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JavaOneレポート~Sun's 1999 Worldwide Java Developer Conference

1999年06月18日 00時00分更新

文● アスキーNT編集部 渡邉利和

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一般性を強めたJavaOne

6月15~18日の4日間、米サンフランシスコで“JavaOne”が開催された。Javaの開発者向けとしては最大のイベントであり、今年は登録者数が2万人という。昨年は1万4000人と発表されているので、Javaの開発者数が着実に増えていることが窺える。基調講演、セッション、参加者の討論形式で進行するBOF(Birds-of-a-Feather)セッション、展示会のほか、さまざまなスペシャルイベントが設定され、“開発者の祭典”というお祭り的要素もふんだんに盛り込まれた大規模なカンファレンスである。

昨年までは、最新技術に関する発表/解説が目立ち、開発者の情報収集のため、という雰囲気が色濃くあったのだが、今年はやや先鋭的な感じは薄れている。最新/最先端の情報を開発者に提供する、というよりも、Javaの技術そのものよりも、むしろJavaをどう製品に応用していくか、という点に重きを置いて構成されている印象だ。これは、JavaOneに先だって開催された“Java University”との性格分けも影響しているようだ。開発者向けの学習の場は主としてJava Universityに移ったと考えられる。

Java2 Platformの整理

新たに発表されたJava2 Platformの構成図。マーケット別にパッケージが用意されたと考えられ、Javaを使って製品開発を行なうベンダーの便宜を図った措置と思われる
新たに発表されたJava2 Platformの構成図。マーケット別にパッケージが用意されたと考えられ、Javaを使って製品開発を行なうベンダーの便宜を図った措置と思われる



今年のJavaOneのトピックとしては、まずJava2プラットフォームが3つのEditionに分割されたことが挙げられるだろう。『Java2 Platform, Standard Edition(J2SE)』、『同Enterprise Edition(J2EE)』、『同Micro Edition(J2ME)』の3種類である。このうち、従来からある『Java2』とほぼ同じ位置づけとなるのがJ2SEで、これを基本に上下に展開したのがそれぞれJ2EEとJ2MEと考えればよいだろう。J2EEは、従来独立したAPI群として公開されてきたEnterprise API群を、まとめてパッケージ化したもの、と見れば分かりやすい。つまり、これまではJava2を基本に必要なAPIを追加して構成していたものが、最初からサーバ用途/エンタープライズ向けにセットになったということだ。

一方、J2MEには、新たに“KVM”という要素が加わっている。この分野には、従来は『Embedded Java(EJava)』や『Personal Java(PJava)』が提供されていた。主として組み込み分野が想定されるこの市場では、サン・マイクロシステムズ社が提供する標準のEJavaやPJavaには批判も多く、特にCPUパワーや必要なメモリ量が多い点が組み込み用途には使いにくいと言われてきた。この点を改良する形で、ヒューレット・パッカード社から互換VM『Chai』がリリースされるなど、混乱してきた部分でもある。

こうした批判に応える形で、今回新たに発表されたのが、KVMと呼ばれるサイズを小さくすることを最優先にして開発された新しいVMだ。なお、Kは“KB(キロバイト)”の意味から付けられたということで、かつては『KJava VM』と呼ばれていたものである。必要メモリ量は、VM本体で約60KB、クラスライブラリが約128KBとなっている。これで、従来のEJavaの約4分の1にまで削減したということだ。このKVMが従来のEJavaをほぼ置き換える形となり、この上に“Profile”という形で必要なAPI(クラス)群を適宜追加していくことでより高機能な環境を設定できる。PJavaは、今後は“KVM+Profile”の形で実現されることになりそうだ。

KVMは、サイズを最少化する目的で最適化が行なわれているため、パフォーマンス的にはやや劣る面がある。たとえば、スタックフレームのサイズをJ2SEのVMなどに比べてデフォルトで小さくしていたりするため、十分なメモリが利用できる環境であればJ2SE等のVMのほうが、KVMよりも高速で動作する。

組み込み市場への展開

会場では、KVMのDeveloper Releaseを組み込んだスリーコム社の『Palm V』を、199ドル(約2万3800円)で販売しており、実はこれが今回もっとも人気を集めた企画であったようだ。連日窓口には長蛇の列ができていた。しかも今回はこのJava EnableのPalmVを使うとさらに楽しめる仕掛けがいろいろと用意されていたため、日毎に人気が上がる、という現象さえ起こったようだ。価格的な魅力もともかく、発表されたばかりのKVMが動作する環境を手に入れられるとあって、昨年のJava Ringの配布以上に盛り上がっていたようだ。もっとも、昨年のRingは参加者に無料で配布されたのだが、今年のPalmVは有料での販売であった点は少々残念とも思える。もっとも、これが気にならないくらいに今の米国は景気がよいということかもしれない。

会場のロビー内には並びきれず、外にまで延びたPalmV購入者の列。初日で1万台を売り切ったと発表されたが、さすがにそれは大げさだったようだ。しかし、2日目からは並ぶ人が増えたように感じられた
会場のロビー内には並びきれず、外にまで延びたPalmV購入者の列。初日で1万台を売り切ったと発表されたが、さすがにそれは大げさだったようだ。しかし、2日目からは並ぶ人が増えたように感じられた



KVM対応のiモード端末を見せながらの発表では、海外の携帯電話機に比べて日本(NTTドコモ)の機種が小さくスタイリッシュであることが強調されたため、同席したモトローラの担当者がちょっと嫌な顔をする、というシーンもあった
KVM対応のiモード端末を見せながらの発表では、海外の携帯電話機に比べて日本(NTTドコモ)の機種が小さくスタイリッシュであることが強調されたため、同席したモトローラの担当者がちょっと嫌な顔をする、というシーンもあった



このほか、KVM対応のデバイスとして、NTT DoCoMoのiモード対応携帯電話機が各種公開された。現在のiモードはHTMLベースのサービスだが、Javaを利用したサービスが開始されれば、日本国内でもJavaの本格的な応用が加速されると考えられるため、今後の展開が楽しみである。

モトローラ社は、双方向ページャ(ポケットベル)にKVMを搭載したものを展示していた。こちらは、ノートパソコンやWindows CE機をぐっとコンパクトにしたような2つ折りのデザインで、ごく小さなボタンにしか見えないものの、フルキーボードと液晶画面を備えたものだ。Javaを利用したいくつかのアプリケーションが搭載されているほか、メールの送受信などが可能だ。

PalmVを使うための仕掛けの1つ。Web上でセッション等の予定表をチェックし、興味のあるセッションをクリックするとそれが抽出され、“自分の予定表”を作成できるようになっていたのだが、PalmVのユーザーはそれをワンタッチでダウンロードし、持ち歩けるようになっていた
PalmVを使うための仕掛けの1つ。Web上でセッション等の予定表をチェックし、興味のあるセッションをクリックするとそれが抽出され、“自分の予定表”を作成できるようになっていたのだが、PalmVのユーザーはそれをワンタッチでダウンロードし、持ち歩けるようになっていた



KVMはプリインストールされていたが、会場に多数設置されたクレイドルにセットしてSyncを行なうと、大量のクラスファイルがダウンロードされてくる。KVM自体のアップデートなども行なわれたようだKVMはプリインストールされていたが、会場に多数設置されたクレイドルにセットしてSyncを行なうと、大量のクラスファイルがダウンロードされてくる。KVM自体のアップデートなども行なわれたようだ



PalmVには、KVMのほかにも各種のJavaアプリケーションがインストールされていた。なぜかゲームがたくさんあったが、JavaOne専用のスケジューラやニュースリーダはとても有益なツールであったPalmVには、KVMのほかにも各種のJavaアプリケーションがインストールされていた。なぜかゲームがたくさんあったが、JavaOne専用のスケジューラやニュースリーダはとても有益なツールであった



もちろん、このほかにもソフトウェア製品なども多数公開されたものがあるのだが、やはりこうした組み込み機器への応用が今年はもっとも目を惹いたのは間違いないだろう。当初“動くWebページ作成ツール”といった個人用途で注目され、その後はThin Clientや、Webコンピューティングを実現するための企業コンピューティング向け環境としての性格を強めてきたJavaだが、ここへ来てようやく組み込み家電への応用が現実のサービスとして市場に現われつつある。この状況が、冒頭に紹介したようなJavaOneというイベントの性格の変化を生んでいるともいえるだろう。Javaそのものよりも、Javaを使って何をするか、が本当の問題として明確に意識され、それに対する各社各様の回答も揃い始めたということである。今年のJavaOneは、Javaが最新技術から道具へと位置づけを変えるちょうど転換点にあることを明瞭に示すものとなったようだ。

展示会場は、派手なセットを作って目を惹く、とったタイプのものは皆無で、どこもみな比較的地味なディスプレイに説明員を配置し、質問してきた人にじっくり説明をする、という形式になっていた。来場者が開発者主体ということもあるのだろうが、一見するとやや地味な印象は拭えない
展示会場は、派手なセットを作って目を惹く、とったタイプのものは皆無で、どこもみな比較的地味なディスプレイに説明員を配置し、質問してきた人にじっくり説明をする、という形式になっていた。来場者が開発者主体ということもあるのだろうが、一見するとやや地味な印象は拭えない



SUNのデモカー『Java EV1』。GMの電気自動車にJava技術をふんだんに盛り込んで情報武装したコンセプトカーだ。JavaとJiniの技術を使い、カーナビのデータをインターネットからダウンロードして液晶に表示したり、MP3プレイヤー機能があったりと、楽しく実用的なさまざまな機能が実現されている
SUNのデモカー『Java EV1』。GMの電気自動車にJava技術をふんだんに盛り込んで情報武装したコンセプトカーだ。JavaとJiniの技術を使い、カーナビのデータをインターネットからダウンロードして液晶に表示したり、MP3プレイヤー機能があったりと、楽しく実用的なさまざまな機能が実現されている



モトローラの双方向ページャ。隣のマウスと比べると、大きさの見当がつくだろう。日本人にはとても大きく感じられるが、キーボードを付けたらこんなものかもしれない。今後は、液晶画面をタッチパネルにすることを考えているとのこと
モトローラの双方向ページャ。隣のマウスと比べると、大きさの見当がつくだろう。日本人にはとても大きく感じられるが、キーボードを付けたらこんなものかもしれない。今後は、液晶画面をタッチパネルにすることを考えているとのこと

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