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【INTERVIEW】「アーティストの表現に合わせて音楽配信システムが移行し、ビジネスモデルが出現する」--SME丸山社長に聞く

1999年07月09日 00時00分更新

文● 千葉英寿/編集部 伊藤咲子

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“MusicLink”、“TRUE KiSS DiSC”、“Super MagicGate”--これらの単語をご存知だろうか? 今年に入り、デジタル音楽配信を巡って、音楽業界は変革の加速度を増している。著作権保護や課金方法といったシステム面と、デジタルデータ化する具体的なコンテンツ面の双方で、改革が進んでいる。そして、この2つを備える企業としてソニーグループが注目されている。

今回は、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の丸山茂雄社長に、レコードメーカーの立場から、デジタル音楽配信に対するスタンスを中心に話を聞いた。

丸山茂雄社長
丸山茂雄社長




音楽配信システムはコンテンツ主導で

--御社の音楽配信ビジネスに関する基本的なスタンスを教えてください

「ネット上での音楽配信については、技術やビジネスモデルに依存するものではなく、コンテンツ主導と考えています。その方法が衛星配信でもダウンロードでも、既存のシングルCDやアルバムといったパッケージコンテンツをそのまま配信するといった発想ではなく、メディアの特性に合わせたコンテンツとなるのではないでしょうか」

--メディアの特性に合わせたコンテンツとは?

「MAA*で坂本龍一さんが、“昨日ネットで発表した曲の新しいアレンジを、今日またネットで発表する”といった、楽曲のダウンロード販売における新形態の例を示していました。彼らは、パッケージをそのままダウンロードしても意味がないと考えているようです。むしろ、“自分がクリエーターとしてどう表現するか”を主眼とした、インタラクティブで新しい音楽表現の形態が、アーティスト側から提案されるのではないでしょうか」

*MAA(Media Artists Association):
コンテンツクリエーターが中心となって結成された、デジタルメディアの制作・発表・流通に関する権利保護を考える団体。発起人は、ゲーム作家の飯野賢治、CGクリエーターの河口洋一郎、音楽家の坂本龍一など

--坂本龍一さんや、小室哲也さん*のそういった動き以外に、音楽のデジタル配信に興味を持っているSMEのアーティストはいますか?

「『ウンジャマラミー』の松浦雅也さんとか。やはり、みんな一番乗りを目指しているから、何かしら考えているようですね」

「かつて、SP版、シングル版、アルバム版とメディアが変遷するにつれて、その記録容量やパッケージの特性に合わせて音楽の内容が変遷していったように、今回もそうなると考えるほうが自然です。メディアの特性を生かしたアーティストの表現に合わせて、システム自体が移行し、ビジネスが出現することを期待しています。“'99年頃にみんなが、ダウンロードするのはアルバムかシングルかなんてバカな議論をしていたな”と、思える時代がくるでしょう(笑)」

*小室氏は新レーベル“TRUE KiSS DiSC”を立ち上げ、スカイパーフェクTVをプラットフォームとした“MusicLink”での楽曲のデジタル配信を5月末に表明した

コピーガードの技術では、ソニーグループの足並みよりも技術を重視

--インターネットを使った楽曲のダウンロードは、いつくらいに始まるのでしょうか?

「シングル版のダウンロードを、米SMEとマイクロソフトがアメリカで今夏に開始という報道がありましたが、スケジュール的にはありえないと思います。国内においては、インディーズでというなら話は別ですが、基本的にはコピーガード、課金システムなどの技術が確立されたときですね」

「インディーズの楽曲を最初に持ってくる理由は、どこでも売られているプロのミュージシャンのパッケージよりも、CDショップでは入手できないインディーズや新人のほうが、ダウンロード販売を行なう意味があると考えてのことです。もちろん我々はレコード会社である以上、プロであろうとアマチュアであろうとミュージシャンの権利は守ります」

--御社と米IBMとのマディソン実験や、米SME社が採用した米マイクロソフト社の“Media Technologies”、ソニーが開発した“Super MagicGate”など、グループ内で技術仕様の確立に向けてはいくつかの動きがあります。ソニーグループとしては最終的に、足並みをそろえるのでしょうか?

「グループ企業だからといって、ソニーの技術を優先するということはありません。確かにSMEの立場からすれば、ソニーが提案した最良の技術を採用するというのが望ましい形ではありますが、あくまでコンテンツの形態に沿った最適な技術を選択したいと考えています」

--SDMI(Secure Digital Music Initiative)*が定める著作権保護機構を備えたデジタル音楽仕様に、業界は収束するのと考えていますか?
--SDMI(Secure Digital Music Initiative)*が定める著作権保護機構を備えたデジタル音楽仕様に、業界は収束するのと考えていますか?



「基礎技術が日々変化するテクノロジーの世界においては、配信や著作権保護技術についても統一化は、そう簡単にいかないでしょう。SDMI*の策定もそういう意味では容易にはうまくいくとは思えませんが、合意に達して欲しいとは願っています」

*SDMI(Secure Digital Music Initiative):全米レコード協会(RIAA)と米国の音楽業界大手5社が、共同で設立したプロジェクト。違法コピーを規制する仕様を盛り込んだ標準フォーマットを策定し、インターネットを通じた音楽配信・販売が健全に行なわれることを目的としている。

--(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)が“DAWN 2001”というプロジェクトを発表しましたが、これについてどのように考えていますか?

「JASRACから新しい提案が出てきたことを、SMEは高く評価しています。JASRACについては、かつてこちらから提案を行なっても、思うように対応していただけずにいましたが、若い人が出てきてずいぶんと変わったようです。今回の“DAWN 2001”もその現われの1つでしょう」

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