このページの本文へ

【INTERVIEW】バイオ開発秘話~その内部を探る-前編-

1999年06月14日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

19日、いよいよ発売になるソニーの新バイオ『PCG-XR7/XR1』シリーズ。先進的なデザインとコンセプトを盛り込んだ話題のニューマシンだが、この企画・開発・設計を行なったソニーの皆さんに緊急インタビューを試みた。なお、インタビューに応じていただいた方々の所属と氏名を末尾に記した。

新バイオ開発に携わったソニーの皆さん。今回のバイオに対する意気込みが伝わる
新バイオ開発に携わったソニーの皆さん。今回のバイオに対する意気込みが伝わる



装いもあらたに登場した新バイオノートには、大きな目玉として“3つのびっくり”コンセプトがある。まず、フラットなアクリルパネルを液晶ディスプレーに配した『フラッシュサーフェスデザイン』。次に、“コロンブスの卵的発想”から考えられた冷却方式の『インタークーラーフラップ機構』。そして、ソニーならではの新しいユーザーインターフェースを提案する『ジョグダイヤル』。今回のインタビューでは、これらのコンセプトを中心に、実際に開発現場でどのような苦労があったのか、その開発秘話をお訊ねした。

ソニーの新バイオ『PCG-XR7/XR1』シリーズ。3つの大きなコンセプトを盛り込んである
ソニーの新バイオ『PCG-XR7/XR1』シリーズ。3つの大きなコンセプトを盛り込んである



インタークーラーフラップ機構はサイズへのこだわりから生まれた

――いつごろから何人ぐらいで開発に着手されたのでしょうか?

「ある時期から具体的に、さあ開発を始めよう! というように始まるわけではないんです。だから、どこからがスタートかと考えるかで開発期間も変わってきてしまうので、はっきりと言えないんです。けれど、1年は掛かっていません。人員については、バイオノートの場合はモーバイルプロダクツという部署があるのですが、そこで開発をしています。N社やF社さんなどの他メーカーさんと比べると、吹けば飛ぶようなこじんまりとした感じでやっています(笑)」

――まずはじめに一番訊きたかったのは、『インタークーラーフラップ機構』についてです。液晶ディスプレーを開くと、このインタークーラーフラップが動いて、バイオノート本体の下部に新たに空間を作り出しますよね。これはどういう発想で設計されたものなのですか?

「どうしてこういう構造になったかと言いますと、現行機種でもCPUの発熱量が大きくなってきていますので、放熱対策がとても厳しくなってきていたんです。いろいろ対策を練っていましたが、このままでは手詰まりになると感じていたんですね。ただ、やみくもに放熱部のサイズを大きくしたり、ファンも大きくして、そのぶんセットも大きくしてしまえば、放熱対策も簡単にできるとは思うんですけれども、そういう安易な方向には行きたくなかった。あくまでモバイルできるサイズにこだわりたい。だからサイズはそのままで、放熱できるスペースをどこかに生み出したかったんですね」

「そういうことで、いろいろ試行錯誤したんですけれど、やはりとても苦労しました。(試作機を取り出して)旧機種のパソコン本体を切って開けてみたり、アイデアを得るためにいろいろなものを参考にしました。たとえば昔のウォークマンですとか、デジタルビデオのローディング機構ですとか」

クリックすると拡大されます
(C)SONY


インタークーラーフラップの構造(画像をクリックすると大きな画像を参照できます)

いろいろな製品を研究して思いついたアイデア――必要だけれど、必要でない空間

――カセットのホルダー部分が飛び出してくるタイプのウォークマンですね。昔からソニーさんは、とにかくサイズを小さくして、そういう限られた制約の中でメカをどう生かすか、使おうかという発想がありましたよね。

「サイズへのこだわりっていうのはやっぱりあります。つまり、本来必要とされるサイズでセットを作ろうとしないで、何か新しいスペースを作ってやる。同じスペースを生み出すのでも、いろいろなやり方やアイデアがあると思うんですね。実際に今回開発した新バイオもそうですし。世の中にはいろいろな機構があると思うけれど、いろいろな製品を見てどういった動きがあるのか? それこそ、あっちこっち回ったり、秋葉原にも行ったりして研究しました」

「冷却するためにはどうしても空気が流れていく空間が必要ですけれど、持ち運ぶときには本当はこういう(フラップ部がつくり出す)スペースはいらないんですよ。そこのところに気が付いたのが『インタークーラーフラップ機構』なんです。これが一番効率がいいんじゃないか? ということで、この構造に落ち着きました。熱的にもそうですし、いろんなものアイデアが取り込めるということで」

(C)SONY
(C)SONY


インタークーラーの排熱空気の流れ

「裏をみるとわかるのですが、ヒートシンク部が出ているんですね。『インタークーラーダイキャスト』っていうんですけれども、このなかに発熱するCPUですとか、ハードディスクなどが全部入れてあります。それから(バイオ本体裏側とインタークーラーフラップの上部にできる)空間を設けることで、熱いけれどもに実際にはユーザーには触れないという構造をとることができました。ユーザーの手に触れるところに高温の部品を配置することは絶対できないですからね。実際にユーザーがひざの上に置いて使うぶんには熱を感じることはない、そういう効果もあるんです」

――それでは熱解析みたいなことも設計段階で十分にやられているわけですね。ヒートシンクはダイキャスト? 材質はアルミ?

「アルミですね。このダイキャストのなかに、熱伝導率の高い銅を使ったヒートパイプを一体化していて、うまく熱を切断してあげています」

(C)SONY(C)SONY


ファンだけでなく、クーラー自体にも放熱の工夫を取り込んだ『インタークーラーダイキャスト』の説明イラスト

『インタークーラーダイキャスト』の上面部。冷却ファンが見える
『インタークーラーダイキャスト』の上面部。冷却ファンが見える



『インタークーラーダイキャスト』の底面部。ヒートパイプがはっているのがわかる
『インタークーラーダイキャスト』の底面部。ヒートパイプがはっているのがわかる



インタークーラーフラップ機構に盛り込まれた放熱対策の2重の仕掛け

「あともう1つの理由として、オプションの『パワーアップステーション』(光デジタルオーディオ出力、コントロールII端子、S端子などを装備した拡張ユニット)からインタークーラーフラップ内部に風を吹き込んでやろうと考えたんです。だから実際にそういう広い空間、抵抗の少ない空間を作り出してやる必要があった。こういった構造でないと、うまくパワーアップステーションとのリンクができなかったと思うんです」

――パワーアップステーションにもファンが付いていますけれど、そちら側からパソコン本体の背部(CPUの裏側)に空気を送り込むという構造ですね。これは最初から考えられていたことなのですか?

「アイデア自体はわりと前から持っていましたね。すでにドッキングステーションにはファンが入っていましたので、これを利用するという発想は前からあったんです。けれど、積極的に本体側まで冷やそうとしたのは今回が初めてですね。モバイル時で使うときと、デスクトップ上でガンガン使いたいときでは、やはりどこかで発想の切り分けが必要なんじゃないかなと思っていました。CPUがあまり発熱してきた場合、このまま本体側だけで放熱させるとすると従来の冷却方法では難しい」

「過去2年ぐらいのCPUのハイスペック化から推測して、これから先も同じようなスピードでCPUが進化していくならば、将来のことを考えて万全の手を打っておかなければいけない。ここでCPUの進化が止まるということはないと思うんで、やれることはいまのうちにやっておかないと」

バイオ本体とパワーアップステーションをリンク
バイオ本体とパワーアップステーションをリンク



(C)SONY
(C)SONY



――ファンにも、いろいろと工夫が盛り込まれてういるということですが。

「今回採用したファンもただ回すんじゃなくて、回転数を可変にしているんですよ。いきなり回り出すんのではなくて制御しているんです。騒音がなるべく出ないような回転数をうまく探し出して制御しています」

ファンの騒音を小さくするために専用制御チップも搭載

――それではモーターを制御するチップも入っているのですか?

「ええ。今度のファン自体はいままでと比べると、かなり余裕を持たせて静かにしてあるんです。モーターの騒音っていうのは、回転数に対してリニアではないんで、静かになるようにうまく回転の立ち上がりも狙いながら、効果のあるところで制御している。実際、前の機種に比べて、かなり静音化できました」

――具体的にはなんデシベルぐらいになったのですか?

「-6デシベルです」

――でも、ユーザーはそこまで考えて作っているなんて、分からないですよね(笑)

「たしかに、そこまで考えて買ってくれるお客さんがいるかどうかはわからないです(笑)。ただ、われわれは自分で使ってみて、不満に思う点を解決しようとしているんですね。だから、そういうことがじわじわとお客さんにも分かってもらえるといいですね」

新バイオの基板の裏側。右上に放熱用のアルミダイキャスト、左上にIBMのHDDが見える
新バイオの基板の裏側。右上に放熱用のアルミダイキャスト、左上にIBMのHDDが見える



新バイオの基板の表側。基板上のチップの集積度は『C1シリーズ』と比べてもほとんど変わらないという
新バイオの基板の表側。基板上のチップの集積度は『C1シリーズ』と比べてもほとんど変わらないという



左から、橋本氏(電気まわり担当)、山口氏(ソフト関係担当)、尾崎氏(機構設計担当)
左から、橋本氏(電気まわり担当)、山口氏(ソフト関係担当)、尾崎氏(機構設計担当)



バイオ本体の背面も自動で開けてしまえ! キーワードは『サンダーバード2号』と『ガンダム』

――インタークーラーフラップが自動的にチルトアップして、バイオ本体の背面も開くという機構ですが、そのあたりの発想は?

「この機構は実際に背面のフタの役目にもなっているんですよ。これがかぶさることによって、背面のコネクターのフタにもなっている。そのへんも含めて、けっこういろんな効果があるんじゃないかということに気が付いたんですね。まず空間を冷さなければいけないっていう大命題があって、そこから2次的に考えついたのが、ディスプレーの開きに連動して、インタークーラーが開き、本体後部がチルトアップする効果です」

「パソコンを使うときってフラップは絶対に開いていてもらわないといけない。じゃあ、フラップが開くときって? と考えると液晶ディスプレーを開いたときだから、もう自動でやるようにしちゃえって。それから、使っているときは背面も開けておきたいっていうことがあった。これが開いているときも、液晶ディスプレーが開いているときだから、そのときは自動で開けるようにしたい」

クリックすると拡大されます
(C)SONY


(画像をクリックすると大きな画像を参照できます)

「でも液晶ディスプレーを閉じるとき背面が同時に閉じてしまうと、コネクターに付けているケーブルが切断されてしまいますよね。だから、自動で開くのはいいけれど、背面の動きをどうしようかと。そこで、液晶ディスプレーを閉じるときは背面を閉じない構造にした。本当はすべてを手動にしておけば、こんなに苦労しなかったんですけれど(笑)。」

――そうですよね。

「でも、やっぱり便利だし、かっこいいじゃないですか。自動でバーっと開くのって。みんなで『サンダーバード2号』とか『ガンダム』とか言ってた(笑)。未来のパソコンというコンセプトだったんで、サイバーチックにしたいと思って。『バイオ505シリーズ』で薄いスタイリッシュなものをやったから、A4サイズでもメカとしてなにか仕掛けが欲しかったんです。“遊び”というか、“機能を持った遊び”が欲しかった。あと『くるくるメカ』という機構もあったんですけれど、それは実現できなかった(笑)。次のバイオでは入れたいですね」

バイオノートにゴキブリが入る? バイオ開発者が語る泥臭い苦労とは?


――なるほど。ほかに現場サイドでご苦労されたところってありますか?

「あの、くだらない苦労ならいっぱいあるんですよね、でもあんまりかっこいい苦労じゃないんで(笑)。実はものすごく泥臭い苦労だったりするんですよ(笑)。インタークーラーフラップが開くと(バイオ本体のサイドに)すきまが開くんですよ。これは工夫しましたね。ここのところに部品を入れたり……」

「ここにジャバラがはいっているんですよ!」

ここがまさに“泥臭い苦労”だったという例のすきま。奥にジャバラを張ってあるなんて想像できる? これならゴキブリ君も入れない
ここがまさに“泥臭い苦労”だったという例のすきま。奥にジャバラを張ってあるなんて想像できる? これならゴキブリ君も入れない



「泥くさい苦労って、まさにこのことなんですよ(笑)。これじゃあ、パソコンのなかにゴキブリが入ってきちゃうじゃん、一体どーするんだって言われて(笑)」

――ああ、なんかとても暖かくて住み心地が良さそう(笑)

「そう、それが原因になって煙が出てきちゃうんじゃないか? そんな話で、ゴキブリの侵入対策と煙対策として考えたのが」

――ジャバラですか。ジャバラを付けているパソコンって、あまり聞いたことないんですけれど(笑)」

「よく見てもらえば、わかると思うんですけれど」

――あれ、ホントだ。指をつっこんでみると途中で引っかかる!

1つの新しい製品が世に送りだされるまでには、そこに関わる人たちのひとかたならぬ苦労があることは想像に難くない。だが、その苦労がすべてのユーザーに伝わるかと言えば、そうとは言い難い。たとえ、その苦労がユーザーにはわからないような種類のものであったとしても、プロとして妥協しない意地と熱意がある。

はじめは不可能に思えるようなことでも、「まず、こういう方向で行こう!」とエンジニアが思いつき、「じゃあ、具体的にどうやって実現するんだ?」とあれこれ試行錯誤する。そして、そういった難問を1つずつクリアーし、自分たちの子供である新製品が生まれたとき、その苦労も技術者冥利に尽きる笑顔に変わる。

後半のインタビューでは、『バイオの3大びっくり』の残りの2つについて詳細にご紹介する予定である。

インタビュー出席者
ソニー インフォメーションテクノロジーカンパニー
モーバイルプロダクツ3部4課 統括課長 溝口幹氏
 3部3課 課長 橋本克博氏
 3部3課 統括係長 大熊康雄氏
 3部4課 尾崎雄三氏
 3部4課 五味渕 治氏
 設計2課 山口祥弘氏
 事業戦略部 企画1課 岡本まり子氏
 事業戦略部 企画2課 森 珠子氏

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン