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【Do Linux!に迫る】(その3) 対談:Linuxエンジニアのこれから

2000年05月26日 00時00分更新

文● 吉川大郎

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Do Linux!のロゴ画像
Do Linux!ロゴ

 (株)パソナテック、(株)テンアートニ、(株)レッドハットの3社が6月より開始する「Do Linux!」は、教育から資格取得、さらには就業までを一貫してサポートする、Linuxエンジニア養成プロジェクトだ。Do Linux!参加者は、まずRed Hat Linuxの資格「RHCE(Red Hat Certificate Engneer)」の教育コース受講と資格取得、その後、現場のノウハウを学ぶためにテンアートニによる実践コースを受講、最後にパソナテックによる就業先サポートという流れで、最終的にLinuxエンジニアとして仕事をすることになる。

 「Do Linux!に迫る」第3回目は、プロジェクト3社のスタッフにお集まりいただき、それぞれの立場から、Do Linux!について語っていただいた。出席者は、テンアートニ 執行役員 営業推進本部長 傍島薫氏、レッドハット サービスマネージャ 清水正具氏、パソナテック Linuxプロジェクトマネージャ 乾幸一氏である。



テンアートニ傍島氏と、レッドハット清水氏写真
テンアートニ 傍島薫氏(写真右)とレッドハット 清水正具氏(写真左)
[日刊アスキー] お集まりいただきましてありがとうございます。第1回と第2回は、パソナテックさんにDo Linux!についてのお話をおうかがいしたのですが、今回はより詳しく、それぞれの立場からDo Linux!について、Linux業界全体のお話をお聞きしたいと思います。まずレッドハットさんにおうかがいしますが、「RHCE((Red Hat Certified Engineer))」を取得すると、キャリア的にはどういった面でプラスになるのでしょう?
[レッドハット 清水氏] RHCEは、米Red Hatのエンジニアとして働くうえで、基準となるレベルをはっきりさせようというきっかけから始まったものです。Linuxエンジニアに求められるスキルをまとめあげて作成された資格なのです。基本的には、インテルアーキテクチャの上で、「Linux」というOSがどのように動いているのか? という話から、インターネット技術全般までのスキルが問われます。さらにシステムクラッシュの際のリカバリーなどの実技も学びます。
 4日間の講習と、1日の(RHCE資格取得のための)試験というスケジュールですが、知識ゼロの人がマスターできるものではなく、スキルのある人間がさらにスキルを高めるためのものです。もしくは自分のスキルがLinuxエンジニアとして、プロフェッショナルな領域にあるかどうかを確認するためのものですね。
 最終日の試験も特徴的です。大きく分けて、「デバッグ試験」、「選択問題」、「サーバ構築」の3つに分かれるのですが、選択問題以外は、システムが壊れたディスクをレスキューディスクを作って直したり、インターネットサーバとして要求される仕様を満たしたシステムを短時間で構築したりといった、非常に実践的な部分が求められる内容で、現場で働くためのテストになっています。
 RHCEを持っていれば、米国にいって「雇え」といえば、雇ってくれる人がいます。こういう資格って以外と少ないのではないでしょうか?
[日刊アスキー] 現在国内には、100名程度しかRHCE資格取得者がいらっしゃらないので、バリューも高いというお話もありますが、たとえば今年(2000年)中に、RHCE資格取得者を何人位まで増やしていきたいとお考えですか?
[レッドハット 清水氏] 1000人位まで増やしたいと考えています。
[日刊アスキー] テンアートニさんは、LinuxとJavaを使ったソリューションを提供されているSI企業ですが、レッドハットさんと協業してRHCEの教室運営も実施されていますね? 受講者はどういった方が多いのでしょうか?
[テンアートニ 傍島氏] ほとんどがSIさんです。まずはLinuxを身につけてこれからビジネスを始めよう。あるいは、「Linuxでビジネスをしているけれども、やはり資格というものが必要だ」という認識のもとに参加されるお客様ですね。
[日刊アスキー] Do Linux!ではRHCEを取得後に、テンアートニさんの実践コースを受講することになりますね?
[テンアートニ 傍島氏] RHCEはかなりレベルの高い資格ですが、現場ではやはりいろいろなことが起こるわけです。テンアートニは、2年前からLinux事業を実践してきました。ですから、講習だけでは学べないものを培ってきました。
 こうしたノウハウの集大成「ユーザーズ設定マニュアル」というものが、すでに存在しています。これは、最初は「ヒアリングマニュアル」と呼んでいたもので、そこに記載された内容によって、インプリメンテーションまで持っていくことができてしまうようなマニュアルなんです。このマニュアルを習得することによって、実際の構築からトラブルシューティングまでできるようなエンジニアに仕立てあげよう、というのが、この実践コースの目的です。
 ですからRHCEばかりではなく、この実践コースでもきっとへとへとになると思いますよ(笑)。
[日刊アスキー] 実践コースでは、そのマニュアルに従って、教室で学んでいくわけですね?
[テンアートニ 傍島氏] そうです。当初パソナテックさんから、OJT(※1)をやってほしいというご依頼があったんですね。しかしOJTとなりますと、最低半年程度の期間が必要です。それをなんとか短縮して同じだけの成果をあげられないかということで、ユーザーズ設定マニュアルが作られたわけです。実際の要件からシステムを構築するまでチェックしなければならない事項や、ソフトウェアの設定や動かし方も、すべてカバーしています。

Linuxエンジニアが足りない

[日刊アスキー] Linux市場が拡大していく中で、Linuxエンジニアの数が追いついていっていない、Linuxエンジニアの数が足りないといった状況から、Do Linux!は始まっているというお話ですが?
[パソナテック 乾氏] そうですね。全般的に「エンジニア」そのものが足りないのですが。こうした状況の中で、我々としては、やはり最先端の技術を習得していただいて、3年後でも5年後でも活躍していけるように、と考えています。いろいろな企業でも、「Linuxがメインになる」という方向性はほとんど見えてきてはいるけれども、エンジニアをなかなか養成できないという話は聞きますね。
パソナテック 乾氏写真パソナテック 乾幸一氏
[日刊アスキー] レッドハットさんはいかがでしょう?
[レッドハット 清水氏] ビジネスのスケールにあわせて、必要な人材やリソースにかけるコストは変わっていくと思うんですね。たとえば、商用UNIXを使えば、ほとんどのことはできますが、それはかなり大きいビジネスモデルのうえで、コストを投入していかなければいけない。しかし、Webビジネスの場合は、マーケットの傾向が変わるのが早かったり、顧客の流動性が激しかったりするわけで、初期投資、運用コスト、投入リソースを小さくしなければならない。従来の大きいビジネスモデルのように時間とお金をかけてエンジニアを養成するということもできません。そして、こうしたコンパクトな要件に適合したエンジニアが現実としていないんですよ。エンジニアの層に穴があいているわけです。
[日刊アスキー] 今、Webビジネスというお話が出ましたが、日本のWebビジネスは、SIさんから見てどういう状況だと思われますか?
[テンアートニ 傍島氏] そうですね。現場の体験としては、去年の暮れあたりから急激に立ち上がってきたという気がします。ですから、WebもEコマースも含めて、一世代前に開発されたシステムがもうだめになってしまって、新しいテクノロジー、新しいOSのもとで作り変えるという話がずいぶん増えました。システムが2代目に入ってきている。そこで、じゃあOSは何にする? といえばLinuxでしょう。開発言語は何にする? といえばJavaでしょうと。このような環境が求められていますね。体感としてはすごく増えていると思います。
 最近ネット系のベンチャー企業からもけっこう話がきまして、そういうところで求められるのは、だいたいオープンソース関連のLinuxですとかPHP、Javaなどです。結局ほんとうに人がいないから連れてきてほしいという感じですね。
[日刊アスキー] 市場が求めているエンジニア数に比べて、現在何%程度のエンジニアが存在していると考えられるのでしょうか?
[テンアートニ 傍島氏] おそらく本当にエンドユーザさんが求めている数からすると、エンジニアの供給は10%にもいってないのではないでしょうか。

こんなエンジニアが求められている

[日刊アスキー] Linuxのきちんとしたスキルを身につければ、社会的な受け皿はあるというところですね。ところで、Linuxエンジニアとしてやっていくうえで、Linux業界というところは、どういった場所なのでしょうか?
[テンアートニ 傍島氏] ほかのOSと若干違うのは、いろいろな情報がインターネットから取得できるので、能動的なエンジニアはいろいろな情報を知っています。そういう違いはでると思います。すべてが公開されていますから。その気があれば、いくらでも情報をもってこれるのが特徴でしょうね。
[日刊アスキー] 逆に実力主義の厳しい世界でもありますね。こうした中で、エンジニアに求められるものとはなんでしょうか?
[レッドハット 清水氏] 納期を守ることです(笑)。それから、昔からOSだけでエンジニアとして生きていけるか? というと、NOだったわけです。プラットフォームというのは基盤であって、その上でどのようなアプリケーションやサービスを提供できるのかといった課題があるわけです。Linuxをきちんと使えるというのは、ASPビジネスからすると当然なわけです。そこから先に、どういう技術がありますか? ということです。RDBMSであったり、XMLであったりセキュリティだったり。これはLinuxに限ったことではないと思いますが。
[日刊アスキー] パソナテックさんはどうでしょう
[パソナテック 乾氏] 就業する会社や職種で違うと思います。たとえばサポートエンジニアという職種ですと、技術的な能力に加えてエンドユーザーとのコミュニケーション能力も求められます。開発業務になりますと、技術的なセンスを重視されることが多いですね。どちらがいいかというよりも、その人がどういう方向を指向しているかということが重要ですね。
[日刊アスキー] 実際にシステムを構築されているテンアートニさんは?
[テンアートニ 傍島氏] テクニカルな部分での要求はありませんが、OSだけでは目的が達せられないわけで、その「上」ですよね。それに精通している人というのは、いつの時代でもWelcomeです。要求された仕様にプラスして、これだけのサービスを付加として出してくれるというのが、一番ビジネスになるわけですね。
[日刊アスキー] OSは単なるプラットフォームであるというお話がでましたが、ではOS(Linux)の上で求められているアプリケーションとは、現在はどのようなものでしょうか?
[テンアートニ 傍島氏] 現在はWeb周りでしょう。次に来るのははRDBMSですね。うちの会社の特性かもしれませんが、Webシステムを作るときにはWebアプリケーションサーバというのが必須になってきています。
[日刊アスキー] DO Linux!を修了しても、日々勉強ですね。
[レッドハット 清水氏] 勉強するのが楽しいという人には非常にいい世界です。すぐに勉強したことが陳腐化してしまうので、他人に知識的に引けを取っていても、すぐに逆転が可能ですし(笑)。(新しい技術を)ずっと追いかけていけば、老後の心配もいらないので、ITの世界が進行していてくれている限り、安心は安心です(笑)。
[日刊アスキー] では最後に、Do Linux!に興味を持たれている方にメッセージをお願いします。
[テンアートニ 傍島氏] テンアートニがアピールしていることが3つあります。1つは、「きちんとしたRed Hat Linuxのサポートの保証」です。これはレッドハットさんと協力して、組織としてやっていることですね。それから2つ目は、「今後Linuxできちんと稼動する製品を提供していきます」。3つ目は「人材」です。私どもは人材派遣はしていませんが、「(Linuxによるシステム構築/運用を)やりたいんだけど人材がいないんだよ」というお客さまに結構お会いするので。ですからこのプロジェクトはぜひ成功させたいと思います。日本のLinuxの技術のスピードアップをなんとか実現していきたいですね。
[レッドハット 清水氏] 成功することは確信していますので、今後は大成功させることを目指して協力していきますので、よろしくお願いします。
[パソナテック 乾氏] Linuxを通してスキルアップをすることで、新しいキャリアを積んでいってほしいですね
[日刊アスキー] 本日はありがとうございました。
※1 OTJ(ON The Job Training) 現場で実際に働くことによって教育を受けること

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