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【メディアの足し算、記号の引き算Vol.4】“kinetic typography”の表現力と可能性

1999年07月12日 00時00分更新

文● 船木万里

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7月10日、NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)において石崎豪(いしざきすぐる)氏によるシンポジウムが開催された。このシンポジウムは“メディアの足し算、記号の引き算”と題するICC特別展の一環として催されたもの。6月20日~7月20日の1ヵ月間にわたり、ギャラリーでの展示、ワークショップ、コンサートなども開催されている。

石崎氏は米カーネギーメロン大学デザイン学部助教授であり、グラフィックデザイナーの視点からデジタルメディアにおける視覚言語などに関する研究などを行なっている。今回は、“kinetic typography”(動きを伴う文字)について、具体的な映像を紹介しながら多角的に論じた。

カーネギーメロン大学の石崎氏
カーネギーメロン大学の石崎氏



kinetic typographyとは

文字は、これまでは当然紙の上に印刷されるものであった。しかしコンピューターの普及に伴い、ムービーやウェブ上での文字表現がさまざまな形で可能になってきている。文字に動作をつける、すなわち文字に時間軸を与えることにより、どのような意味を付加できるのだろうか。また、紙の上とモニター上での表現では、デザインの方法論に違いが生まれるのだろうか、という問題を投げ掛けた後、最初に石崎氏がスクリーンに再生したのは“Hi”という文字のムービーだった。楽しげに点滅する、または内気そうに小刻みに動くなど、3種類の動きを伴った“Hi”が画面上に踊る。このようなたったひとことの単語でも、動きをつけることによって文字に声のイメージや感情が付加されるということを、会場の視聴者は実際に感じとることができた。



視覚伝達デザインとkinetic typography

もちろん、これまでのメディア――テレビや映画、マンガ、文学、詩などにおいても、こうした試みはなされていた。英語では書体の選択に加え、大文字やイタリック体を使った強調、スペースを挟むことによるペースの操作、同じ文字の連続使用による感情表現など、さまざまな表現によって感情を文字に付加している。石崎氏は、実際にコマーシャルや文学作品などで使用された文字表現をスライドで紹介しながら、歴史的見地からの文字の情報伝達デザインについて語った。

続いて、こうした従来の表現に加え、文字に動きを加えることで可能になる表現のサンプルとして、英語でのkinetic typographyを数点、スクリーンに再生した。
 
会話を表現する場合は、画面左上と右下に、それぞれ話し手の性格を表わすようなタイプフェース(字体)や大きさで文字が現われる。文字の現われるスピードを調節することにより、話し手の感情を表現する。強調したい単語の場合はサイズを大きくしたり、車の音などの効果音はタイヤのように回転させたりと、さまざまな動きを組み合わせ、atmosphere(雰囲気)を同時に表現することも可能だ。また、例えば“up”という文字が画面の下から上へ移動するなど、動作と単語の内容を一致させることで、表現を強調したり、文字の大きさや色の濃さなどに変化をつけながらパラレルに出現させることにより、思考の流れと話している言葉とを同時に表現する……

このような文字の動作を追うことにより、文字を読まなくてもある程度は雰囲気がつかめるようにも思える。石崎氏によれば、世界各国でテストした結果、サンプルを見たときの視聴者の持つイメージは大体共通しているらしい。

このように、声のトーンやスピード、ボリューム、声質、イントネーションに加え、独白の表現、周辺の音などの多彩な情報を、文字の動きによって同時に表現できるようになる、と石崎氏はkinetic typographyの可能性について語った。

文字に動きを加えることで可能になる表現のサンプル。英語でのkinetic typography
文字に動きを加えることで可能になる表現のサンプル。英語でのkinetic typography



kinetic typographyの作成

この、時間軸を利用した新しい表現を利用するに当たっては、Form(形)、Contents(内容)、 Context(文脈)をいかに適切な形でまとめ、Meaning(意味)を表現するのかが重要になってくる、と石崎氏は説く。文字の動きのフォームを考える場合は、Aという状態とBという状態のフレーム間をコマ割りでつなげていくのではなく、ある動き(例えば上から下へ動く、またはサイズが徐々に変化するなど)を1つのユニットとして捉え、それらを組み合わせることが、kinetic typeにはふさわしい表現方法である、と石崎氏は考える。

kinetic typeの習作をつくる学生には、「強調したい部分だけに印象的な動きを付け、ジェスチャーの作り込みをディズニーのアニメに学び、リズムを考えろ」などと、短編映画やアニメーションにも似た手法をアドバイスしている。

kinetic typeにおいては、単語だけを並べても意味が通るなど、効果的な文章の構成は、書き言葉のものとは変化してくる。単語や文節ごとに表示するので、「、」や「,」などの読点が不要になる。句点は必要だが、ゆっくり現われて消えていく、または怒ったようにぱっとピリオドを打つ、など句点に動きを付けることによっても、感情表現が可能だ。

kinetic typographyの将来

このような文字表現は、何もデザイナーのためだけのものではない。一般的に利用できる簡単なツールがあれば、インターネットを利用して、普通の人々も“動きのある文字”を楽しむことができる。そのように考えた石崎氏は、一般人の利用状況から今後のkinetic typeのあり方を調査するため、1997~1998年にかけて、動くメッセージを書けるツール『Wigglet』をウェブ上で実験公開した。このツールでは、普通にメッセージを入力した後、各単語ごとに文字の動きをスコアボード上で設定することができる。

一般の人々の作成したメッセージには、石崎氏でさえ考えつかなかったようなおもしろい表現方法もあり、興味深い結果になったようだ。現在、チャットにも利用できるようなツールを考案中とのこと。このようなツールの利用が一般的になれば、kinetic typographyを通して、新しい言語表現が生まれてくる可能性もあるのでは、と石崎氏は期待を表明している。

特設展示場でのデモ。来場者は実際に『Wigglet』を使って“kinetic typography”作成できる
特設展示場でのデモ。来場者は実際に『Wigglet』を使って“kinetic typography”作成できる



プレゼンテーションの後、会場内からは質問が相次ぎ、kinetic typeに対する関心の高さをうかがわせた。なお、シンポジウムで紹介されたkinetic typographyのサンプル映像は、ICCギャラリーに7月20日までスクリーン展示されている。

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