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「『ルパン三世』と同じツールを使う劇画で柄が一緒になってしまった」--プリンコム'99

1999年07月23日 00時00分更新

文● 平野晶子

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東京国際フォーラムで21日、22日の両日開催されたプリンコム'99(主催:沖データ)ではDTP、インターネット、グラフィックス関連のセミナーが多数開かれた。その中で、今回は、22日の“夏休み特別企画”の模様をお伝えする。

このイベントは3部構成になっている。Macの使い手として有名な人気漫画家モンキー・パンチ氏、女優の新保あさ氏、Mac Fan internet編集長の林一郎氏をゲストに迎えた。司会を務めるのは、Mr.Tipsこと立野康一氏である。

当時の苦労がしのばれる。幻のLisaでいんちきDTP実演!?

第1部のタイトルは“幻のLisaで実演! 今だから笑えるいんちきDTPから現代DTPまで”。Macコレクターでもある立野氏が、“Mac以前のMac”、Lisaを会場に持ち込み、実際にオペレーション。DTP黎明期の苦労話などを林氏とともに語り合った。

Lisaの画面。現在のMacと基本的なデザインはほぼ同じだ
Lisaの画面。現在のMacと基本的なデザインはほぼ同じだ



Lisaは'83年、スティーブ・ジョブス氏によって世に送り出された幻のマシン。その名はジョブス氏の娘にちなむ。

内蔵時計が'94年までしか認識できず、「2000年問題以前の話ですね」と立野氏。スクリーンに表示されるディスプレー画面は現在のMacとほぼ同じ。電源を急に切っても、デスクトップを自動的に片付けるまではダウンせず、再起動の際には終了以前の状態を復元してくれるという、便利な機能があることも紹介された。

日本にDTPが入り始めた当初は、日本語対応のDTPソフトがまだなく、テキストはワープロ、レイアウトと画像はDTPソフトで別々に出力し、テキストをはさみと糊で文字どおり“カット&ペースト”していたなどという、今では信じられないような話も飛び出した。

各種Mac雑誌のライターもこなす立野氏が、インターネットの発達によって原稿送信が楽になった半面、締切を遅らせる口実が作りにくくなったという話を紹介。そこで、最大で6年も締切を過ぎた原稿を抱えているというモンキー・パンチ氏と新保あさ氏が登場。第2部に移った。

『ルパン三世』のキャラクター裏話

第2部はモンキー氏によるイラスト制作の実演。雑誌の表紙用に描いた『ルパン三世』のイラストが生まれるまでを、Photoshopとタブレットを使いながら解説してみせた。

Macでのイラスト制作を実演するモンキー・パンチ氏
Macでのイラスト制作を実演するモンキー・パンチ氏



同氏は構図のアイデアを練る際、まず雲から発想するという。特に台風の過ぎたあとにはきれいな雲が出るとか。自宅の窓から見える空の雲を撮影し、それをパソコンに取り込んで、その上にラフにキャラクターを載せていくのだ。峰不二子の位置が決まると、「あとは感性」で、ルパン、次元、五右ェ門の配置が次々に決まる。

モンキー氏は、イラストの構図を雲から発想する。左上に不二子が
モンキー氏は、イラストの構図を雲から発想する。左上に不二子が



雲の上でのラフ(裸婦?)スケッチは最終的にこんな絵になった
雲の上でのラフ(裸婦?)スケッチは最終的にこんな絵になった



雲の写真の一部を切り抜き、回転させた状態でアイデアを練った構図
雲の写真の一部を切り抜き、回転させた状態でアイデアを練った構図



不二子は当初、裸で描かれていたが、「女性を描く時はまずヌードにしておいたほうが、あとでどんな衣装を着せるにも描きやすい」からだという。ちなみに女性を描く際に最も注意を払うのは、彼女たちの“しぐさ”だそうだ。

パソコンを使い始めた当初、同じくパソコンを使って描くことで知られる漫画家、寺沢武一氏の描く『コブラ』とルパンのネクタイの柄がまったく同じになってしまったこともあるそうだ。当時、2人がともにKais Power Toolを使用していたことから生まれたエピソードだという。

モンキー氏が中座している間に秘密の絵を暴露

ここで、休憩をはさんで第3部へ。引き続きモンキー氏による実演をメインにしながら、出演者全員でDTPのメリット、デメリットについて語り合った。

ところが、開始時間を過ぎてもモンキー氏が休憩に行ったまま戻らない。その待ち時間を使って、彼の弟がSTRATA STUDIO PROで描いたという3DCGのルパンを立野氏がこっそり披露。「子供のころのルパンはどんなふうだったろう」と描かれたもので、そのままフィギュアにできそうな可愛らしいデザイン。会場から笑いも漏れたところで、ようやくモンキー氏が現われた。

モンキー氏の弟さんが3Dで描いた“子供時代のルパン”
モンキー氏の弟さんが3Dで描いた“子供時代のルパン”



細かい宝石を描くのも、パソコンなら容易だとモンキー氏
細かい宝石を描くのも、パソコンなら容易だとモンキー氏



コンピューターで絵を描くメリットは、「ダメならすぐに消せること」というモンキー氏。実際にタブレットで描いては消しつつ、ルパンをはじめとする主要キャラクターが生まれるまでを解説。

例えば、次元はルパンを基にしており、彼の特徴的な目を隠すために帽子を目深にかぶらせ、髭を加えて変化をつけたのだそうだ。どれも時間のない中で勢いに任せて作ったものだというが、「そういう時の方がうまくいく。計算づくで作ったものを読者は敏感に察知する。かえってウケないものだ」と経験を語った。

資料集めから作品制作まで1人でこなすSOHO時代に編集者は不要?

無国籍性が特徴のルパン三世では外国が舞台となることも多い。その際、インターネットがモンキー氏の重要な武器になる。例えば、現地の人から風景写真などを送信してもらったり、場合によっては最初から絵に描いてもらって、そのデータを合成して使うこともあるそうだ。もちろん、資料収集にも活用しているという。

作品制作をデジタル化し、ネットワークが発達した結果、都心に住む必要がなくなり、アシスタントも同じアトリエにいる必要はなくなった。SOHOのお手本ともいうべき先進的な仕事スタイルである。

滝口氏も「最近は、最初の打ち合わせの後は1度も顔を合わせずに仕事をするライターの人も多い」と、少なくともコンピューター雑誌の世界ではネットによる原稿のやりとりが当たり前になっている現状を紹介。モンキー氏にも1度も顔を合わせたことのない編集者がいるとか。それなら作家から直接印刷所にDTPデータを送り、編集者はあくまでアドバイザーとして、必要な時のみ関与するようにした方が面白いのでは? と立野氏が提案した。実際、編集はおろか製本まで自分でやってしまう作家も最近ではいるという。

最後に、会場からモンキー・パンチというペンネームの由来を問う質問が出た。これは氏が最初に漫画を描いた時、編集長の清水氏(故人)が無国籍性を強調するような名前を、と勝手につけたもので、最初は非常にいやだったという。

しかし、清水氏は作家が誰も評価しなかった『クレヨンしんちゃん』のヒット性を見抜き、世に出したほどの名編集長。彼を尊敬するようになり、今はこのペンネームに誇りを持っているそうだ。

DTP時代における編集者不要論で終わりそうだったこのイベント、結局は作家とは異なる視点を持つ編集のプロの存在意義を印象的に語って幕を閉じたのだった。

PRNCOM会場の“Macintosh博物館”には立野氏所蔵のコレクションが展示。Lisaもあった
PRNCOM会場の“Macintosh博物館”には立野氏所蔵のコレクションが展示。Lisaもあった



“Macintosh博物館”より、モンキー・パンチ氏サイン入りの20周年記念Mac
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