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Linux Conferenceで、“Linuxを活用するハードウェア”をテーマにパネルディスカッション

1999年12月23日 05時30分更新

文● 高柳政弘

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 横浜市のパシフィコ横浜で17日~18日に開催された“Linux Conference '99”において、「Linuxを活用するハードウェア」をテーマにしたパネルディスカッションが行なわれた。Linuxのハードウェアに関心が高かったためか、会場はほほ満席だった。

 パネルディスカッションのコーディネーターには日本オラクル(株)の宮原徹氏、またパネリストとして、(株)ランスの伊藤宏通氏、(株)アクアリウムコンピューター代表取締役社長の熊倉次郎氏、米Cobalt NetworksのVice PresidentであるVivek Mehra(ビベック・メラー)氏、りぬくす工房工場長兼代表の海老原祐太郎氏が参加した。

 ランスは、Linuxベースのサーバ「Lx-Server」などを開発しているハードウェアメーカー。アクアリウムコンピューターは、Linuxベースのサーバ「bule grass」などを開発しているハードウェアメーカー。米Cobalt Networksは、Linuxベースのサーバ「Cobalt Qube」や「Cobalt RaQ」などを開発しているハードウェアメーカー。りぬくす工房は、Linuxを組み込みシステムに使用している個人事業者。

 冒頭、パネルディスカッションの司会進行役である日本オラクルの宮原徹氏が、「今年1年はLinuxの激動期」だったと述べた。「Linux上で動作するソフトや、Linuxのディストリビューションが増えきたが、まだまだ課題は残っているのではないか」ということで、宮原氏はこのパネルディスカッションを設定したと説明した。「ディストリビューションが進化して、自動的にハードウェアを認識してくれたり、対応ハードウェアが増えるなど環境の整備は進んでいる。だが、メーカー製のハードウェアはWindows用のものが多いので、Linuxではきちんと動かない(場合が多い)」と述べ、Linuxはハードウェアの整備が課題だと指摘した。そして、「来年は、ハードウェア、ソフトウェア、OSの相関関係がLinux普及の“キー”になる」と語り、パネルディスカッションが始まった。

日本オラクルの宮原徹氏
日本オラクルの宮原徹氏

 まず、ランスの伊藤宏通氏は、Linuxの長所について「某OSみたいに原因不明の、再現性のないエラーで止まったりはしない」ことだと語り、Linuxの安定性を強調した。

ランスの伊藤宏通氏ランスの伊藤宏通氏

 続いて、宮原氏の「ランスさんのマシンは、何でしゃべらせることにしたのですか?」(ランスのサーバにはボイス機能がある)という質問に、伊藤氏は次のように答えた。コンピュータにあまり詳しくないユーザーを対象にしており、エラー個所を単にディスプレイに表示させることも考えたが、やはり声が一番わかりやすいと思ったからだと説明した。さらに、音声認識も研究中で、サーバに話しかけると、音声で応答してくれるようなマシンを作りたいと語った。

 ランスのサーバの特徴は、UPS(無停電電源装置)を搭載し、通常サーバのステータスを表示する液晶パネルを“監視モード”に使っていること。監視モードとは、CPUやHDDの温度、HDDの残量、電源供給方法などを液晶パネルに表示する機能。伊藤氏は、監視モードの機能を増やし、2000年の夏に新製品を発売する予定だという。試作段階では、「かなりアホな機能も入っています。そのアホ機能をどこまで削らないですむのかは上の方と折衝中です」と述べ、「笑える機能が残っていれば笑ってください」と次期製品をアピールした。また、来年は、音声認識や認証などにフォーカスした製品の開発や、1Uのラックサーバにも進出するという。

 (株)アクアリウムコンピューターの代表取締役社長の熊倉次郎氏は、「Oracleの動く、小さなサーバを作りたかったため、Linuxを選んだ」という。熊倉氏は、blue glassの省スペース化には熱の処理で苦労したと述べ、blue glassの開発エピソードを次のように語った。CPUの負荷を96%にしたり、Oracleのスワップ状態で2週間試したという。これは、高温で運用しても、熱暴走しないことを確かめたかったためだと説明した。さらに、チャンバは高価なので、ひよこを温める機械を買ってきて、その中に発泡スチロールをつめて、キーエンスのセンサを入れて温度を45度にして検証もしたという。2.5インチ(幅)の筐体も作ったが、動いても自分で気持ち悪いような小さいものができて市場が受け付けてくれないと感じ、それで決まったサイズが3.5インチ(幅)の筐体。電源は中に入れるのではなく、外に出した。UPSやLCSは割り切って搭載しなかったのが、blue grassだという。

アクアリウムコンピューター代表取締役社長の熊倉次郎氏アクアリウムコンピューター代表取締役社長の熊倉次郎氏

 熊倉氏は、blue grassの開発時の余談として、「ハードウェアの技術者は、朝7か8時に来て5時には帰る。ソフトウェアの技術者は、10時か11時に出てきて終電で帰る。デザイナーは終電で出てきて、朝帰るという状態で、この全部を取りまとめないといけない私は、ずっと起きていないといけない」と述べ、これがblue grassの開発でもっとも苦労したことだと説明した(会場は笑)。そして、熊倉氏は、「新製品の開発に入って、またそれに悩まされてます」(再び大笑)と語った。

 アクアリウムコンピューターの次期サーバは、データベースにフォーカスし、SCSIを搭載するという。電源は「斬新で落ちにくいもの」を装備し、熱損の多い通常のUPSは採用しない。「ノートパソコンのようなバッテリを持ったUPS系のものを試作品として作っている」と熊倉氏は最後に語った。

 米Cobalt Networksは、同社のLinuxベースのサーバに、米MIPS Technologies製のRISC CPU「MIPS R5000」を採用している。採用理由として、同社のMehra氏は「消費電力が少ないということは、熱が少ないということ。熱が少ないということはトラブルも発生しにくいということ」だと説明した。さらに、MIPS R5000系列の消費電力は2W、一方、同等性能のIntelのCPUの消費電力は15Wで、圧倒的に消費電力が少ないことを挙げた。

米Cobalt NetworksのVice PresidentのVivek Mehra氏米Cobalt NetworksのVice PresidentのVivek Mehra氏

 同社が、MIPSにLinuxを移植したときの苦労は、コンパイラ、ライブラリ、デバッガなどの開発環境がまったく用意されていなかったことだという。「だが、その時に苦労したおかげでLinuxのカーネルやドライバの中がよく理解でき、同社製品の開発に役立った」とMehra氏は語った。

 次に、Mehra氏は「私たちの製品は、ローエンドのモデルであれば20Wぐらいで動いてしまう。実は冷却のためにファンが背中に付いているのだが、これは常温で使う分にはまったく必要なかった」という。これは、40度以上の室温の時にだけ必要になる。サーバにファンを付けた理由は、「背中にファンが付いていないと本気で作ったサーバに見えないから、『ファンも付いていないサーバだ』とお客さんに言われるので、しかたなく付けた」とMehra氏はユーモアを交えて語った。

 同社は、次期製品にクラスタリング技術を取り込む予定とのことだ。さらに、「ビデオストリーミングや音声ストリーミング、ADSLや常時接続などに対応したサーバを開発していきたい」と来年に向けての意気込みを語った。

 りぬくす工房は、Linuxを制御システムに採用している。同社の工場長兼代表である海老原祐太郎氏は、「Linuxの長所は、カーネルコンフィグで、不要なファイルを削除できる点だ」と述べ、これによりカーネルのサイズを小さくできると説明した。

りぬくす工房工場長兼代表の海老原祐太郎氏りぬくす工房の工場長兼代表である海老原祐太郎氏

 次に、海老原氏は、Linuxの制御システムにおいて、熱の問題が重要になると述べた。「インテルアーキテクチャを使っているかぎり、熱からは逃げられない。国内ですと、値段と入手性のしやすさ、発熱を考えるとSuperH(SH)しかない。ヒートシンクもファンもいらない。さわってほんのり温かい程度。インテルほどのCPUパワーはないが、制御向けにはSHしかない」と力説した。

 最後に、宮原氏は「来年は、光・無線・ADSLが家庭に入ってくる、そういったところにLinuxがどんどん入り込んでいく」とパネルディスカッションを総括し、そして、「ブレイクしそうなのはSHだということですね」と締めくくった。

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