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“電子マネーの現状と将来”と題し、須藤修 東大助教授が講演

1998年02月17日 00時00分更新

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 (株)日本総合研究所が主催する“第5回スマート・コーポレーション・フォーラム”において、東京大学の須藤修助教授が、“電子マネーの現状と将来”と題する講演を行なった。

 須藤氏は、東京大学社会情報研究所に勤務しており、'97年度は、自治省の“総合行政ネットワーク構築に関する調査研究所委員会”の委員長や、大蔵省の“電子マネー及び電子決済に関する懇談会”の委員などを務めている。



電子取引は個人情報を活用した新しいビジネスをもたらす

 「金融ビッグバンを目前に控え、三重野康前日銀総裁は、“日本の金融機関は、危機意識が足りない”と発言しているが、私は金融機関だけではなく、日本の企業全般に危機意識が足りない、と感じている」

 「ビッグバンによって、欧米の金融機関が日本に上陸し、新しい金融商品を作ろうとしても、日本の企業の株式の配当率はきわめて低いために、いくら日本の株を買っても利回りの高い金融商品を作ることができない。そこで、欧米の金融機関は日本の企業に対し、“なぜ利益が出ないのか”と質問状を送り、場合によっては株主代表訴訟を起こすことすら考えられる。ビッグバンは、金融機関だけの問題ではなく、日本の企業もより高い利益を目指すことが求められるようになる」

 「アメリカでは、すでに銀行離れが進んでいる。そして、銀行以外にも電子マネーを発行することが認められている。電子マネーを発行しようとする金融機関や企業などは、電子マネーを発行することで利益を得るのではなく、電子マネーのやりとりを通じて得られる個人情報をベースにしたビジネスに照準を合わせている。日本でも、(株)ファミリーマートが、電子マネーカードを発行することを表明しているが、あくまでも消費者情報をデータベース化するのが狙い、という」

 「一般の企業にも参考になる事例がすでにアメリカの放送業界で起きている。米マイクロソフト社と米NBCが提携して始めたMS-NBCは、放送で使用した映像やテキストをインターネットで公開している。将来的には、ユーザーひとりひとりが望む情報だけを選択して、配信することを検討している。インターネット上での電子決済が可能になれば、すぐにでも始められる。これまでのテレビは、多チャンネル化によりBroadcastからNarrowcast(Narrow=狭い)へと変化してきたが、私は今後は、より細分化されたWebcastの時代がくると考えている。放送業界で、デジタル化された個人情報をもとに個別サービスが始まりつつあるように、それ以外の産業でも、こうした動きを加速させなければならない」

 「アメリカは、当初インターネット上の電子商取引に取り組んだものの、あまり良い成果が得られず、現在はインターネットにICカードの利用を加味したものへと方針転換した。一方、ヨーロッパ、特にイギリスは、インターネットの普及が遅れていたこともあり、ICカードをベースに開発してきたが、昨年くらいからインターネットとの連動を考えるようになった。米ビザ・インターナショナル社は、Java言語対応の“Javaカード”をベースにしたICカードの開発を始め、また、英モンデックス社を買収した米マスター・カード社も、Javaカードと同じ機能を持つ“MULTOS”(マルトス)の開発を開始した。これらのICカードの特徴は、非接触型カードとの複合化による利便性の向上と、インターネット対応の2点である」

日米とヨーロッパでは、電子商取引で規制が異なる

 「ただ、電子情報に関する扱いは、アメリカとヨーロッパではかなり異なるものになりそうだ。'97年8月にドイツで、“マルチメディア法(情報及び通信サービスの枠組みを定める法律)”が施行された。ここでは、同一ユーザーの個人情報はそれぞれ区別して保存・使用すること、第三者への伝達を原則として禁止すること、消費者は自己に関する個人情報に開示請求権を有すること、などが定められている。これは、いままで述べてきた、アメリカや日本の企業が目指すような個人情報のデターベース化を、ドイツでは行なえない、ということを意味する」

 「また、電子署名に関しても、認証機関は、公開鍵のみを保持し、秘密鍵を保持することを禁じている。アメリカや日本では、認証機関が公開鍵と秘密鍵の両方を保持することを認めており、ヨーロッパと日米では、認証機関のしくみ自体が大きく異なるものになる」

 「EUは、ドイツのマルチメディア法を基礎にして、マルチメディアに関する規制を制定しつある。すでに、アメリカとEUの間で、電子商取引に関して協議を行なったものの決裂した、と聞いている。ただ、認証機関が秘密鍵を持つことを認めるべきか、という点に関しては、アメリカのシリコンバレーあたりでは、プライバシーの観点から批判的な意見が強いようだ」

 「電子マネーを普及させるには、制度面の整備が必要で、特に世界で統一された基準を確立する必要がある。消費者保護、セキュリティーとプライバシー、取引関係の明確化などの問題でグローバルスタンダードが確立される必要がある。日米とヨーロッパとで、どう標準化されるか注目する必要がある」

 「電子マネーは、制度面の改革、技術面での実験が徐々に進んでおり、1~2年後には大きな変化が生じるはず。それは日本では、金融ビッグバンと連動した動きとなる。そして、5年以内にグローバルスタンダードが確立され、電子商取引は爆発的に普及するだろう」

(報道局 佐藤和彦)

http://www.sudoh.isics.u-tokyo.ac.jp/

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