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民主党、起業家の支援をテーマとしたシンポジウムを開催

1999年06月10日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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民主党は東京・港区のキャピタル東急ホテルにて、“「起業力」 民主党 起業家支援シンポジウム”を開催した。これは、景気が停滞している現状を踏まえ、それを打破するためには起業家への支援が欠かせないという趣旨のもとに開催されたもの。

同党では、ベンチャー企業の設立と発展を支援する“デモクラット 起業家倍増プラン”を提唱しており、今回のシンポジウムは同プランへの理解を深めることが、主な目的となっている。

つぶれる企業の数>新規ベンチャー企業の数

シンポジウムの冒頭、主催者代表で衆議院議員の樽床伸二氏は、現在の日本では新たに興される企業よりも倒産する企業のほうが多く、産業構造の新陳代謝が進んでいないという現状を紹介。新規企業の創業を増やすためには、若手グループが議員立法を行なうことで、起業家を育成する環境の整備を行なうことが肝要であると強調した。

続いて基調講演を行なったのは、同党の代表で衆議院議員の菅直人氏。菅氏はベンチャー企業の立ち上げが多い米国を例に挙げ、この10年で1600万人分の新規雇用が創出されたというエピソードを紹介した。また、現在の不況を脱するためには現状の体制を破壊する覚悟が必要だと述べ、明治維新の廃藩置県と戦後の財閥解体を例に挙げて、政治そのものがベンチャー化しなければならないという持論を披露した。

基調講演を行なう民主党代表の菅直人氏
基調講演を行なう民主党代表の菅直人氏



講演の途中で菅氏は、ベンチャー企業を代表する存在として、パソナグループの南部靖之代表と、(株)エイチ・アイ・エスの澤田秀雄社長の2人を紹介した。

米国では、ベンチャー投資は減税の対象

南部氏は、日本と米国では投資に対する税制に大きな違いがあることを紹介した。その違いについて、アメリカでは“個人の南部”として事業を行えるが、日本では“パソナの南部”にしか過ぎないと、皮肉を交じえて解説。その理由として、米国では事業への出資が“出資減税”の対象となることや、SOHO環境の整備に要した費用も減税の対象となることを説明した。そのうえで南部氏は、「アメリカのような税の仕組みを、起業家のために作ってもらいたい」とアピールを行なった。

続いて澤田氏は、自身が航空会社を設立した経験を元に、日本では新規事情の立ち上げに際して、規制や許認可があまりにも多いと苦言を呈した。また澤田氏はエンジェル(個人投資家)としての経験から、投資先の事業が失敗したときに欧米ならば減税の対象となるが、日本では丸損になってしまうという違いを強調した。

菅代表の質問に答えるパソナグループの南部代表(中央)と、(株)エイチ・アイ・エスの澤田秀雄社長(右)
菅代表の質問に答えるパソナグループの南部代表(中央)と、(株)エイチ・アイ・エスの澤田秀雄社長(右)



ここで菅氏は、株の取得や出資に際して、どのようなハードルがあるのかと質問。それに対して澤田氏は、日本の店頭株市場が米国のNASDAQに比べて柔軟性がないことを指摘し、日本でもベンチャー企業がもっと簡単に上場できるようなルールを作ってほしいと語った。また南部氏は、米国では資本金が1ドルでも会社を設立できるということを説明し、新規事業の立ち上げにおける規制を緩和するべきだと主張した。

起業家を支援する“起業家倍増プラン”

続いて、民主党の松沢成文衆議院議員が登壇し、同党が提唱する“デモクラット 起業家倍増プラン99”についての基調報告を行なった。

松沢氏は、この10年で米国では1900万人の雇用がベンチャー企業によって創出されたのに対し、日本では1万人に過ぎないと両国の事情を紹介。日本でベンチャー企業を育成するためには、起業家を支援するための法律を整備することが必要だと語った。

そのうえで、同党が要綱を作成している“起業家支援のための租税特別措置法等の一部を改正する法律案”について、その概要を説明した。同党は倍増プラン99において40項目の提言を行なっており、主だったものとしては次の項目が挙げられる。

・ストックオプションの大幅拡充
・大学をベンチャー企業の拠点とする
・ハイテク中小企業支援制度の充実

新味に欠けるパネルディスカッション

シンポジウムの愁眉を飾るのは、5人の識者が参加してのパネルディスカッションだ。参加者は、以下の通り。

・千本倖生 慶應義塾大学大学院教授
・岩尾啓一 (社)ニュービジネス協議会国際委員長
・出縄良人 (株)ディー・ブレイン代表取締役社長
・真弓敦子 A.M.R.インターナショナル(株)代表取締役
・奥谷禮子 (株)ザ・アール代表取締役社長

また、民主党の松沢氏もパネリストとして参加し、コーディネーターは同党の島聡衆議院議員が務めた。

壇上左から、千本氏、岩尾氏、出縄氏、真弓氏、奥谷氏、松沢氏、島氏
壇上左から、千本氏、岩尾氏、出縄氏、真弓氏、奥谷氏、松沢氏、島氏



パネルディスカッションのなかでは、「大企業に行きたがるDNAが学生や、その母親にある」(千本氏)、「現在は、20代の起業家が減っており、全体の2パーセントほど」(岩尾氏)、「OLが、マネージャーとしての訓練を受けていない」(真弓氏)、「不況がもっと続けば、日本を本当に変えるインパクトになるかも」(奥谷氏)などの意見が出された。

ただ、いずれの発言も新味に乏しかったのも事実。起業家の支援を行なうことが、現在の不況を打開するために必要かどうかを聴衆に納得させるには至らなかったようだ。実際、会場が最も沸いたのは、民主党の松沢氏が“政府自民党に物申す民主党”というニュアンスの表現をしたことに対し、パネリストの1人が“時代遅れの認識”と批判した一幕だったことからも、主催者側と来場者の認識がかみ合っていないことを感じさせた。

シンポジウムの全体を通して、話の端々には“SOHO”や“マイクロソフト”といった単語は出てくるものの、米国の好景気を生み出している情報産業について触れられることはほとんどなかった。パネリストからは若者に奮起を求める声も聞かれたが、むしろ現状を理解していないのは主催者側ではないかという疑念を持たずにはいられない。次回以降のシンポジウムでは、もっと情報産業について語られることを期待したい。

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