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高校の情報教科開始に伴い、今後の情報教育を考える--CG-ARTS協会が“マルチメディア教育懇談会vol.11”を開催

1999年06月23日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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(財)画像情報教育振興協会(CG-ARTS協会)は、“マルチメディア教育懇談会vol.11”を東京・京橋にて開催した。高等学校において2003年から“情報”が必修科目として開始されることを踏まえ、“高校での情報教科開始にともなう今後の情報教育を考える”ことをテーマに開催された。この懇談会は先週から今週にかけて、名古屋、大阪など全国6都市で集中開催されている。

CG-ARTS協会は、画像情報教育の整備と普及振興活動を目的とした文部省認可の公益法人。文部省認定の画像情報技能検定を実施するほか、デジタルアートなどを対象とした文化庁メディア芸術祭の開催も手がけている

懇親会の内容は、CG-ARTS協会が考えるマルチメディア標準カリキュラム、および大学における情報教育の先端事例紹介という2つ。今回の懇親会には大学や専門学校、高校の教職員を中心に90名が参加。参加人数が当初の予想を上回ったため、途中で参加者募集を締め切ったほどの人気を見せた。

CG-ARTS協会専務理事の秋葉俊幸氏CG-ARTS協会専務理事の秋葉俊幸氏



マルチメディア講師養成プログラム

文部省が3月に発表した新しい学習指導要領では、2003年から高校で情報科目を必修とすることが示された。対象は高校の普通科で、新しいコミュニケーションリテラシーの習得が目的だという。具体的な教育目標は、情報の収集と発信といった活用能力の育成、情報の科学的理解と問題解決能力育成、ネットワークコミュニティーへの参画と常識的な態度育成の3つ。

情報科は、端末の操作が主体だった従来の“情報処理”科目とは異なり、ネチケットやネットワークにまつわる著作権問題など、社会科学的見地を踏まえたコミュニケーション能力の育成に重点を置いているのが特徴という。

文部省では、現場の判断次第で2003年以前に同科目をスタートすることもできるとしている。しかし、教育現場では指導者や教材の不足といった問題から、二の足を踏んでいるところが多い。CG-ARTS協会は、'94年にマルチメディア検討委員会を発足させて以来のノウハウを生かし、今年3月に“マルチメディア講師養成プログラム”を開始した。

同プログラムは、情報科の指導内容や具体的な指導の方法を学び、マルチメディア教育の基礎知識を体系立てて指導できる講師を養成するというもの。テキストには同協会が作成した講師用の手引書が用意され、“マルチメディア標準テキストブック コミュニケーションデザイン編”などが用意されている。テキストの内容は、ネットワークの基礎やシステムの解説から、社会科学分野にまで及んでいるという。



マルチメディア講師養成プログラムの具体的な実績は公表されていないが、CG-ARTS協会への問い合わせ件数は増加しているとのこと。同協会によれば、「文部省が情報科の開設を発表したはいいが、具体的な教育内容は示されていない。さらに、指導のためのノウハウなどを示す書籍もほとんど存在しないので、教育現場では混乱が生じているようだ。我々が提供するコンテンツが授業の叩き台になればという思いで、テキストの出版やマルチメディア講師養成プログラムを進めている」としており、今後は現場の声などを取り入れることで、内容をさらにブラッシュアップするという。

懇親会に参加した教職員からは、端末はどんな機種をどこからどのくらい導入するのがいいか、どの教科の教師が教えるのがベストなのか、情報と情報処理はどう違うのかといった質問が寄せられていた。具体的・速効的な問題解決法の提示を望む声も多かったが、懇親会はおおむね好評に受けとめられたようだ。

デザインとアートは明らかに異なるもの--武蔵野美術大学造形学部教授の大平智弘氏の講演より

懇親会では先進的事例として、大学におけるマルチメディア教育現場の紹介が行なわれた。東京会場では、武蔵野美術大学造形学部教授の大平智弘氏が、デザイナー志望の学生に向けた授業の様子などを紹介した。

武蔵野美術大学造形学部教授の大平智弘氏武蔵野美術大学造形学部教授の大平智弘氏



「デザインとアートは明らかに異なるものです。アーティストは自分で手を動かしますが、デザイナーは見取り図をおこし、実際の製作活動は第3者が行なう場合がほとんどです。自分で直接作らないとなれば、いかに製作現場に対し自分の意志や情報を伝達するかが重要となります」

「私が考えるマルチメディアとは、“One Source Multi Medeia”です。1つの資源を1次元、2次元、3次元とマルチメディア的に展開するには、デジタル情報である必要があります。工作機械にはスキャンしたデータをそのまま入力することはできませんが、製図では座標のデータ自体がデジタルなため、その後の展開に応じて柔軟に検証できます」

「最近のデザインコンベンションの応募作品は、2次元作品ならアドビシステムズ(株)の『Photoshop』、3次元作品ならアビッドジャパン(株)の『SOFTIMAGE|3D』をツールに使用したものが多い。このような市販のツールに乗っかった作品は、どれもこれも似通ったものになっています」



「デザイナー=情報を伝達する人と定義するならば、ツールのオペレーターではなく、自らプログラムを手がけることが重要になります。プログラムを学ぶことで、頭の中でモヤモヤしていた思考のプロセスが情報としてはっきりする。プログラムは自分の思考プロセスを映す鏡であり、ひいては自分の作品の優位性を示すことになります」

プログラミングの思考にどうしてもついていけないという学生に対し、大平教授は読売ジャイアンツの三塁手を例に出すという。「巨人の三塁手は責任が重いが、技術が身に付いた選手にとってこれほどおもしろいポジションはないでしょう。それと同じで、用意された”簡単・便利”なデザインツールは、すぐ飽きる。プログラミングを基礎からたたき込まれる学生時代は辛いかもしれないませんが、自分がプログラムした"マイ・ツール"できるようになった後は断然おもしろいはずです」

大平教授は今回の講演に先立ち、「自分が教える分野から、デザインが中心となってしまうが」と前置きしたが、原点に帰り思考プロセスのデジタル化から考えるという教育スタンスは、情報科の授業にも参考になるものではなかろうか。

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