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NECC'99視察&日本事例発表報告会が開催(後編)

1999年07月22日 00時00分更新

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初の日本人セッション

7月15日、タイム24ビル内の東京メディアポートで“NECC'99視察&日本事例発表報告会”が行なわれた。NECCとはNational Educational Computing Conference、すなわち米国で実施されているコンピューター教育コンファレンスの略称。今年は、6月21日から27日に米国のアトランティックシティーで行なわれた。

日本からは、NECA(Nippon Educational Computing Association)設立準備室の呼び掛けに応じて、教育者・コンピューター企業関係者などが集まり、NECC'99を視察・参加。本稿では後半部についてお伝えする。

東京学芸大学助教授の小池敏英氏、所沢西高等学校家庭科教諭の西澤廣人氏の両氏は、コンファレンス最終日の6月27日、日本でのコンピューター教育の事例について発表した。

今回の報告会では小池氏と西澤氏が、英語で行なったというプレゼンテーションを日本語で再現。また、他の参加メンバーの感想や報告も交えつつ、会場の様子をビデオで紹介した。スピーカーの2人はプレゼンテーション準備室にこもり、ジェスチャーを交えた練習を直前まで重ねた。

特に、現役高校教諭である西澤氏にとってはは、英語での発表は未経験のため、練習にも熱がこもっていたようだ。セッションは最終日とあって、参加者が集まるのかという不安も。折り鶴を作って目を引き参加者を誘導するなどの工夫もこらしていた。周囲のメンバーの努力もあり、本番は盛況、好評のうちに終了した。

ここで、米国で発表した事例を実際に両名が紹介した。両者ともにPowerPointで作成されたレジュメを操作しながら、わかりやすくプレゼンテーションを進めた。

所沢西高等学校家庭科教諭の西澤廣人(にしざわひろと)氏
所沢西高等学校家庭科教諭の西澤廣人(にしざわひろと)氏



パソコンを利用した家庭科教育の実践

家庭科教諭である西澤氏の学校では、イントラネット環境が整備されている。西澤氏は、“子供のためのお弁当”を調理実習の課題とした場合の、コンピューターを活用した授業内容を具体的に語った。

まず“プランニング”→“調理”→“プレゼンテーション”の3つのステップを設ける。生徒たちは数人ずつの班に分かれる。“プランニング”では、昨年の実習例をパソコンでブラウズし、参考にしながら自分たちの調理計画を立てる。調理実習ではパソコンは利用しなかったが、“プレゼンテーション”では生徒たちが自ら作ったお弁当のデジタル画像やイラストなどを組み合わせ、ウェブページを作成して、プロジェクターで発表する。

このような授業計画とその実践を“パソコンがない場合はこんなに不便”、“パソコンを使った場合はこのように便利”など、ジェスチャーを付けながらユーモアを交えて紹介した。

声の小さな生徒にはマイクを渡し、パソコンの苦手な生徒には、描いたイラストをスキャンしてやるなど、生徒をサポートする環境を整備していくことにより、生徒たちはよりよいプレゼンテーションを行なう自信をつけていく。他グループの発表を興味深く見ることで、批評眼も生まれる。学習に対するやる気や自信を、こうした機器の利用によってより大きく育てていきたいと西澤氏は語った。
 
今後は、西澤氏が個人参加しているACE(教育とコンピューター利用研究会)でネットワークを広げながら、学校でのインターネット利用にも積極的に取り組み、海外との交流を進めていきたい、と抱負を語った。

生徒の作ったお弁当の映像をPowerPointで示しながら発表する西澤氏
生徒の作ったお弁当の映像をPowerPointで示しながら発表する西澤氏



障害児教育へのパソコン利用

次に、小池氏が“障害児教育へのパソコン利用”について発表した。小池氏は、コンピューターはどのようにその障害を軽減できるのか、またどのような利用法が有効なのかという研究をしている。
 
障害と一口に言っても、運動障害、知的障害、学習障害などさまざまだが、小池氏はその中で、コミュニケーションを取ること自体が難しい、重度の心身障害児へのパソコン教育の実践とその成果を紹介した。

東京学芸大学助教授の小池敏英(こいけとしひで)氏
東京学芸大学助教授の小池敏英(こいけとしひで)氏



会話はもちろん、ほとんど自分では動くことができない子供であっても、パソコンの画面を見せて「OKなら舌を出してみて」などと指示をすれば、従える。それによって、障害児の意思を確認しながら、ともに楽しむ機会を与えることができるのは大きな成果である、と小池氏は言う。

小池氏のプログラムでは“駅”や“水族館”、“動物園”などが絵地図の上に散りばめられ、行きたいところをクリックすればムービーを見ることができる。外出もままならない重度障害を持つ子供でも、自分の意思で見たい場所を選択し、先生と一緒にムービーを見て“バーチャルピクニック”を楽しむことができるのだ。
 

子供たちは確かに楽しんでいる

重度障害であれば、こうしたパソコンの利用を障害児本人が楽しんでいるのかどうかの確認も難しい。しかし、心拍センサーなどの利用によるデータでは、画面が変わることによる“期待反応”などが確かに認められる。パソコンによるコミュニケーションは成果を上げているという。

このように、障害児をサポートする家族や指導する教員など、周囲の人々と障害児とがスムーズにコミュニケートできるようなパソコンの利用方法を研究、開発していくことが重要であると小池氏は語った。
 
また、見るだけではなく“数字合わせ”など、算数の教科学習に利用できるプログラムをウェブ上に用意し、障害児の家庭に利用してもらうという試みもなされている。結果をメールで研究室に送るシステムによって、学習成果に関する研究のデータとして利用される。このように、小池氏の研究は緻密(ちみつ)なデータ収集と分析によって裏付けられ、また新たな取り組みへと発展している、という印象を受けた。

障害児教育におけるパソコンのあり方を語る小池氏
障害児教育におけるパソコンのあり方を語る小池氏



企業と教育関連団体の相互協力は必須

ツアーメンバーであった京都リサーチパーク(株)の中村氏や(株)シナジー・パートナーズの鈴木氏も、各自の立場からNECCの感想を述べた。このような催しへの参加を通してアメリカの教育の現状やコンファレンス運営の方法論を学び、また日米間の交流を深めていくことは重要であると語った。

また今回の発表報告会出席者の中から何人かが、教育関係者や企業関係者などが、現在取り組んでいるプロジェクトや、コンピューター教育指導者の育成に関する問題点について述べ、意見を交換した。現在は個々に活動している教育関係のNPOや協力企業、行政がうまく連携を取りながら、今後のコンピューター教育を発展させていくべきであると、各々の立場から相互協力の必要性を述べた。
 
その言葉を裏付けるかのように、報告会終了後も出席者と発表者らがともに、教育やコンピューターについて語り合う風景が見られた。

NECC視察ツアーに参加した、京都リサーチパーク(株)の中村友紀氏
NECC視察ツアーに参加した、京都リサーチパーク(株)の中村友紀氏



NECC視察ツアーに参加した、(株)シナジー・パートナーズ社長、鈴木一氏
NECC視察ツアーに参加した、(株)シナジー・パートナーズ社長、鈴木一氏



報告会終了後の団らん風景
報告会終了後の団らん風景



≪船木万里≫

NECC
 http://www.cyber-net.co.jp/necc
【関連記事】NECC'99視察&日本事例発表報告会が開催(前編)
 http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/1999/0719/topi10.html

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