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【立教大学社会学部設立40周年記念国際シンポジウム】Vol.3 多文化化の下におけるグローバルスタンダードの行方

1999年07月19日 00時00分更新

文● WebHut 高柳寛樹

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立教大学社会学部設立40周年記念国際シンポジウムが7月8日から3日間に渡って同大学太刀川記念館で開催された。最終日の10日は特別公演として、京都大学大学院の佐伯啓思教授を講師に迎え“グローバル化と経済思想”をテーマに講演が行なわれた。司会は、立教大学の斎藤精一郎教授。
 

グローバル経済が進行すれば、国家の役割は縮小するのか?

はじめに佐伯氏は'90年代のグローバル化の特徴として、“物”の流れを“金”の流れが超えたことを挙げた。“生産”が土台にあり、それが“貿易”を介して“物的交換”にたどり着くという、従来の一連の流れが崩れたことを指摘した。
 
具体的には、“国家と経済の関係”という文脈において、それまで定説とされていた「グローバル経済が進行すれば、国家の役割は縮小する」という議論に疑問を投げ掛けた。グローバル経済が進行すれば、確かに国家のコントロールは以前に比べ、効かなくなる。だからといって国家の役割が縮小するといえるのだろうか。

例えば、グローバル化が進めば、当然国家間の摩擦は拡大する。つまり、グローバル化の流れと相反する国家間の摩擦という動きが同時並行的に進んできたのが、この10年間だという。国民国家という歴史的正当性が与えられている集団がグローバル化の中で簡単に崩れることはない、とするのが佐伯氏の立場である。

金を引き付けられる国か

次に、'90年代の急速な“金”の流れの発展は、この“国家”をもすり抜けていることはまぎれもない事実である、と指摘した。国家が“金”を引き付けられなければ、必然的に失業が発生し、社会的不安定が生じる。したがってこの状況下で、国家はどのように“金”を引き付けるかという問題に無関心ではいられなくなるのである。結果として先にも述べた“国家間の摩擦”という現象が、グローバル化に伴って出現するのである。

この摩擦を是正するためには、政治的な調停・規制が必要不可欠であり、したがって安易に、グローバル経済のなかで国家が縮小する、などどはいえないのだという。
 

アメリカ的文化にも、ヨーロッパ的文化にも属さない日本がとるべき態度

また、「グローバリゼーションは、アメリカ-日本-ヨーロッパの情報伝達がスムーズであることを指していっているのではないか」という問題のもと、この“3地域”についての考察も行なった。

アメリカの特徴として、(1)高い情報発進能力、(2)高いイデオロギー操作力--の2点を指摘している。

アメリカ社会の理念である、自由競争、個人の自由、オープン思想といった透明なルールは、それが拡大した結果、いまや近現代の中心思想としての地位を築きつつある。
 
一方、ヨーロッパでは、同じ自由といってもアメリカとは異なる。ヨーロッパの特徴としては、ブルジョア階級が王宮階級から権力を奪うという意味での自由、あるいはプロレタリア階級がブルジョア階級から権力を奪い取るといった、積極的な、あるいは革命的な自由に基礎をなしている。

米でも欧でもないのは“遅れ”か

この両者を踏まえた上で日本を考えたとき、どちらにも属さないのが日本の特徴となる。したがって、一般的にアメリカ的な文化にも属さず、ヨーロッパ的な文化にも属さない性格を、“遅れている”とイメージすることがしばしばある。そこで、日本はアメリカ的なものをむりやり取り込もうと試みる。しかし、頭では取り込んだものを理解できても、その考え方が実践として根付き得ないのが現在の日本の状況である、と佐伯氏は指摘した。
 
このような状況下で今日の日本に必要な態度として、(1)グローバル経済に対して国家の枠組みをうまく作っていくこと、(2)グローバル化やアメリカ的観念から脱出するように心がけること--の2点をあげて報告を終えた。
 
司会の斎藤教授からは、「現実のグローバリゼーションを戦略的に使っているアメリカにどのように対抗すればいいのか」などの具体的な質問があった。佐伯氏は「グローバリゼーションやグローバル経済は、'80年代~'90年代のアメリカにおいて、意図せず結果としてできあがったため、アメリカ自身も戸惑っているのが現状ではないだろうか。したがってアメリカがもう一度、国際経済体制を立て直すべく、国際会議などを開催し、イニシアチブをとっていく必要がある」と述べた。
 
また、会場からは、「グローバリゼーションが進むと、それとは正反対に同一性の強い国家がその文化やアイデンティティーを主張しはじめる傾向がある。グローバリズムの進行は、同時にローカリズムの進行につながるといった文化的視座も見逃せないのではないか」といった指摘もあり、活発な意見が交わされた。

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