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エジソン生誕150周年記念展で、菊池誠・東海大教授が特別講演

1998年03月23日 00時00分更新

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 1月23日から東京・青山TEPIA(機械産業記念館)で開催されているエジソン生誕150周年記念展“日本のエジソンたち”で、さる21日、東海大学工学部教授の菊池誠氏による特別講演が行なわれた。テーマは“トランジスタ誕生50年”。菊池氏は、トランジスタ創成期のエピソードや、自らとトランジスタの関わりなどについて語った。記念展は3月27日まで開催される。



トランジスタ創成のころ

 トランジスタを発明したのは、米ベル電話研究所のウイリアム・ショックレー、ウォルター・ブラッテン、ジョン・バーディーンの3氏('56年にノーベル物理学賞を受賞)。発表したのが'48年だから、今からちょうど50年前ということになる。菊池氏はその時、大学を卒業して通産省電気試験所(現・電子技術総合研究所)に入りたてだったそうで、一科学者としてトランジスタに強い興味を覚えたものの、現在のように人間の生活に大きな影響を与えるほどの技術に発展するとは想像できなかったことを認めている。「ここまでの技術になろうとは、ショックレー、ブラッテン、バーディーンの3人でさえ思いもよらなかったでしょう」(菊池氏)

 彼らとも交遊があった菊池氏によると、ショックレーとバーディーンは極めて対照的な人格を持つ科学者であった。ショックレーは、絶えず相手をにらみつけるようにしながら次々と言葉を繰り出す人で、接する者をして“かみそりの刃”を思わせた。一方のバーディーンはめっぽう口数が少なく、接する者に暖かい印象を与えた。このふたりは共同してトランジスタを発明したものの、結局はそりが合わず、まず'51年にバーディーンがベル電話研究所を退いた。ショックレーも、'56年に自ら研究所を設立することとなる。

 この対照的なふたりのその後も興味深い。バーディーンは、'72年に超伝導理論で二度目のノーベル物理学賞を受賞している。ショックレーは自分の研究所であまりに厳しい管理体制を敷いたため、ロバート・ノイスをはじめとした部下8人が研究所から独立。彼らが共同で設立したフェアチャイルド・セミコンダクター社は、シリコンバレーの基礎を築いたという。

ソニーでCCDカメラを開発

 '56年、ソニー(株)は世界初のトランジスタラジオを開発、そのころから日本のトランジスタ産業は急速な発展を遂げた。「トランジスタラジオを技術者の夢として掲げ、周囲から馬鹿にされながらもそれを成し遂げた井深大さんの功績は大きかった」。'60年代に入ると、トランジスタは、単体の時代から集積回路(IC)の時代へと移り、'70年代にはICもLSI、超LSIと大規模化を実現していった。

 菊池氏は、一貫してトランジスタや半導体の基礎研究に従事していたが、'74年に通産省を退官し、ソニーに入社。ソニー中央研究所所長として、岩間和夫氏が'72年より進めていたCCDカメラ開発の陣頭に立つこととなる。CCD(Charge Coupled Device)とは、光を電気信号に変換する受光素子のことで、画像を電気信号に変える用途などに利用される。「岩間さんは、ソニーの技術者にチャレンジングなテーマを与えなければいけないと考えていたのです。そこに、高度なLSI技術を必要とするCCDカメラというテーマが合致した」

 問題は、CCDカメラの映像に付着する黒や白の無数のキズだった。しかし、40人以上のプロジェクトチームを組み、3年がかりで試行錯誤した結果、そのキズを“数えられる”程度まで減らすことに成功した。それを見て、岩間氏は突然、製品の生産を担当する半導体事業部へプロジェクトチームごと移動するよう指示したのだという。「この研究をいつまでも中央研究所においておくとだめになると考えていたのでしょう。研究のエキスパートとは別に、物を作るエキスパートがいることは非常に勉強になった」

 半導体事業部は真価を発揮した。キズはまもなくほぼ消滅し、CCDカメラは製品化段階へと進んでいった。そして'80年、全日空のジャンボジェット機内の乗客に景色を見せるためのカメラとして、CCDカメラはデビューすることになる。

 菊池氏はその後、'90年に東海大学工学部教授となる。菊池氏の人間や技術を語る目には、研究者ならではの鋭さと、産・官・学と渡り歩いてきた人の持つバランスの良さが感じられた。何でも落語を聞くのが好きだそうで、自身も相当、話し上手だ。(報道局 浅野広明)

http://www.tepia.or.jp/edison.html

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