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『よしだともこのルート訪問記[書籍版]~日本のオープンソース時代を築いてきた人たち~』

1999年11月26日 21時28分更新

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『よしだともこのルート訪問記[書籍版]』表紙写真

著者 吉田智子

ソフトバンク・パブリッシング ISBN 4-7973-0888-5 価格2600円(税別)

 よしだともこさんといえば「ルート訪問記」と言われるくらい、UNIX関係者の間では有名になってしまった「UNIX USER」誌の連載を、1冊の本にまとめたものです。すでに連載も5年を経過し、開始当時と比べると、インターネットやLinuxなどのPC-UNIXの普及には目覚しいものがあります。この発展は、ネットワークの運用管理にあたる特別の権限を持ったルートと呼ばれる人々に、支えられてきました。

 ルートの仕事は、高度なUNIXについての知識や経験は必要ですが、それ以上にも人間的な要素が重要です。UNIX経験の豊かな著者がインタビュアーとなり、ルートの育て方からトラブルのくぐり抜け方など苦労話や自慢話、そして失敗談が満載された対談エッセイ的な本になっています。「ルートの心」を楽しく、ルート以外の人が読み取ることができるのではないかと思います。知識や技術を伝える本は多数ありますが、心を伝える本はなかなかありません。本書は心を伝えることがテーマかと思います。

 実際に運用されているサイトについての話なので、ネットワーク図を始め数多くの貴重な情報も載っています。注の数も非常に多く丁寧な作りになっていて、本文と注を読むだけでもかなりの勉強になります。注の中には貴重なURLも多数含まれていて、それらを追いかけだしたら際限がなく仕事に差し支えるので、注意したほうがよいでしょう。

 本書のイラストは的確に気持ちを伝えてくれるところがあり、単なる息抜きではなく、楽しく情報を伝えてくれる優れ物です。イラストに登場しているよしだともこさんの顔は、実物そっくりです。巻末には、シールもあり、付録のCD-ROMには、著者の講演だけではなく、Linus Torvalds氏やEric Raymond氏の講演もRealVideoで入っています。長時間の講演が丸々入っているので、そのつもりで見始めないと、つい徹夜になったりします。

 著者は現在日本Linux協会副会長ですが、その活動の原点、原動力はこの「ルート訪問記」にあるのではないかと思いますが、どうでしょうか。訪問先の多くは、大学や研究所といった教育研究機関が圧倒的に多いです。インターネットが普及し、一般企業でもルートの重要性が増しているので、もっと一般企業などのルート訪問を期待したいところです。それから、訪問先は関西地域の割合が異常に多いのですが、もっと全国展開してほしいです。

( 藤原博文 )

藤原博文

プロフィール

藤原博文

パズルを解くためにTK-80などに手を出したが、BASICの低速性が気に入らず、ついコンパイラを作ってしまった。それ以降はソフトウェアの世界から足抜けできなくなり、逆にパズルをする暇がなくてストレスが溜っている。UNIXはVAXの頃から使い始めすでに20年近く、Linuxは4年前より日常的に利用している。ホームページはhttp://www.pro.or.jp/~fuji/

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