清水「それは組み込みという意味ではなく、オラクルの中に合体しちゃうとか、そういったものはあるんでしょうか?」

吉岡「可能性としてはありますよ。前回のサンノゼコンファレンスでLinux版オラクルを発表しました。その際にわれわれはこういうふうに作りましたと、カーネルのバージョンとかの紹介があって、そのあとに何を言ったかというと、Linuxに対するオラクルの要求をリストアップしていたわけですよ、こういう機能が必要だと。Linuxのコミュニティーにとってみれば、それまではそんなことを言ってくれる人は誰もいなかったわけですよ。自分の好きをことを勝手にやっていたわけだから。

ところがデータベース管理システムというのを実装するにはこういう機能が必要だとか、SMPだとどうなんだ、2GB以上のファイルシステムだとどうだ? インターコネクトではどうだ? などなどバーっとリストがあったんです。そういうことの議論というのは、従来はハードベンダーのOSを作っている部隊、SUN、HP、IBMの何とかっていうプロ同士の玄人(くろうと)の世界でしか聞けなかった話題が、Linuxだから誰でも聞けるわけですよね。それはもう新しい世界ですよね」

本誌編集部「Linuxは自由に改変できたわけですけれども、それは逆に言えばどう改変していかなければならないということも、全部自分で考えなければならなかったわけですよね。それがオラクルが指針を示したりすると、努力目標ができるわけだから、これは方向性として進みやすいものが与えられたという考え方ができるわけですね」

(Vol.3に続く)

【お詫び】
本対談の掲載にあたり、一部の用語と人名につきまして、表記の確認を取らずに記事を掲載いたしました。以上におきまして、関係者および読者の皆様にご迷惑をお掛けしたことをお詫びし、訂正させていただきます(ascii24編集部)。


【関連記事】【夏季特別企画 Linux対談 Vol.1】「冷奴が食べたいだけの関与者も、大豆をまくところから始めなければならないのか」
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http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/1999/0811/topi02.html

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