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【Key Word Survey】予算がない!

1998年08月20日 00時00分更新

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  日本のインターネットビジネスにおいて、儲かったといえるのは、初期の企業ホームページ制作を行ってきたWeb制作会社ぐらいなものではないか。'95年頃、アメリカからインターネットの波が押し寄せ、横並び意識の日本の企業は、Webが何事であるかも充分に吟味せず、企業ホームページ立ち上げ競争に走った。

 当初はHTMLを駆使できる人材もツールもなかったので、いったい、誰がWebを制作してくれるのか分からなかった。企業の担当は、主に広報、宣伝部であったので、広告代理店に相談し、広告代理店は、出入りの広告デザイン事務所に作業を発注した。デザイン事務所は、DTP作業があるためにMac使いが多く、彼らの先端的な部分は、趣味でHTMLをかじっていたから相談しやすかった。かくして、日本の企業ホームページの立ち上がりは、デザインセンスだけが主張する、重たいサイトとなって、現れたのである。広告デザインは高いっすよ。

 ちょうど、80年代の初期に、パソコン利用が拡大し、プログラムを組める人間が少なかったころ、どんなプログラムでも最低200万円とれていた時代の雰囲気に似ている。新しい技術には、適正価格というものがないから、とりあえず“作り手側の希望価格”が通ってしまうのである。

 しかし、市場経済は残酷である。一時は、1ページ最低10万円かかりますよ、と強気で言っていた制作会社が、今は、一式100万円で一通りのことはいたします、と低姿勢である。

 一方、企業の側も、当初は、「インターネットというのは、なんだか分からんが、大変なもんだから、金がかかる」と大幅な予算設定をしていたが、やがて熱が冷め、金融不況が訪れ、インターネットの効果すら疑わしいものになってしまい、予算削減の嵐・嵐・嵐である。

 賢いWeb制作会社は、昨年より「もう、インターネットは、おいしくない」とばかりに、本来の業務に戻りつつある。予想通り、今期の予算は、多くの企業で大幅削減である。予算削減の上、上からの要求は増えるばかりで、企業の担当Webマスターは、ひいひい言ってる。

 さてさて、キーワードは“予算がない!”である。金が目的でインターネットにかかわったのか、あくまで自分たちがやりたいことがあって、それを実現するための手段として“金”が必要だったのか、ここいらで、人間の質というものが、はっきりとしてくるだろう。予算がないことは悲しいことだが、しかし、予算があふれるほどあった時代に、日本のクリエーターがやってきたことを考えると、予算だけの問題でもないな、と、しばし思うのである。

(株)デジタル・メディア研究所
http://www.demeken.co.jp/~kit/dajare/index.htm

橘川 幸夫(きつかわ ゆきお)氏プロフィール

1950年、東京都出身
(株)デジタル・メディア研究所 代表取締役所長、(株)メタ・ブレーン 取締役出版事業部長、(株)マジック・ポイント 代表取締役社長

この記事は、「Focussed Series」からもアクセスできます。多彩な筆者の寄稿を収録中です。

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