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MCFセミナー開催--モバイルコンテンツの現状と標準化動向について

1999年08月02日 00時00分更新

文● 編集部 綿貫晃

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イージーインターネット協会は28日、会員に向けて“モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)セミナー”を開催した。テーマは“モバイルコンテンツの現状と標準化動向/拡大するコンテンツ環境”。講演は、経路・運賃検索ソフト『JRトラベルナビゲーター』を開発した(株)ビーマップの杉野文則氏、トヨタ自動車(株)でモバイル向け情報システムの標準化を検討している金光寛幸氏、音楽コンテンツの配信サービスを展開している(株)ブイシンクの井部孝也氏の3人が行なった。

なお、イージーインターネット協会は、家電製品をインターネットに接続し、誰でも簡単にインターネットが利用できる環境を整備することを目的に、家電メーカーや通信サービス企業、コンテンツ提供企業などによって設立された任意団体。現在37社が会員企業となっている。また、“モバイル・コンテンツ・フォーラム”は、モバイルコンテンツ環境の普及のために、情報センターとしての機能を目指して、4月にイージーインターネット協会内に設立された。

(株)ビーマップの代表取締役である杉野文則氏
(株)ビーマップの代表取締役である杉野文則氏



最初に、(株)ビーマップの代表取締役である杉野文則氏が、“携帯電話、PHS、PDA向けコンテンツ開発について”というテーマで、海外の事例を交えつつ講演を行なった。

まず、杉野氏は海外でのモバイル通信に関係する基本技術について説明を行なった。同氏は、「今、海外で話題となっている技術は、携帯情報機器向けの短距離無線データ通信技術である“Bluetooth”。この技術によって、今年中にパソコン、カメラ、腕時計などとの接続が可能となり、来年には家の玄関の鍵などにも利用できるようになるといわれている。このほかにも、携帯電話でインターネットと接続するための通信手段である“WAP”、携帯端末と携帯電話を融合させるOS“EPOC”、次世代携帯電話の通信方式である“W-CDMA”などが話題になっている」と述べた。

コーヒーの自販機が個人の好みをウェブ経由で取得

また、モバイル通信を使った海外の具体的な事例について触れ、「スウェーデンでは、生活に密着したさまざまなサービスが行なわれている。例えば、短距離無線通信を利用して各家庭の電気料金を集約し、携帯電話経由で電気事業者にデータを送ることをしている。また、面白いコーヒーの自販機もある。これは、まず自分の好きなコーヒーのブレンドをウェブに登録しておく。自販機でコーヒーを買おうとすると機械が個人嗜好データを携帯電話経由で取得し、自動的にブレンドされたコーヒーが販売されるというものである。スウェーデンでは、このようなさまざまなモバイル通信を使ったサービスによって、2001年の全移動通信電話のトラフィックの50パーセントが、データ通信になると予測している。

フランスでは、携帯電話のショートメッセージ機能を利用したコンテンツサービス“KIOSQUE”が普及している。コンテンツは電話帳から、関係者のみが見られる個人の学校の成績表まで広範囲に渡って提供され、このKIOSQUEの普及によってインターネットの普及が遅れているという話もある」と語った。

いつでもどこでも必要な情報を提供

次に、携帯電話やPHS、PDA向けのコンテンツ開発において、重要とされるキーワードを7つ挙げた。

●金融:モバイルバンキングや株取引など。頻繁に使うわけではないが、安定したユーザーを確保できる。

●ナビゲーションサービス:経路探索や地図探索、ホテル検索など。速い検索が必要となる。

●暇つぶし:音楽やゲーム、カラオケの配信など。日本では通勤時間が長いため需要がある。

●コミュニケーション:電子メールやチャットなど。手紙の代わりとして、今後も普及が見込まれる。

●電子クーポン:店頭でモバイル端末上のクーポンを見せ、商品の割引などを行なうもの。

●広告:ただ広告を出すのではなく、掲載データとうまくリンクさせた広告展開が必要である。

●位置情報:PHSを利用した位置情報サービスなどを利用したサービス。時刻表や天気、タウンページなどの連動が重要となる。


同社では、これらのサービスを融合させ、旅行先での他の旅行者との交流や地元情報の取得、他の交通手段の利用者との交流、イベントにおいての駅周辺情報や天気など、モバイル端末を持った人がいつでもどこでも必要な情報を取り出せるサービスを行ないたいとしている。

トヨタ自動車(株)の金光寛幸氏
トヨタ自動車(株)の金光寛幸氏



次に、トヨタ自動車(株)の金光寛幸氏が、“POIXとモバイルコンテンツ”というテーマで講演を行なった。金光氏は、モバイル向け情報システムの標準化を検討しているモバイル標準化検討会の委員でもある。

カーナビとモバイル端末が情報を共有

金光氏はカーナビの情報提供サービスについて、「現在、各社のカーナビ向けに、交通情報や気象情報、電子メールサービスなどの情報提供サービスが行なわれている。ただし、データフォーマットやプロトコルは各社で独自のものを使用しており、互換性がない。そこで、コンテンツの基本的な情報を標準化して、モバイル向けの情報システムで共通利用するため、モバイル標準化検討会が発足された。メンバーは、自動車関連企業、地図関連企業、カーオーディオ企業など23社が名を連ねている。標準化を目指すフォーマットは、“POIX(Point Of Interest eXcange language:ポイクス)”。これは、XMLで設計され、インターネット上で位置情報を記述・交換するためのフォーマットとなっている」と述べた。

続いてPOIXについて、「POIXの特徴は、カーナビやモバイル端末での利用を考慮して、シンプルな構造となっている。記述は、基本的に対象の位置や位置関連情報のみとなっており、それ以外の記述はすべてリンクを埋め込むことになる。POIXに対応した端末やカーナビであれば、単なる位置情報だけでなく、位置情報への電子メールの添付や、ウェブ上での場所案内、場所に基づいた施設検索などのサービスを機種に依存せず受けることが可能となる。

実際にPOIXを情報提供サービスに適用して、実験を行なったが、異機種間で問題なくデータのやりとりが行なえた。今後は、製品やサービスを含めたPOIXの普及活動を行ない、位置情報機能付きのモバイルに向けたウェブページの作成ガイドラインなどを策定していきたい」と語った。

(株)ブイシンクの専務取締役である井部孝也氏
(株)ブイシンクの専務取締役である井部孝也氏



最後に、(株)ブイシンクの専務取締役である井部孝也氏が、“音楽の電子流通化”というテーマで講演を行なった。

ブイシンクは、音楽コンテンツのネットワーク配信サービスを行なっている企業。現在、レコード店の店頭にて、光ファイバー網を用いてMDに音楽コンテンツをダウンロードする装置『ミュージックポッド』を試験的に展開している。

『ミュージックポッド』の外観
『ミュージックポッド』の外観



井部氏はミュージックポッドについて、「ユーザーが欲しい曲だけを、サーバー上の数100万曲の楽曲の中からMDにダウンロードすることができる。この電子流通によって製造コストや配送コスト、在庫、返品を無くし、楽曲の低価格化を図ることができる。また、音楽人口の底辺拡大も図ることができるだろう」とコメントした。

ミュージックポッドで流通在庫を無くす

また、日本の音楽流通について、「現在の音楽流通では、パッケージがレコード店で販売されるまでに、レコード会社から卸業者、物流業者までいくつも手続きが必要で、流通在庫が生じる可能性が高い。実際に、現在の流通在庫は2500億円あるといわれ、そのうち1000億円が不良在庫ともいわれている。ミュージックポッドを利用した電子流通では、原盤権者から渡された音楽データを直接ユーザーに販売するため、これらの流通在庫を完全に無くすことができる」と語った。

米国の音楽業界の動向については、「音楽業界大手であるSony Music Entertainment社(SME)、BMG Entertainment社(BMG)、EMI Recorded Music社(EMI)、Universal Music Group社(UNG)の4社は、それぞれウェブを通じた音楽配信を行なう企業と提携を行なっている。さらに、SMEとEMIでは、ミュージックストアで音楽ダウンロードサービスを提供するため、米Digital On-Demand社と提携を行なっている。 このダウンロードサービスは、ミュージックポッドと同じ発想のものである。米国ではインターネット通販で音楽パッケージを買う人は10パーセントで、残りの90パーセントのユーザーが店頭で買っている。この数字を見ると、ウェブ上での音楽配信だけでなく、ミュージックストアでの音楽配信が普及していくのも間違いない」と述べた。

実現には音楽業界関係者間の積極的な協議が必要

今後の展開については、「日本では、ミュージックポッドを利用した電子流通を来年には事業化させたい。ただし、日本では2次使用の権利などが絡んだ独特で複雑な著作権の問題が多くあり、音楽業界関係者間の積極的な協議が必要である。ネットワーク配信の関心は高まっているが、利益や法に関わる問題もあるため、協議はなかなか進まない」と積極的な協議開催を訴えた。

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