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新しい“知の経路”とは~“次世代デジタルアーカイブと知的市場の創出”

1998年11月30日 00時00分更新

文● 報道局 伊藤咲子

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編集し、情報をネットワークで結んでこそ博物誌、博物館

 27日、千葉市・幕張で開催された“ContentCreation+NICOGRAPH 98”会場内において、“次世代デジタルアーカイブと知的市場の創出”とするセッションが開催された。ウェブ上で流通する膨大な情報をどのように編集していくかを考える。参加パネリストは編集工学研究所所長の松岡正剛氏、同所の太田剛氏、クリエーターの高城剛氏、北海道大学工学研究所教授の田中譲氏

右が大田氏、左が田中氏右が大田氏、左が田中氏



 冒頭、松岡氏はヘレニズム時代の情報アーカイブシステム“カリマコス”を紹介した。アレキサンダー大王が建設した世界数十のアレクサンドリア市は、このシステムをムセイオン内に置くことで同じ情報を共有していたという。「本来、ネットワークと知識という言葉は同義語に近いのです。現在、ウェブ上には情報が氾濫していますが、それを編集する機能がない」と嘆いた。

右が松岡氏、左が高城氏右が松岡氏、左が高城氏



 このことに関しては他列席者も同感の意を表した。田中氏は「情報が人間の頭から外に出る時、必ず何らかのメディアに載らなければならない。そのメディアの開発が急務である」と述べた。

京都デジタルアーカイブの試み

 では、そのメディアとは何だろうか。田中氏が中心となり北海道大学では『IntelligentPad』と呼ばれるシステムを数年前より開発。現在では大企業も参加した一大プロジェクトとなっている。このシステムではソフトウェアの部品をパッドとして表現する。編集や課金、保護、管理、検索といった機能を統一的に提供することが可能になる。例えば、あるユーザーがパッド部品を組み合わせてロールプレイングゲームのフィールド画面のような2次元空間をウェブ上で公開する。視聴者はその空間を自由に移動でき、設定によっては書き込みプログラムの追加なども可能になるというものだ。

 この『IntelligentPad』を利用したのが京都デジタルアーカイブコンソーシアムが製作している『THE MIYAKO』だ。寺社仏閣や伝統芸能、生活習慣など京都特有の文化をコンテンツとしてデータベース化したものだ。空間軸、時間軸だけではなく、“梅-うぐいす”、“牡丹-蝶”といった日本の慣例的なシンボルの組み合わせや、“神輿-山”“しめ縄-蛇”といったメタファーなどからも情報をリンクさせてある。舞妓や能楽師による生きた京都弁のナレーション機能もある。

 このプロジェクトに参加した松岡氏は「掛軸や三具足などをかざった床の間のようなマルチウィンドー方式を目指した」と言う。『IntelligentPad』システムにより、『THE MIYAKO』は完成後に市民の書き込み機能も付与する予定とのことだ。

※『THE MIYAKO』は12月8日より国立京都国際会館で開催される“デジタルアーカイブ国際会議'98京都”に展示される予定。

ミームカントリー構築を目指す

 一方、全般的なウェブ上での情報の編集はどうであろうか。編集工学研究所は、松岡氏が中心となり、来夏の公開を目指して“ミームカントリー(編集の国)”というプロジェクトを開始しているという。ミームとは、情報の経路を人間のDNAによる遺伝になぞらえたもの。この場合文化的遺伝子と定義付けられている。

 高城氏は「レコードショップの店員のコメントのように、ウェブ上の情報を評価する人がいてもいいと思う」と言う。松岡氏はこれに同感、“ミームカントリー”では、時間軸や空間軸だけではなく情報の目利きによる体系化も考えているという。また、情報の旬といったことも、要素として取り入れて行きたいと抱負を語り、セッションを終了した。

 ポータルサイトがインターネットの窓口として人気を集めている今、編集工学研究所の試みは興味深いものである。インターネットのソムリエがムーブメントとなる日は近いのかもしれない。

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