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【INTERVIEW】「地域こそネットワークの中心に」公文俊平・グローコム所長

1998年04月10日 00時00分更新

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 われわれの生活に、急速に浸透しつつあるインターネット。これによって、人間の生活スタイル、コミュニケーションはどう変化するのだろうか。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(グローコム)所長の公文俊平氏に、将来のネットワークのあり方、コミュニティーのあり方などについて伺った。同センターでは、情報社会などをテーマに研究活動をしており、インターネットを通じて研究成果の公開、啓蒙活動なども行なっている。



CAN(Community Area Network)とは

――先生は“CAN(Community Area Network)”という、ネットワークの新しい概念を提唱されてますよね。

「CANとは、地域を中心としたIP型ネットワークインフラのことです。ある地域のすべての家や店を、Mbps単位、Gbps単位のネットワークで相互に結び、その上に買い物、通信、仕事、遊びなどが行なえる共有アプリケーションを載せられないかと考えています。そして、ひとつのCANは、また他のCANや国のバックボーン、世界にもつながっていくという構造をとります。言葉自体は、できるの意の“CAN”とかけてるんですがね」

――CANはLANの集合体と考えればいいのでしょうか。

「そうですね。ある地域のLANを複数ひとまとめにし、高速ネットワークで結んだものと考えられます。コミュニケーションとは、本来商売のためではなく、日常の生活のためにあるものです。ネットワークも、日常のコミュニケーションを支えるものでなくてはならないと思うのです。私はコミュニケーションについて、“8:2の法則”が成り立つのではないかと考えているんですよ」

――“8:2の法則”。どういうことですか。

「コミュニケーションのウエイトは、ひとつのコミュニティーの内部と外部に関して考えると、およそ8:2の割合で行なわれているのではないか、ということです。たとえば日常生活において、家庭や職場におけるコミュニケーションが8割、それ以外でのコミュニケーションが2割。同じように、都道府県内などの1コミュニティー内部でのコミュニケーションが8、外部が2、また国内が8、国外が2。およそそんなものだろうと思うんです。インターネットといえば、海外と英語で、と考える人もいますが、多くの人は身近な人とのコミュニケーションに利用しているのではないでしょうか。したがって、ネットワーク速度も身近な地域内ほど高速でなければなりません。地域こそがネットワークの中心になるべきなのです。それがCANという概念につながるわけです」

アメリカにおける地域中心型ネットワーク

「アメリカのブラックスバーグ(バージニア州)では、5年前から地域全体のネットワーク化を開始しています。人口2~3万人のこの町では現在、買い物の半分以上がインターネットを通じて行なわれています。スーパーなどもホームページを持っていて、インターネットで注文すると家まで届けてくれるのです。日本でもそういったネットワークを作らねば意味がないと思います」

――アメリカでは民間業者が、このようなネットワークを構築するわけですか。

「アメリカでは近年、Worldcom、Qwest、Williamsなど新しい通信業者が次々と現われています。アメリカの通信回線容量はこの3年で数十万倍、5年で数百万倍になるのではないでしょうか。需要のほうは、年10倍程度しか増えないと見られているので、3年で1000倍、5年で10万倍という計算になります。こうなると供給過剰で通信料金はうんと安くなるでしょう。インターネット電話も当然のものとなるはずです」

――現在の電話はどうなるのでしょう。

「骨董品も同然でしょうね。また同時に、現在の電話回線のはり方も見直すべきです。まず、すべての回線を電話局で統合する必要はないのではないでしょうか。CANの考え方でいくと、要所要所にルーターを置き、複数のLANを太い回線でつなげばよいということになります。回線を横へ横へとつなげば、回線の総延長距離も短かくできるはずなんです」

――CANは今後、どのような展開を見せるのでしょうか。

「アメリカの新しい通信業者が構築しているのは、現在のところまだバックボーン止まりです。1~2万マイルのケーブルを引けば全米の主要都市を結ぶことができ、金額的にも数十億ドルで作れるそうです」

「しかし、アメリカもバックボーンの先にある地域こそが重要だということに気づき始めています。今年に入って特に、“コミュニティーネットワーク”ということを盛んに言ってますね。しかし日本では、論議にすら入っていない。NTTも企業内の再編などに時間を取られすぎだという気がします。CANというのは、本当はわれわれが先に言ってたことなんだけど、アメリカは動き出すと早いですから、残念ながら日本は追い越されるでしょうね」

 今回、中心にお話しいただいた“CAN”をはじめ、公文氏の著作物のなかには、“智業”(研究活動、啓蒙活動など、“智”の通有のためにする行ない)、“具身”(バーチャルリアリティーの一側面。現実世界に匹敵するあるいはそれ以上の現実感や刺激を、人間に直接与える対象)など氏の造語がところどころに登場する。このことについてお伺いすると、「新しい概念に対応する言葉がない。言葉も作らねば仕方がない」と笑っていた。常に新しいことを考えている人だという印象を受けた。(報道局 浅野広明)

・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(グローコム)
 http://aska.glocom.ac.jp/

・CANフォーラム
 http://www.can.or.jp/

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