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―我々のお客様は、主体的にツールを選択されている―

インプライズ戦略のすべて

2000年09月18日 00時00分更新

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 Borland C++BuilderやBorland Delphiなどの著名な開発環境を擁するインプライズはまた、コマンドラインコンパイラやRDBMSの無償提供などでも話題を呼んだ。最近では、WindowsとLinuxアプリケーションの同時開発を可能とするツール「Kylix」の開発を発表したことでも注目が集まっている。Microsoftとはまた違う路線を歩む同社は、.NET時代に向け、プログラマ/開発者に対してどのようにアプローチしていくのだろうか?同社の基本思想から最新動向までを聞く。

大野氏
インプライズ(株) RADツール事業部 営業推進グループ グループマネージャー 大野 元久氏

インプライズの基本姿勢

[編集部] 本日はよろしくお願いいたします。Microsoftによりますと、今年の後半から来年にかけて「.NET」やCommon Language Runtime、IL、メタデータというような話が出てきていますが、これらについてどのような取り組みをされていくのか、方向性をお教えいただければと思います。御社の戦略をはじめ、主力製品の特徴やアーキテクチャ/テクノロジーに関しても、お伺いしたいと思います。
[大野氏] これまでも、そしてこれからも基本的には同じで、我々「インプライズ(株)」は、開発者のために最良のツールあるいは環境を提供していくことが目標です。このために、新しい技術を取り込んで、使いやすい形で提供していきます。
 具体的なロードマップということになりますと、少し申し上げにくいところがあります。我々は、社内的にはいろいろな研究をしておりますし、スケジュールも組まれているのですが、製品のリリースがある程度決定した時点で発表をしているのです。つまり、先走って製品の計画だけの“ペーパーウェア”にならないようにしていて、お客様の信頼を勝ち得ています。こうした理由で、たとえば「来年.NETに対応します」といったようなことは、現時点では申し上げにくいのです。ただ、例外が1つあります。「Kylix」です。Kylixに関しては、1年以上先駈けて情報提供しており、我々にとって非常に珍しい製品です。これは、我々自身がWebサイトなどでLinux開発者を募集していたことなどで噂だけがどんどん広まってしまったので、情報が一人歩きしないように開発を発表しました。
 個々の技術についてお話いたしますと、我々は基本的には「中立」であるという路線を採っています。たとえばMicrosoftのように、JavaですらWindows用の開発ツールとして位置づけて開発を進めようということはありません。その理由は、ひとつは会社の規模として難しいということ、そしてもうひとつが、独自の仕様を求めているのではないからです。たとえばJavaについても、独自拡張せずにPure Javaの中で動くツールというものを提供しております。それはJavaにとって非常に重要なことですから。それを維持した上で、開発する環境を提供していく。C++についても、C++言語そのものにはさまざまな拡張を施しているのですが、基本的にはANSI C++をすべてサポートする。インターネット上のプロトコルや、COBRAなども含めて、標準、規格というものに対して非常に忠実に支持していこうというわけです。これらのもの(標準や規格)に対して、とにかく既存の資産をうまく生かせる、シームレスにさまざまなものを統合していくことを考えて、製品開発を行なっています。

個々の製品

[大野氏] 我々はビジュアル開発ツールを3種類出していますけれども、既存の枠やソースコードもあまりとらわれない、より生産的で新しい開発環境を提案していきます。そしてそれは、既存の資産を生かせる形のものを目指しているということになります。
 Windowsプラットフォームに対しては、生産性が高い開発ツールとして「Delphi(Borland Delphi)」が、C++の開発にある程度ノウハウやスキルがある方のために「C++Builder(Borland C++Builder)」があります。
 DelphiはObject Pascalを使いますが、C++の資産をそのまま生かしたい、あるいは自分はC++でもObject Pascalでも構わないけれども、社内にC++のライブラリがいっぱいあるといった場合は、組み合わせて使うこともできます。こうした「統合性」というものも高めているわけです。
 それから、次にJavaの「JBuilder(Borland JBuilder)」ですが、これはPure Javaの開発ツールの中では、他に例を見ない開発ツールとして評価をいただいているものですし、JBuilder Foundationを無料公開したこともありまして、Java開発者の注目度が非常に高いツールになっていると思います。
 エンタープライズの分野では、Windows NTやSolaris上で動作してJavaで動く「Inprise Application Server」があり、分散環境では、CORBA対応の「VisiBroker」が主力製品ということになります。
 また、RDBMSでは先日無料公開した「InterBase」もあります。RDBMSとしては非常にコンパクトで、特に組み込み系などでは非常によく使っていただいております。大規模なシステム構築ではオラクルさんのほうがよく使われていると思いますが、パフォーマンスや機能で特に遜色があるわけでもないですし、InterBase6ではレプリケーションを含めて新しい機能を取り込んでいます。InterBaseでスモールオフィスを安心して構築したいといった方が少なからずいらっしゃいます。

国内開発者の現状

[編集部] 国内の開発者の現状はどうなんでしょうか。英語と日本語の問題などですね。それから、マイクロソフトさんのお話では、なかなか開発者が“いい思い”ができないというか、「プログラマはかっこいいんだ」といったことを感じてもらえなくて、これから何とかそうしたイメージを作り出したいといったような話があるのですが。
[大野氏] まず、日本語の要求が多いというのは我々も痛切に感じていることです。やはり日本語化されない部分は非常に受け入れられにくいですね。我々も製品を投入する際にはきちんと翻訳して出すことが多いですし、開発ツールそのものが日本語化されていないとしても、ドキュメントは日本語で読みたいという方もたくさんいらっしゃいます。英文で技術力を蓄積できるという方は稀有といいますか、全体的な比率としては非常に少ないですね。
 開発者がかっこいいか、かっこよくないかという話は分からないのですが、ただ、我々のお客様は、わりと主体的にツールを選択されているということは、いえると思います。というのは、我々のものと他のツールを比較していただくと、我々のツールのほうが圧倒的に生産性が高いと思うのです。これは私自身そう感じますし、実際に「今までVisual Basicを使っていてDelphiに乗り換えたら、なんでこんなに簡単にできるのか不思議なくらいです」というお話を聞きます。移行した後にVBに戻るという方は少ないですね―もっとも、移行される際にはBasicからPascalになりますので、ここで躓いてそのままになってしまうというお話もたまにはお聞きしますが―。つまり、新しいツールや新しい生産性といった点を積極的に考えておられる方は、我々のツールを選択していただいているというケースが多いと思います。
 そういった意味で、我々のツールは自信を持って使い続けていただいていることが多いのではないかと思います。私もそれほどたくさんの開発者の方とお話したわけではありませんが、メーリングリストやフォーラムでお話を聞きますと、受身的ではなくて、能動的にいろいろと調べられていらっしゃることが多いので、かっこよくないという印象とは違う感じがします。
[編集部] 日本人ですと、複数の言語を取り扱うことができないというお話がよく出てきます。海外のプログラマの場合は、第一言語を持っているうえで、得手不得手や適性を考えて言語を使い分ける人間が比較的多いという話を聞くのですが。
[大野氏] 我々はちょっと見かたが違います。たとえばDelphiでしたらObject Pascal、C++BuilderならばC++、JBuilderならばJavaを使っておりますが、これら1つの言語ですべてをカバーします。我々のツールは、ユーザーインターフェイスを構築するためにも、APIを駆使するようなコアの部分の開発ついても、すべて1つの言語で解決してしまいます。1つのツールで、今までのスキルや資産を生かして上から下までをカバーするということをやっているので、言語を使い分ける必要がないと考えます。ですから、もしそう(日本の開発者が複数の言語を使うのが苦手)だとすれば、日本のお客様にとって、より我々のツールが適正であると思います。
 もちろん、DelphiのフォームとC++Builderのプロジェクトを組み合わせたり、Delphiで作ったコンポーネントをC++Builderに取り込むといったことはできますので、それはいくらでも統合して使い分けることは可能です。
[編集部] 国内における、開発者に対するアプローチといいますか、戦略はどのようなものでしょうか?
[大野氏] 特にDelphiやC++Builderについていえば、Visual Studioの、要するにマイクロソフトさんのユーザーさんをうちに引っ張ってくることだと思っています。ですから、ツールそのものをまず比較していただいて、ユーザーさんをどんどん増やしていきたいと思っています。
 それから、JBuilderについていえば、Sun Microsystemsさんと協力して、Javaがクロスプラットフォームであって大企業の中で使われている状況を踏まえて、「そういったところに自分が就職して即戦力になるためにはJava学習は必要」という意識をもっていただいて、本格的な開発言語をしっかり学んでほしいと思っています。それは私どもの会社だけで実施できることではないと思いますので、いろいろなメーカーさんと協力をしていきたいと思います。
 それから、能動的な、要するに非常に効率の高い開発をしてくれる会社というのはまだまだ不足しているはずです。どんどんインターネットが導入されてきて新しい技術をすぐにビジネスに応用しなければいけない……我々はそのためのツールを提供しているわけですが、どうしても、開発者の方がいないと生かせる機会は少なくなります。そういった意味でも我々のツールのいい面を紹介していきたいですね。新しいビジネスのためにコーディングをたくさんするといった状況にならないようにツールを作っていますので、こうした特徴を紹介する機会を増やすことは考えております。その1つの企画として、「C++Builder Compiler 5.5」というコマンドラインコンパイラの無償ダウンロードサービス(http://www.inprise.com/bcppbuilder/freecompiler/)を、今年の3月に開始しました。これは、我々のC++コンパイラがANSICへの準拠度が非常に高いことを知っていただくために行なったものです。また、JBuilder Foundationの無償配布も、先ほども申し上げて何度も申し上げますが「基礎的な技術が優れている」ということをいかに広めていくかという戦略に沿って行なっています。

インターネット戦略

[編集部] XMLやeビジネスといったキーワードを踏まえたうえで、インターネットに関する戦略はどのようになっているのでしょうか?
[大野氏] インターネットに関して、我々はかなり以前から「Wevolution」―WebとRevolutionを組み合わせた造語ですが―というWebによるビジネスの変革がもたらされた際に、我々の製品が主要な技術となることを目指しています。そのために、Delphi 5もC++Builder 5も、電子商取引やeビジネスなどに適切で、かつビジュアルに開発できる技術ということで取り組んでいます。
 また、それよりずっと以前からプロトコルの技術やWebアプリケーションの開発に取り組んでいます。それらについては既存の技術を利用できるような仕組みを取り入れています。さらにXMLについても、現在Webを使った分散環境の構築で、その内部のデータのやり取りの仕組みとして使っています。C++Builderでは、XMLをたまたまプロジェクト管理で利用するという形で使っていますが、今後は当然XMLそのものをお客様のアプリケーションが自由に加工できるような機能を取り入れていくことを考えております。
 インターネットはそれこそ電話やラジオ、テレビと同じインフラとして進んでいくのは申し上げるまでもないことなので、これに対応していくのは、当然であるというふうに考えています。

Kylix

[編集部] 最後に、Kylixについてはどうなるのでしょう
Kylix画面
[大野氏] WebサイトでUSが公開している情報以外はお答えできないので、その範囲でお話します。基本的にはWindowsとの互換性を重視するということです。これはやはり、お客様の要望が非常に高いのが理由です。我々は、Windowsとの互換性を重視するべきか、それよりもLinuxネイティブで行くのか、どのデストリビューションに対応するかなど、さまざまな調査を行なったうえで、Windowsのネイティブなパフォーマンスを維持しなければいけないということで、「CLX(クリックス)」という新しいコンポーネントフレームワークを作りました。これを使うとLinux上のネイティブアプリケーションをコンポーネントベースで作ることができます。また、WindowsでもCLXをサポートすることで、同じコンポーネントでアプリケーションを作ることができます。
 データベースエンジンについても、ライブラリの形でデータベースにアクセスできる技術を新たに開発いたしました。これは「DB Express」といいます。要するにDelphiやCB++Builderしかアクセスできないかわりに、非常に高速で、コンパクトなアプリケーションをが開発できるという仕組みに変えています。これは勿論Kylixだけではなくて、将来のDelphi、C++ Builderに採用されていくという形になります。
[編集部] ありがとうございました。

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