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伽藍とバザール オープンソース・ソフト Linuxマニュフェスト

1999年12月10日 00時00分更新

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伽藍とバザール オープンソース・ソフト Linuxマニュフェスト画面

Eric Steven Raymond 著 山形浩生 訳・解説

光芒社 ISBN 4-89542-168-6  価格1800円(税別)

 オープンソース界の理論家Raymond(Eric Steven Raymond)の代表的論文『伽藍とバザール』、『ノウアスフィアの開墾』、『魔法のおなべ』を収めた本です。これらの論文は、原文も訳文もインターネット上で公開されていて、この本を買わなくても誰でも自由に読めます。それなのに、原文も日本語訳も、ともに本として出版されました。最近はインターネット公開のほうが先で、あとから本となった例が増えつつあり、これからの出版のあり方はどうなるのか考えさせられます。

 『伽藍とバザール』は、米NetscapeがWebブラウザのソース公開に踏み切るのに決定的な影響を与えた論文として有名です。今までは開発集団がきっちりと組み上げていき、完成するまではソース公開しなかった開発方式が当然でした。しかし、開発の途中段階からソースを公開してしまい、多数のハッカーの目に触れるようにし、バザールのような騒がしい評価状況での開発も生まれてきました。この2つのタイプを比較した論文です。

 この論文とNetscapeのソース公開だけだったらこれほどまでに有名にはならなかったと思いますが、明らかにバザール方式で開発されたLinuxが総合的に見て優れたものに仕上がりつつあり、その傾向はますます強まるだけという実証例が存在したことで、本論文の価値が認められるようになりました。オープンソースによる開発では、多数の人によって並列的に検査が行なわれ、ソースもあるのでデバッグまで行なわれることがあり、それらをうまく機能させれば素晴らしいソフトウェアが作れるということを言っているわけです。さらに、レイモンド自身もfetchmailの作成にバザール方式を使い、その実体験の経過を書いていることも理論の裏付けになっています。

 商用ソフトとオープンソースとの比較と誤解する人も多いと思われますが、この論文では商用かどうかを問題にしているのではありません。伽藍の代表としてStallman(Richard Stallman)の率いるGNUの開発方式を、バザールの代表としてLinuxを取り上げて比較しています。GNUもソースを公開しているので、オープンソースです。違うのは、GNUでは完成後にソースを発表しますが、Linuxでは開発中もソースを発表し続けているところが違い、その差について分析しています。

 『ノウアスフィアの開墾』は、かなり抽象的になって読み難いのですが、人々はどうして金にもならない、あるいはせっかくの秘密であるはずのソースを無料でばらまいたりするのか、ということの精神的分析です。今までの考えでは理解し難い行動でしょうが、結局そういう行動をとる人が少なからずいるという事実は、お金以上に価値があると本人たちが思っているメリットがあるからという内容です。

 『魔法のおなべ』は、オープンソースのビジネスモデルについての記述になっています。多数の考えられることを列挙しているものの、実例がちょっと乏しくなって、論拠がいまいちで弱さを感じます。

 そのほかに、著者と訳者のインタビューおよび訳者のコメントが入っています。全体に、文字づらは会話的ともいえますが、内容的には決してやさしくはありません。長い文も多く、読んでいて意味を取れなくなり読み直すことも多々ありました。

 すでにオープンソースやLinuxの世界に長くいる人々にはそれほど目新しい内容ではありませんが、ここに書かれている内容は経営者などにオープンソースの価値、意味、根拠などを説明するにはとても利用価値のあることが多く、そういう意味では目を通しておくべきでしょう。

 本書は、いままでオープンソースを使ったこともなく、Linuxなどの利用もしていないような人が読んだ場合、どこまで理解できるかかなり疑問です。多くのソフトウェア会社経営者にとって理解し難いオープンソースの世界をもう少し分かりやすく、根拠を説明した本があればと思います。

藤原博文

プロフィール

藤原博文

パズルを解くためにTK-80などに手を出したが、BASICの低速性が気に入らず、ついコンパイラを作ってしまった。それ以降はソフトウェアの世界から足抜けできなくなり、逆にパズルをする暇がなくてストレスが溜っている。UNIXはVAXの頃から使い始めすでに20年近く、Linuxは4年前より日常的に利用している。ホームページはhttp://www.pro.or.jp/~fuji/

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