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【World PC Expo98】アップル、SGI、アドビとグラフィック系企業が出揃うも内容が薄かった基調講演

1998年10月08日 00時00分更新

文● 千葉英寿、報道局 清水久美子

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 デザイン&パブリッシングにフォーカスした展示も多く見かけられた“WORLD PC EXPO”の3日目、2日の基調講演は“Seybold”などのデザイン・印刷系の展示会を思わせるような講演が目白押しとなった。アップル、シリコングラフィックス(SGI)、アドビの各米本社幹部の講演について報告する。

“アップル5段階の進化”とは?--米アップルコンピュータ社フィリップ・シラー氏

 2日に米アップルコンピュータ社のフィリップ・シラー氏が行なった講演は、基調講演の中でトヨタ自動車の豊田碩氏の講演と並ぶほどの盛況を見せた。シラー氏の話は、暫定CEOスティーブ・ジョブス氏がこれまでのさまざまな講演で示していたアップルの進化の5段階に基づいたものだった。

米アップルコンピュータ社ワールドワイド製品マーケティング担当副社長フィリップ・シラー氏
米アップルコンピュータ社ワールドワイド製品マーケティング担当副社長フィリップ・シラー氏



 講演では、“Survival”、“Product Strategy”、“Mac OS”、“Applications”、“Growth”という5段階をアップルがどのように進化し、成功に向かっているか、を説明した。“Survival”は、アップルのこの1年を振り返り、財政的な苦境から脱し、黒字転換をなし得たことを示した。

 “Product Strategy”では、その成長を支えた製品群を紹介した。プロフェッショナル向けデスクトップの製品として125万台以上を売り上げた『PowerMac G3』、プロフェッショナル向けポータブルとして『PowerBook G3』、コンシューマ向けデスクトップでは、おなじみとなった『iMac』を紹介した。『PowerBook G3』は、すでに米国では登場しているマシンに搭載されたDVD-ROMドライブのデモンストレーションを行なった。デモでは、DVDビデオタイトルの映画『オズの魔法使い』を再生し、日本語吹き替え機能や青少年向けの規制も扱えるコントロールソフトを紹介した。また、来年には日本でも登場する、とアナウンスした。

初お披露目となった『Mac OS 8.5』

 “Mac OS”の項目では、まもなく登場する予定の『Mac OS 8.5』を紹介、“Must-Have Upgrade(アップグレードすべき)”だと強調した。『Mac OS 8.5』のデモンストレーションでは、アップルコンピュータ(株)プロダクトマーケティングの櫻場浩氏が登場し、インターネット検索機能を持った検索ユーティリティー『Sherlock(シャーロック)』を紹介した。70以上の新機能の1つだという。櫻場氏は、日本語版の『Mac OS 8.5』で『Sherlock』を使い、ブラウザーを立ち上げずにAltavista、Excite、Infoseek、Lycosを使ったインターネット検索を実行してみせた。

 シラー氏はこの他に、Windows NT環境よりも2倍近くにまで向上したというネットワークパフォーマンスについて言及した。さらにColorSyncならびAppleScriptといったパブリッシングには欠かせない機能の向上についても紹介した。

 AppleScriptは、PowerPCに最適化されたことで格段にパフォーマンスが上がった模様である。フォルダーにAppleScriptを付加する新機能“フォルダアクション”を3つのフォルダーを使って紹介した。

進化したAppleScript

 以下のような実演をみたところでは、十分高機能であると記者は判断する。“Create”フォルダーにあらかじめ用意されたQuarkXPressのファイルと『Photoshop』のイメージデータを放り込むと、同時にそれぞれのソフトが起動し、連動して瞬時に自動レイアウトした。さらに“Convert”フォルダーではそのイメージデータをリサイズしてHTMLに変換した。“Catalog”フォルダーでは、イメージデータベースソフトでカタログ化してみせた。業務でDTPを行なっているユーザーにとっては、まさにため息の出るようなデモンストレーションとなった。

 “Applications”では『iMac』の発表以降、1000以上のアプリケーションの開発表明などがなされ、ますます充実していることを強調した。最後の“Growth”について、今後は、“Design&Publishing”、“Consumer”、“Education”といった分野、特に“Consumer”に力を入れていくとした。また、ディズニーやソニー、ナイキといったブランドと同等の価値を持つユニークな資産である“ブランド”を高めていく考えを示した。

 講演内容は、特に目新しいものではなかったが、日本で『Mac OS 8.5』に関して講演するのは初めてのことであった。一般のパソコンユーザーを対象とした“WORLD PC EXPO”で行なうことはそれ相応の効果はあっただろう。その表れか、講演のスタート時にはシラー氏のプレゼンテーションに戸惑っていた聴衆も、最後にはシラー氏のジョークにも反応するまでになった。

Web制作への意欲を強めたアドビシステムズ

米アドビシステムズ社のエグゼクティブバイスプレジデント・ワールドワイドフィールドオペレーションズのフレデリック・スノウ氏
米アドビシステムズ社のエグゼクティブバイスプレジデント・ワールドワイドフィールドオペレーションズのフレデリック・スノウ氏



 2日には、アップルコンピュータの他にデザイン&パブリッシングで重要な位置にいる企業の講演が開催された。午前中には、米アドビシステムズ社のエグゼクティブバイスプレジデント・ワールドワイドフィールドオペレーションズのフレデリック・スノウ氏が講演をした。テーマは、“デジタルイメージのもたらす情報社会の時代”。米Quark社からの買収持ちかけ騒ぎが一段落して、余裕の表情だった。

 米国でのソフトウェア産業は、自動車産業などに続く現在3位の産業。中でも、インターネットをチャネルとした販売方法は注目を浴びており、電子商取り引きも将来が有望視されている。企業は付加価値のあるWebサイトの構築に競って励んでいる。インターネット上で商品を販売していく上で、消費者に対してどれだけよいイメージを提供できるか大きなポイントだとスノウ氏は言う。Infoseek社の調査によれば、500のトップWebサイトで、約62パーセントの画像が『Adobe Photoshop』を利用して、イメージアップに効果を出しているとし、魅力的なイメージングニーズの重要性を語った。

 また、そのためには、シームレスなソリューション提供が重要だと強調。ベクトル方式である“SGML”を提唱し、リッチなコンテンツ制作を実行する製品と、最適化のためのツールを提供していきたいとした。製品などのテクノロジーの開発だけでなく、Webにおける最適な言語を提唱し、標準化を図っていくことを掲げた。

 講演の後半には、アドビシステムズ(株)の中村真理子氏が登壇し、新バージョンの『Adobe Illustrator』、『Adobe Photoshop』、『Adobe ImageReady』、新製品の『Adobe ImageStyler』などを操り、ツールによる手順の切れ目を意識せずに、Web制作を実行してみせた。

シリコングラフィックスは新しい液晶ディスプレイを発表

米シリコングラフィックス社上級副社長トム・ファーロング氏
米シリコングラフィックス社上級副社長トム・ファーロング氏



 UNIXベースからWindows NTへの方向転換で揺れる米シリコングラフィックス社からは、上級副社長のトム・ファーロング氏が登壇し講演した。

 ファーロング氏は、同社が“ビジュアル・コンピューティング”という言葉を生み出した話から始めた。従来から将来まで3D CGを中心にした“ビジュアル・コンピューティング”のメインプレーヤーであることを、事例に基づいて強調した。

 壇上には白布に隠されたマシンを置き、来場者の期待をあおった。しかし、その中から登場したのは、同社の戦略マシンである『Visual Workstation』ではなく、新製品の液晶フラットパネルディスプレー『Silicon Graphics 1600SW』だった。三菱電機(株)との共同開発だ。後半は、その紹介に終始し、盛り上がりに欠けたまま講演が終了した。

 アップルのシラー氏の講演自体は充実したものだったが、内容は結局スティーブ・ジョブス氏のものであり、シラー氏の個人的な見解を述べるものではなかった。アドビにしても、SGIにしても、グラフィックユーザーにとっては注目に値する企業である。各基調講演に大変期待していたのだが、いずれも製品の紹介に終始し、予定の時間を余して終わった。

 3氏ともに米国の主要な企業の要人だったにもかかわらず、それぞれのビジョンや思いについて語ることがなかったことは、大変残念だった。

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