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「カテゴリー別の“iMacアップデート”について検討中」--アップルコンピュータ原田社長に聞く

1998年10月06日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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 iMacが発売を開始して1ヵ月が経過した。売れ行きは好調という見方が強い。iMacはコンピュータ業界の枠を超えて、社会現象になってきていると筆者(千葉)は現状を捉えている。しかし、そこには販売面をはじめ、さまざまな問題や課題が生じている。そうした疑問について、アップルコンピュータ(株)の原田永幸社長を直撃した。取材および構成は、フリーライターの千葉英寿氏。

「100点以上をとる販売店の育成をサポート」とおおみえをきる原田社長「100点以上をとる販売店の育成をサポート」とおおみえをきる原田社長



「Macを買わない理由はなくなった!」と認識

----iMacの発売が開始されてまもなく1ヵ月です。実質的な数字はこれからということになるのでしょうが、少なくともはiMacが好調であることは明らかだと思います。原田さんはこの状況をどのように捉えていらっしゃいますか?

「確かに好評をいただき、販売も好調です。しかし、こうした中で一部のメディアには、今回の状況を“起死回生”、“Appleの逆襲”というフレーズで報道しているところがあります。1年前のマイクロソフトとの提携の際には、“軍門に下る”、“白旗上げる”といった言葉で書かれ、私はメディアに対してとても失望しました。われわれはこの1年、プロユーザーの満足度を上げ、3期連続で黒字を出すなど、決して死に絶えるような状況ではありませんでした。それどころか、すでに回復を成し、iMacで成長に向けて動き出したというところなのです」

「iMacが好調な理由は、Windowsとは関係のないところにあります。その証拠にiMacが出てもWindows 98の売り上げには影響していないし、Windows 98がMacの売り上げに影響を与えたりしていません。確かにWindowsは、9割のシェアを持ち、アプリケーションの数が多いデファクトスタンダードかも知れません。ところがユーザーが本当に使うソフトの大半は『Office』で、あとは+αで充分であるわけです。しかも、『Office 98 Macintosh Edition』が出た今では、“Macを買わない理由”がなくなってしまったわけです」

----iMacはホームユースということですが、若年層へのアピールはどのように考えていらっしゃいますか?

「まず、小・中学生や高校生に評判がよいとしても特別にそのターゲットに向けた行動を特に起こす予定はありません。というのは、iMacは一過性のブランドではなく、今後、われわれの大きな柱としてブランドイメージを確立していかなければならないものだからです。それには、そうした細かくセグメントされたマーケットには、販売店さんが行なわれるような“間接話法”に期待しています。もちろん何もしない、ということではなく、ゆっくり一つずつやっていこうということです」

----iMacのつぎには、コンシューマー向けのポータブルが控えていますが、これはどのようなものになるのでしょうか? あちこちで『iMac Portable』だとか言われていますが。

「まず、私はその『iMac Portable』という言葉を使ったことはありません。みなさん『iBook』とか、いろいろと話題していただいているのは嬉しいことでなのですが(笑)。日本人から見て必要なのはモバイルマシンで、私自身、PowerBook 2400を愛用しています。それが日本のニーズであることは間違いありません。それに対してアメリカでは、そうしたサイズが受け入れがたいところがあります。もちろん我々にも小さく薄く作る技術はあります。しかし、設計も部品も共通化しているのが今のビジネスの基本ですから、日本だけ、アメリカだけ、という製品を作るのは大変難しいのです」

「100点以上をとる販売店の育成をサポート」と宣言

----iMacから新しい販売体制を取られていますが、入荷の遅れなどさまざまなトラブルがあるという声が聞こえてきます。出荷は順調なのでしょうか?

「いろいろなところから“モノが足りない”という情報が先行して出てしまっているようで、私どもも困っております。そうした情報が販売店やユーザーの間で流れているということですが、こうしたことは決してありません。私どものところに入っている報告ですと、現時点で在庫のある販売店もありますし、万一、在庫のない販売店でも週末に(製品が)なくとも、次の週末には入荷しています。これは逆に、そうした情報が流れたのが原因で販売店の製品確保や予約超過が起き、あるべきところになくて、必要のないところにある、という状況が起きたためだと考えています」

 すべての販売店を調査したわけではないが、後日、筆者(千葉)がソフマップ大宮店を調査したところ、そこには確かに在庫があった。

----「iMacはプリンタには対応しない」と誤って説明するなど、キチンとした説明のできない販売店があるという声が周囲から聞こえています。きちんと説明できる店、あるいはきちんと説明して売る販路を探すという話でしたが、これに対してはどのように改善されるのでしょうか?

「そうした十分でない販売店があることは、当然、認識しております。こうした状況を改善すべく、私どもの社員がすでに基本的なトレーニングを始めています。iMacの販売店は私どもと経営戦略の理念が一致しているところでして、最初から100点ではなくとも、100点またはそれ以上をとるお店であると考えています。また、販売店の中にはPCショップではないところもあって、PCに興味がない人がくる店ということもあります。すぐにメモリー増設だなんだといった詳しい人が最初からいらっしゃるわけではないということを想定しています。そうしたところには、特別のプロジェクトフォーメーションを組んで、私どもが各販売店にあったサポートを行なっています」

「“iMacにプリンタがつなげない”というのはあきらかに誤った認識です。USB対応機器については、最新の情報が伝わっていないということもありまして、現在、各社の対応が固まったところで、USB対応のガイドブックを出して情報の徹底をしていく心づもりです」

コアマーケットはあくまでプロ向けのビジネス

----今回のiMac発売にあたって、販売形態が大きく変化したことにより、特に法人向け取り扱いディーラーの問題でユーザーが混乱しているという現実があります。この点はどのように改善されるのでしょうか?

「iMacばかりが注目されてしまっていますが、私どものコアマーケットはあくまでプロ向けのビジネスです。しかし、現実には法人販売系の販売インフラがまだまだ足りません。これが現在の私どもにとって目の前の一番大きな課題になっています」

「ビジネスのサイクルというのは、実は商品のサイクルより長く、シーディングや互換性テストをしたり、営業も結構長いものです。そうしたことを踏まえて、法人販売系の営業サイクルと私どもの商品サイクルをキチンと連動することができるようにするのが要だと思います。ここの部分が一番弱かったのです」

「今後のプロ向けビジネスには、サーバーが大事で、Macドリブンよりもソリューションドリブンまたはサーバードリブンのビジネスが必要だと考えています。その点は、ぜひご安心いただきたいですね」

「カテゴリー別の“iMacアップデート”について検討中」

----そうした商品サイクルやビジネスサイクルの調整を取るために“アップグレード”というサービスが有効だったと思いますが。

「そうなんですが、アップグレードはきわめて危険なんです。不良在庫になる可能性が高く、コストの高さは新商品と変わりません。そういう点でファイナンス上は非常にインパクトが大きいわけです。これはどこのメーカーさんも同様に厳しいのではないでしょうか」

「だからといって、そうしたサービスを切り捨てるのではなくサードパーティーとうまく連動するとか、情報を上手にシェアしながら同期していくといったことが考えられます。また、販売店と受注を取る時期をしっかり見据え、商品サイクルを見据えて営業をやっていくような仕組みを作っていくのが第一義だと承知しています。それにはiMacの販売店がしっかりして、はじめて法人販売系もできてくるのでしょう。そうしたことに対応して、社内の営業体制も徐々に分けて動いていこうと思います」

「そうした意味で、コミュニケーションが一番大事であることは強く認識しております。中身ももちろん大事ですが、なかでもスピードが大事であると判断しています。その方法として、ユーザーに直接サイトにアクセスしていただいたり、“iMac Update”のようなものを各カテゴリーで行なうといったことも検討中です」

「潜在顧客に対するアプローチとしては、私どもの社員がトレーニングを含めて直接、販売店でのアプローチを1年前から始めています。さらに重要なものとして、ユーザーズクラブとの直接のコミュニケーションも大事にしていきます。先日もユーザーズクラブのイベントに参加させていただき、みなさんの厚い支援に感激しました。こうしたことは、共有の財産となりますし、コミュニケーションの質も高くなります。今後も積極的に参加していくつもりです」

「MacOSを“モダンOS”にしていく」

----Mac OSは今後どのように進化するのでしょうか? ロードマップでの説明ではなく、具体的にどのようなものに変わるかについてお聞かせください。

「技術的なお話は私からはお話できないのですが、マルチタスク、メモリプロテクションといったことを“モダンOS”への第1ステップとして実現していくことには違いないと思います。ただ、その人間をアシストしていくということをお客さまの投資を保全をしながら、選択の幅をどのように広げていけるかです。Windowsなら今後もWindowsで、Mac OSならMac OSで、という世界だけではないでしょう。これをいかに発展的なバリューとして提供できるか、これがどこまで技術的に、戦略的にできるのか、ということをぼんやりと考えているところです。

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