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情報処理学会、デジタル図書館に関するセミナーを開催

1998年01月19日 00時00分更新

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 (社)情報処理学会は、本日、新宿区の工学院大学にて“ディジタル図書館”と題するセミナーを行なった。同学会が主催する“連続セミナー'97”の第5回セミナーにあたり、産・官・学の電子図書館(DL:Digital Library)に対する取り組みが、講演とパネルディスカッションにより紹介された。


奈良先端大学におけるマルチメディア電子図書館構築と今後の課題


砂原秀樹・奈良先端科学技術大学院大学助教授

 DLとは、印刷物をはじめとして、音楽ソフト、ビデオソフト、CD-ROMなどのマルチメディア情報を、デジタル化して収集し、ネットワーク上で提供するもの。奈良先端大学では、'91年に電子図書館プロジェクトを開始、'96年4月にホームページ(http://dlw3.aist-nara.ac.jp/)をスタートさせた。ここでは、全文検索および書誌情報検索が可能で、学内の者を中心とした登録ユーザーは、実際のページもホームページで閲覧できる。全文検索を行なうため、OCR(Optical Character Reader)によって、本の内容をテキスト化しているが、莫大な時間がかかり、「いかに早く情報を取り込むかが今後の課題」と砂原氏は言う。

 図書館はデータを恒久的に維持するという役割を持っている。そのため、デジタルデータは有効であるが、データのフォーマットが将来にわたって通用するのかという疑問が残る。その点について砂原氏は、「PDF(Portable Document Format)、NFS(Network File System)、FDDI(Fiber  Distributed Data Interface)など、なるべく安定した技術を使うことで対応している」と述べた。


電子図書館とマルチメディアドキュメント管理


金崎克己・(株)リコー研究開発本部ソフトウェア研究所員

 金崎氏は、グループウェアなどで利用されている電子ドキュメント管理システム(EDMS)を、DLと統合する必要があると話す。両者の差異はなくなりつつあるが、EDMSの持つ編集のしやすさ、保存の容易さと、DLの持つ、情報をより広く伝達し、より長く保存するという特徴の両方を活かすことが大切というわけだ。金崎氏の専門はデータベースで、ここではデジタル化した情報をどのように構造化すべきかが語られた。中でも、注目すべきはEDMSのAPI標準として検討されているDMA(Document Management Alliance。公式ホームページのURLは、http://www.aiim.org/dma/)といい、DMAを利用したDLのモデルなどが示された。

電子図書館実現に向けて-高度情報社会における国立国会図書館の課題と展望-


”田屋裕之・国立国会図書館総務部主任参事

 国立国会図書館(http://www.ndl.go.jp/index.html)のDLへの取り組みは、'94年に開始された。これは“パイロット電子図書館プロジェクト”と呼ばれ、通産省の特別認可法人である情報処理振興事業協会(IPA)と共同で行なったもの。ここでの成果を基にして、国立国会図書館は来年にもサービスを始める意向で、2000年に開館予定の国際子ども図書館や、2002年に開館予定の国立国会図書館関西館にも応用するという。

 同プロジェクトは行政資料、国宝、重要文化財、雑誌など約1000万ページの書物をデジタル化したほか、全国43の図書館と共同でネットワーク実験やモニターによるシステム評価などを行なってきた。「これまで国会図書館は、他の図書館で見つからないものを閲覧するという最後の拠り所となっていたが、電子図書館システムを導入することで、ネットワークを通してまず最初に訪れるという役割も持つことになるだろう」と述べ、24時間どこからでもアクセスできる情報基盤としてのメリットを強調した。

パネルディスカッション
“ディジタル図書館技術の現状と将来”

 司会は、増永良文・図書館情報大学教授。会場からの質問を交じえて、聴衆として気になる話題が取り上げられた。以下は概要。

増永 DLはまさにインターネットの申し子といえると思いますが、インターネットの利用によって従来の図書館はなくなるのでしょうか。

田屋 コンピューターの利用によりペーパーレス化するといわれながら、紙の消費は増加しているように、従来の図書館もなくならないと思います。国会図書館でも、DLを図書館の進化の一過程と位置づけています。

金崎 私もなくなるものではないと思います。コミュニティーの役割もあるわけですから。

砂原 最近、「DLによって図書館はやっと図書館になるのかな」と強く感じます。これはつまり、貸出業務やラベル貼り、盗難の見張りなどの雑務から開放され、図書館の本来の情報管理に集中できるということです。

増永 DLの課題については皆さんどうお考えでしょうか。

砂原 ネットワークに関していうと、まず大容量化ですね。あともともとインターネットに欠けているセキュリティー技術も問題です。“いたちごっこ”のように、解決すればまた次の問題が発生しますから。

金崎 フォーマットの標準化、システム移行におけるデータの維持、文字コードの国際化、著作権の保護など、課題の多さに気が遠くなる気がします。

田屋 中でも、著作権の問題は特に大きいと思います。たとえば、新聞記事1ページをとってみても、正確に言うとかなりの数の著作権が派生しているわけです。1年ぶんともなると、その数は膨大となり、事実上処理は不可能です。そこで、少額の課金システムが必要となるでしょう。また、利用者のプライバシーを保持しつつ、利用状況を監視するシステムも構築しなければならないと思います。

 DL自体がさまざまな要素を含んでいるだけに、砂原氏もいうように、問題は山積状態。パネルディスカッションでは、ビジネスとしてのDLなどについても議論されたが、技術の変化が速い分野であるだけに、将来の予測も立ちにくいという印象だ。企業としてはお金になるかどうかがシビアな問題で、未知なるものに大量の先行投資はしづらいところ。ただ、DLシステムが出版や流通などに影響を与えることは必至で、社会構造の変化は新たなビジネスを生み出すだろう。(報道局 浅野広明)

http://www.ipsj.or.jp/(情報処理学会)

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