18日に幕張メッセで“MACWORLD Expo Tokyo'99”が開催する。アドビシステム(株)では、“パブリックソリューション”、“ウェブソリューション”、“ムービーソリューション”という3本柱を掲げ、同社主要製品を紹介。ほかにも、先日W3Cが仕様を公開した“SVG”、1月4日に同社が買収を発表したGoLive社の『GoLive
CyberStudio』などのデモンストレーションも予定しているという。同社新社長のJesse
D.Young(ジェシー・ヤング)氏に今後の戦略について伺った。
Jesse D.Young氏プロフィール:
'55年ドイツ生まれ。'80年メリーランド大学卒、'81年The American Graduate
School of International Business修士。サンタクルーズオペレーションズ社、米DEC、米ユニシスを経て、'93年米アドビシステムズに入社。ドイツにて中央ヨーロッパ地域のマーケティングおよびセールスオペレーションを統括し、'99会計年度よりアドビシステムズ(株)代表取締役社長に就任。
●パッケージ製品と販売チャネルの変革で営業に新展開
----'98年11月に前社長が退任し組織改変をしましたが、その直接の原因は何ですか?「'98年は日本において難しい時期だったというのは周知の事実だと思います。ハード/ソフト両方において困難な1年であり、当社としても影響を受けてしまったわけです。前社長の木村八郎氏の退任については、5年目という区切りの年であったことがその主な理由で、'98年の業績不振とは直接は関係していません」
----新社長として、日本における目標はなんですか?
「No.1です! 全世界のアドビの中で日本法人をNo.1の成長率にしたいと考えています」
----昨年を教訓として今後の営業展開になんらかの影響はありますか?
「日本に来て学び取った教訓を元に導入したものが大きく2つあります。ひとつは『Adobe Publishing Collection』です。欧米とアジア諸国において導入済みで、欧州ではかなり売上に貢献しています。日本でも同じように実績を上げ、成功すると考えています」
「2つ目は、マーケティング関連です。アップグレード・キットを販売店でもご購入いただけるような形に変えました。今までは当社にアップグレード料金を振り込んでもらい、ダイレクトに販売していましたが、店頭購入というチョイスを新たに加え、どこで製品を買うのか、をユーザーが自ら決められるようにしたものです。シンプルな点だと思われるかもしれませんが、構造的な変化にも関わってきます」
●SVGは息の長い文書に、PDFは雑誌制作などに
----ウェブコンテンツ制作分野における御社の現況をお聞かせください。「さまざまなソフト会社がありますが、その中でも、われわれはかなり儲けさせていただいています。もちろんそれには理由があります」
「ひとつは、コンテンツには1ページ当たり平均5つのグラフィックスがあり、ウェブサイトが爆発的に増え、その掲載されるウェブページ数も非常に増えていることがあげられます。もうひとつは、企業が、エンドユーザー向け、チャネルパートナー向け、社内の従業員向けというように、インターネット/イントラネットの開発を進めていかなくてはならないニーズが出てきた。そういった背景があってわれわれの製品は非常に好調なのです」
「われわれの製品は極めてインターネットを指向しています。Adobe PhotoshopやAdobe Illustrator、Adobe PageMakerはもちろん、その他にも特にインターネットを意識した製品として、Adobe ImageReady、Adobe ImageStyler、Adobe PageMill、さらに買収によって引き継いだGoLive社の製品などがあります」
----ウェブコンテンツ制作を支えるグラフィック技術として『SVG(Scalable Vector Graphics)』があります。これとPDFとの関わりについて、説明してください。
「よく聞かれる質問ですが、ユーザーがそれに何を望むのかが1番のポイントだと思います。改訂を繰り返していく文書を“息の長い文書”としますと、息の長い文書にはPDFよりSVGのほうが、おそらく向いているでしょう」
「逆にどういう利用が向かないかというと、雑誌のようなグラフィカルリッチなドキュメントを作る場合です。雑誌を作る場合は、何月号を出してしまったら終わりで、それを改訂する形で次の号が出るわけではないです。そういう、文書の息が比較的短く固定してしまうものに関しては、PDFの方が向いている。われわれはそのような認識でいます」
「それをどのように味付けして使うかは、ユーザー自身にお考えいただくことだと思います。実際にユーザーが使っている現場を拝見すると、結構驚かされる使い方をされている場合もあるんですよ」
●こだわりのサービスにはインターネットが最適
----今後はウェブコンテンツ制作に絡む製品をどのようなマーケットに提案しようとお考えですか?「われわれは、出版業界において成功を納めました。もちろん今後、出版業界がインターネットをどのように取り込んでいくかということに大変関心があるのですが、常にその先に見ていかなければなりません。ですから、他の業界に対しても目を向けていかなければならないと考えています」
「例えば保険、銀行、旅行という業種が挙げられます。これらの業種は従来から当社の顧客だったわけではありませんが、インターネットで事業を展開するようになるにつれ、インターネット用のツールとしてわれわれの製品を利用してもらうようになったわけです。市場自体の大きな変革によってそうした業種が大変速いペースでわれわれの製品を導入・利用していただいています」
「小売業についても、急速にインターネットサイト開設の必要性にせまられています。店舗や倉庫を備えているにも関わらず、インターネットサイトも必要というところが増えています。こうしたところは、顧客からの要望があってインターネット指向になっています。いい例が『Amazon.com』です。書籍業界はAmazon.comで一変したと思います」
●『K2』で既存製品とのギャップの橋渡しを
----最後にプロフェッショナルユーザーの関心が高い『K2』についてお聞きします。現在日本の出版業界ではK2が大きな話題になっており、特にQuarkXPressのユーザーが、アップグレードをするか、それともK2を待つかという選択に心を砕いています。「まず、日本におけるDTP市場全体を見てみると、オートメーションのオファーがどれくらいのシェアかということだけではなく、かなり独自の部分が大きいのではないかと思います。その点はわれわれにとって興味深い点です。例えば、1台目の車を買うときは、かなり納得して買いますが、2台目には相応の技術的な進歩と十分な説得力が必要です」
「DTPシステムでも同じことで、現行のものから切り替えるには、それなりの根拠が必要だと思います。今回の当社からのオファーは、そうした非常にエキサイティングで新規性に富んだ製品となります。もちろん乗り換えるということは、なかなか厳しい判断であるということは承知していますが、納得がいくだけの変更が盛り込まれている言えます」
「製品の詳細に関しては、現状ではあまり情報を差し上げられませんが、英語版の具体的なフィーチャーについては、2、3ヵ月後にぜひお話させてください。われわれは、このマーケットに進出して相当な年月になりますし、日本のDTPシステムに求められているものと、われわれが提供している製品との間にギャップがあることは承知しています。今度のDTP新製品で、そのギャップの橋渡しができると考えています」
----Quarkには『Quark Publishing System』という出版システムがありますが、同様にワークフローを管理するシステムはお考えですか?
「ユーザーからの要望もあり、ユーザーのニーズは充分理解していますが、具体的な開発の話をする段階にはありません。まず、ワークフローが欧米と日本では少し違いますので、たとえわれわれがそのような製品を米国で開発し、それを単に日本語化しても、ユーザーに受け入れてもらうのは難しいと思います。むしろ、Adobe Acrobatを中心にしたPDFでのワークフローを提供することを、ひとつの柱として考えています」
●日本語の課題と書体充実に注力
----プロフェッショナルユーザー向けには具体的にどのようなプロモーションを行なう予定ですか?「私と日本のマネージメントチームの任務は、日本固有の要望を本社に確実に伝えること、そしてその計画を日本で実行するということにあります」
「日本はDTPのワークフロー自体が、他国とは異なりますし、言語的な要望も非常に厳しい。単にダブルバイトの問題だけではなく、日本語そのものが要件を満たす上での大きな課題になっているわけです。米国の全製品に関して、日本の要件に合うような形にし、さらに強力な営業マーケティング戦略を展開していきたいと考えています」
----フォントは現在『小塚明朝』を出されていますが、今後どのような展開をされますか?
「商業印刷物の中で、ユーザーに満足して使ってもらうには、フォントの種類自体が従来の写植機などと比べて少ないことは事実だと思います。当社でもフォントの充実は考えていきたい。2月1日に発表した戦略のなかで、『Adobe Acrobat』が非常に重要なポジションを占めています。次期バージョンの『Adobe Acrobat』では、日本語フォントの埋め込みもサポートする予定ですので、さらにわれわれの製品を使ってもらうユーザーの領域が広がってくると思います」
「そういう意味でも、使ってもらえる日本語フォントを増やしていくことは、われわれの戦略のひとつとして考えています。具体的にはまだ発表できませんが、明朝書体を出しましたので、次にリリースするものがどんな書体になるかは想像がつくのではないでしょうか」