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【メディアの足し算、記号の引き算Vol.5】――岩井俊雄氏のインタラクティブアートの集大成を披露

1999年07月22日 00時00分更新

文● 平野晶子

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岩井氏の創作の秘密が明かされる

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で6月22日から開催中の特別展“メディアの足し算、記号の引き算”が20日閉幕した。会期中は作品展示のほか、数々の魅力的なセミナーなどが開催されてきた。17日にはメディアアーティストとして国際的な活躍を見せる岩井俊雄氏の講演が行なわれた。

会場は学生を中心に満席状態。整理券を持っていない人々が入口で空席が出るのを待つ姿も見られ、特に若い層への人気の高さがうかがえた。岩井氏の作品にはICCで常設展示されているものもあり、2年前には個展も開催されるなど、彼とこの場所との関わりは深い。

この日は、現在ICCで展示中の“テーブルの上の音楽”と、4月下旬から5月初めまで銀座で開催された“超感覚ミュージアム”のための作品“エッシャー的空間変容装置”の2つを軸に、岩井氏の創作の秘密の一端が明かされた。両作品は今年3月にほぼ同時に制作されたものだという。過去の作品に関してもビデオはもちろん、実演も交えて次々と披露。「今日は僕の集大成」との本人の言葉通り、ボリュームたっぷりの2時間となった。

たくさんの小道具に囲まれた岩井氏のステージ
たくさんの小道具に囲まれた岩井氏のステージ



デザインの原案を見せながら、日頃の創作プロセスについて語る
デザインの原案を見せながら、日頃の創作プロセスについて語る



“テーブルの上の音楽”は、ディズニーのアニメとビデオゲームがヒントに

まず、前半は“テーブルの上の音楽”が生まれるまで。音楽と映像を連動させることは、岩井氏の1つの大きなテーマである。その点で彼に大きな影響を与えたのは、ディズニーの『ファンタジア』(40)などにも参加したオスカー・フィッシンガーの実験アニメーションの類いだったという。上映されたのは、音楽に合わせて幾何学的パターンがダンスをするモノクロ作品。すべて手描きで制作されたもので、岩井氏は「これを見ると僕のコンピューターの使い方もまだまだだなと思う」そうだ。

もう1つ彼のヒントになったのはビデオゲームだ。これに初めて触れた時、岩井氏は“映像を演奏できる楽器”と思ったという。「例えばマリオの動きとバックの音楽が連動して、自分もそれに合わせてジャンプさせてみたりできる。シューティングゲームなどでも同様のことができる」(岩井氏)。このように、音と映像が連動し、さらに人がそこに関与できること、それが岩井氏の目指す方向なのだ。

これらを踏まえ、“Piano--as Image Media”や水戸芸術館で行なわれた坂本龍一氏とのコラボレーションなど、過去のこの系統の作品が次々に紹介された。特に、坂本氏との作品では、単に音楽に合わせて映像が動くことだけではなく、その映像を見ることによって、演奏にも何らかの影響が及ぼされることを狙ったという。その意味でも、まさにインタラクティブアートなのだ。

この後、MIDIコントローラーとコンピューター内の画像を連動させ、ボリュームつまみをディスプレーに接着。これを回すと、画像の方も回転するといった面白い試みも紹介。また、碁盤目状に穴の開いたプレートにセンサーを仕込み、その上にビー玉を載せるとコンピューターが配置をスキャンし、それぞれの位置に応じて異なる音を発するという装置も登場。岩井氏が実演してみせた。

無作為にビー玉を並べただけなのに、いつの間にか1つの音楽になっているという不思議! 同時にディスプレーには、ビー玉の配置から生まれるコンピューターグラフィックスが表示されている。ビー玉は一定の間隔で発光するようにもなっており、照明を落した会場は、ちょっとしたライヴハウスの雰囲気だった。

つまみを回すと画像も一緒に動く。インターフェースの面白さも岩井氏の関心のひとつ
つまみを回すと画像も一緒に動く。インターフェースの面白さも岩井氏の関心のひとつ



次々と実験をしてみせる岩井氏。どことなく大道芸人の風情
次々と実験をしてみせる岩井氏。どことなく大道芸人の風情



映画が発明される以前の動画表現装置に着想を得たデジタル作品

引き続き、第2部として“エッシャー的空間変容装置”制作に至る岩井氏の研究成果が、楽しく紹介された。デジタルアーティストの印象の強い氏だが、このコーナーはアナログな19世紀の映画前史といった内容となった。“驚き盤”、“ゾートロープ”といった、映画が発明される以前の動画表現装置を実際に動かして見せながら、これらに着想を得た自身のデジタル作品も紹介。"驚き盤"をCGで再現してみせたり、ゾートロープの内部の巻き物イラストを立体オブジェクトに変えてみたものなど、楽しみながら実験してきた様子が伝わるものばかり。

特に、ゾートロープで表現される画像が、手前のものは太く、奥のものは細く見えるということに気付いたことが、ベルギー、アントワープの駅ビルのために制作した“Another Time, Another Space”のヒントになっているという。そこを通る人々の姿が歪んで見えたり、1人の人物が4分割され、それぞれの部位で動きの時間をずらしてみせるなど、市民がおもしろがって参加している様子がビデオで映し出された。

また、ゾートロープに入っているスリットを縦の直線ではなく、らせん状のものにした装置を考案。そこにストロボの光を当ててやると、中に入れた真直ぐな木材がくねくねと曲がって見えたり、2つに割れてメビウスの輪のように絡み合ったりする。ほの暗い場内に浮かび上がるホログラフィーに、会場は拍手喝さい。

驚き盤(左)とゾートロープ(右)
驚き盤(左)とゾートロープ(右)



改良を加えたばかりの“エッシャー的空間変容装置”でパフォーマンス

その後、いよいよ“エッシャー的空間変容装置”へと話は移行する。小型のスライドプロジェクターにモーターを取り付け、そこに“驚き盤”のものと同じスリット盤をセットする。さらに家やリビングセットの模型を高速回転させ、そこにこの装置の光を当ててやる。すると、ストロボ効果でホログラフィーが立ち上げるのはもちろん、それが伸びたり縮んだりしながら、通常は同時に見ることのできない2つの面が、一瞬見えてしまうという不思議なアニメーション効果がもたらされた。

ここまでは“超感覚ミュージアム”のものと同じなのだが、それだけに留まらず、この前日に改良したというものもパフォーマンスした。縦の直線ばかりだったスリットを1本、1本、カーブさせていったのだ。「スリット自体にアニメーションさせたらどうなるか」(岩井氏)という実験である。結果、家の足元の部分がモジモジと左右に振れるような動きがもたらされた。岩井氏いわく「ちょっとディズニー入ってるなって動きでしょう」。確かに動物キャラクターが甘えたり、照れたりした時のような感じの動きなのである。

スリット自体をアニメ-ションさせた回転盤
スリット自体をアニメ-ションさせた回転盤



“エッシャー的空間変容装置”のプログラムスケッチをディスプレーする岩井氏。家の模型が変型する様子が映し出される
“エッシャー的空間変容装置”のプログラムスケッチをディスプレーする岩井氏。家の模型が変型する様子が映し出される



デジタルとローテクが生む可能性

最後に驚き盤の発明者でもあり、視覚の研究でも知られる科学者、ジョセフ・プラトーを紹介し、コンピューターを使った創作だけでなく、純粋に視覚、人間がものを見るとはどういうことなのかを知ることから得られる映像制作の可能性について語った。岩井氏の中にデジタルとローテクが生む可能性の、2つの方向性が明確になりつつあることが示され、閉幕した。

特徴的だったのは、彼が“実演”にこだわりを見せたことである。特に後半、実験を披露する姿は大道芸人を思わせるものがあり、彼が単なるコンピューターオタク的なアーティストではないことがよく伝わってきた。

実際、“テーブルの上の音楽”はコンピューターで制作されたものを1人ではなく、複数の人間で楽しめるようにしたいという気持ちから生まれたものだというし、今回の講演自体のデザインは19世紀の科学者の公開実験をイメージしたものだと語る。

教壇に立つことは拒否しつづける岩井氏だが、「このように僕のやっていることを見ることで、誰かがそれに触発され、新しいことを始めてくれれば」と言う。

終了後、サインを求める学生達の行列ができたが、1人ひとりと親しく語り、丁寧にイラストを描き続ける姿が印象的だった。

デジタルを駆使して新しい作品を生み出しながら、アナログなローテクにも関心を寄せ、人と人が触れ合う中から生まれる可能性も大切にする、そんな岩井氏に新世紀のデジタル社会の1つの理想を垣間見る思いがした。

終了後もサインを求める学生らと親しく語る。手前は“エッシャー的空間変容装置”に使用された家の模型 
終了後もサインを求める学生らと親しく語る。手前は“エッシャー的空間変容装置”に使用された家の模型 

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