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【COMMENT】『e-one』発表に思う――『iMac』との類似点と相違点

1999年07月19日 00時00分更新

文● 本田雅一

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東京恵比寿ガーデンプレイスに設けられた(株)ソーテックの一体型PC『e-one』の発表会場に、予備知識なく足を踏み入れた私は、失礼ながら少し驚いてしまった。何しろ広い会場。すべてがプレス席というわけではなく、流通、販売店や関連会社の人たちが多くを占めているようであったが、それにしても大きな会場が溢れるほどの人数だ。

本日発表された『e-one』。デザインは『iMac』に似ているが……
本日発表された『e-one』。デザインは『iMac』に似ているが……



 もちろん、ソーテックが今年になって大きく売上を伸ばしていることは知っている。量販店の店頭と直販を合算すれば、直販のみであった昨年の売上を1ヵ月あまりで達成しているというのだ。韓国のTrigem Computer Products社、Korea Data Systems Products社といった製造会社との提携、積極的な宣伝戦略、そして低価格にダイレクトマーケティングモデル。さらに一部量販店でも販売。こうした要素を並べて、先日カシオに買収されたアキアを思い起こす人もいるだろう。

 日本から本格的なPCベンダーを生み出したい。そんな気持ちは、業界の中でも根強いものがあるように思う。日本のPCベンダーの多くは、PCの前に汎用機やオフコンなどを作っていた大手ベンダーばかりだ。PC製造のベンチャーとしてのし上がった会社は思い浮かばない。

 日本のPCベンダーを後押ししたいという気持ちは、PC業界に20年間かかわってきたソーテック代表取締役社長の大辺創一氏にもあったのではないか。氏はアキア(株)創立の後押しをした、という話も聞いたことがある。アキア創立時、業界全体がバックアップをする雰囲気があったが、今回も同じにおいを感じるのは気のせいだろうか。

 しかし、始まりに同じにおいを感じるからといって、結果も同じになるとは限らない。ソーテックには20年というPCおよびPC関連機器に関する長い歴史があるからだ。同社の製品は、すでに大手PCベンダーにOEMされて世界中で使われている。大辺社長の言葉を借りれば「勉強させてもらった」ということになるが、この勉強が騒がれるだけの時期を過ぎた時に生きてくるだろう。

 プレスとして贔屓をするわけにはいかないが、世界で通用するPCベンダーが育って欲しいという気持ちは、業界の人間として持っている。とはいえ、製品の評価となれば話は変わってくる。ソーテックのPCが魅力的な製品かどうかは、消費者側に立って冷静に行なわなければならない。

 e-oneに話を移そう。大辺社長が「iMacを全然意識しなかったということはないが、デザインそのものはまったくオリジナルで、各所に独自の工夫がある」と言う通り、実際に製品を目の前にすると、筐体の細部はiMacと異なる部分が多いことに気づく。しかし一方では、キーボード、色使い、コード類など似ている部分も多く、“オリジナル”と言われても説得力がない。また、筐体の材質(会場では具体的な材質に関してコメントをいただけなかった)に関しても、iMacには遠く及ばないというのが正直な感想だ。

 ただし問題はデザインではない。私はiMac信捧者ではないが、iMacが支持された理由は、切り捨てるところは切り捨て、必要な部分には十分お金をかけ、そしてソフトウェアを含めたトータルでの簡単さをアピールしたからだと思う。

 たとえばiMacには過去との互換性を維持するためのコネクタは一切無い。接続を容易にするためだ。ところがe-oneには、AV入出力端子、USB、ジョイスティック端子など、通常のPCが持っている標準的なポートがすべて揃っており、FDDも標準装備だ。キーボードとマウスはPS/2タイプである。PS/2だからといって悪いわけではないが、そのせいで本体のコネクターが増えてしまうというのはいかがなものだろうか?

 そうした意味を含めると、e-oneはiMacとはまったく異なるコンセプトのPCである。言葉が悪くて恐縮だが、デザイン以外は普通のPCなのだ。

 安く魅力的な製品を提供するビジネスモデルを構築したことには賛辞を送りたい。そして、デザインの分野で意欲的な挑戦をしたことにも敬意を表する。しかし、日本から世界にはばたくPCベンダーになるために、ソフトウェアとハードウェアが一体になった、新しい提案をe-oneに盛り込んで欲しかった。

 まだ実機を手元で評価していない段階で結論を出すのは早計だが、少なくとも発表会場の外に配置されたデモ機の説明を聞く限りには、新しい提案は感じなかった。今後に期待できる日本のPCベンダーだと思うからこそ、願わくば誰からも“マネ”と言われない製品の企画がソーテックから出てくることを期待したい。

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