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Eric S. Raymond独占インタビュー in 京都

1999年10月07日 00時00分更新

文● 吉川

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 「伽藍とバザール」や「ノウアスフィアの開墾」(ともに本誌'99年5/6月号に掲載)などで知られるオープンソース運動のエバンジェリスト、Eric S. Raymond氏が5月下旬に来日し、東京や京都など各地で講演活動を行なった。

 本誌では、5月28日、京都産業大学にて行なわれた講演会の直前に、約30分程度のインタビューを行なうことができた。

(聞き手/力武健次(情報技術開発(株) 京都ネットワーク技術研究所)、撮影/水科人士(本誌)、構成/笹川達也(本誌)、協力/Eric Raymond京都講演実行委員会)


「オープンソース」はもはや宣伝文句?

[Q] 「オープンソース」はいまやマーケティング用語になっていると思います。たとえば、SunやMicrosoft、Appleといった大手企業の発表には、この言葉が使われていますが、彼らのテクノロジーの核となる部分を実際に公開しようとしているところは一つもないように見えます。これは見せかけだけではないですか?
[ESR] Buzzword (宣伝用語)としてのオープンソースを認めている例は少数だ。Webページや宣伝文句に使おうとする会社は多いけど、僕らが文句をつけたらやめるから、そんなにたくさん「オープンソース」を主張しているソフトがあるわけじゃない。確かに宣伝用語として使おうと企んでいる会社はあるけど、とりあえず僕らはそういう動きをうまく阻止してきていると思う。Microsoftがそういうことをしたけど、業界誌は相手にしなかったよね?  顧客の人たちも無視した。そういう意味のないことがまかり通らなければOKだ。
[Q] たとえばAppleのAPSL(Apple Public Source License)のように、企業によって異なったタイプのソース・ライセンスをリリースしています。あなたが会長を務めているOpen Source Initiative(OSI)はAPSLのリリースに関わったと聞いていますが、OSIはなにを期待してAPSLに参加したのですか?
[ESR] Darwin(※1)のことだね。OSIが参加したのは、ハッカーコミュニティと大企業との間に橋渡しをするのがOSIのすべきことだと思っているからなんだ。AppleやIBM、HPといった大企業が僕らのやり方を取り入れてくれるようになるってことは、僕らにとっては大勝利なんだよ。こういう大企業の人たちを無視して「オレたちは興味ないな」、「オレたちは別に一緒にやってもらわなくてもいいんだよ」なんていうよりは、まあ僕らが自分たちのコミュニティに入ってもらうための形式的であれ広く知られた手順を彼らに用意してあげる。そして、彼らが「正しいことしてるんでしょうか」と聞いてきて、正しいやり方だったら、「大丈夫ですよ。そのやり方で」とあと押しする。そうすることで、大企業の人たちが僕たちのやり方(オープンソース運動)に大いに興味をもってくれて、積極的に関わってくれるようになる。それが僕らのやるべきことだ。Appleはもちろん、他の大企業でも正しい方法で協力してくれるならいつでも歓迎するよ。

Mozillaプロジェクトは失敗か?

[Q] Jamie Zawinski(※2)は、Mozillaプロジェクトは失敗だと明言していますが、なぜ成功したプロダクトをリリースできなかったんでしょう? もっと別の形にプロジェクトは発展できたのでは?
[ESR] この問題についてはよく聞かれるけど、僕はMozillaは失敗だとは思ってない。Jamieがそう思うのはよく理解できるし、彼は間違ってない。ただ彼には、もっと大局的な視点から物事が見えていないだけだと思う。これは個人的な意見だけどね。Mozillaのもともとの目標について考えてごらん。それは「Microsoftが掘り出せない場所に宝を埋めておく」(to drive a stake in a ground that Microsoft could not pull out)と英語では言うんだけど、まあ要するにMicrosoftがブラウザを独占できないようにしようということだった。Mozillaの努力は、実はそれには成功したんだよ。もっとも、成果は出せなかったけど。戦略的な見方をするなら、動くブラウザは出せなかったにしても、Mozillaのようなプロジェクトが存在して、いつかは成功するかもしれないという状況になったことが、ブラウザ市場全体の論理を、「Microsoftはもはや独占支配することができない」という風に変えたんだ。このことが僕の単なる希望的観測でないということを証明する確固たる事実がある。AOL (America Online) は、引き続きMozillaプロジェクトに経済的支援をしている。AOLの人たちはセンチメンタルに動いているわけじゃない。彼らはそんな優しい人たちじゃない。
[Q] 現実主義者というわけですね?
[ESR] そう、彼らは現実主義者だ。彼らが成功すると信じていなければ、経済的に支援し続けるなんてことはしないだろう。
[Q] 要はそれでビジネスをしたいと。
[ESR]

そのとおり。もし失敗に終わるなんてことがわかってたらお金を払わないだろう。そして、もしMozillaがMicrosoftがブラウザビジネスでのさばらないようにする効果的な方法だと思っていなかったら、経済的に支援などしないよ。

というわけで、失敗ではないという確固たる証拠は示せたと思う。じゃあなぜ僕が自分が思っているほどMozillaは成功していないという風に思っているかについて説明しよう。Jamieが批判しているプロジェクト管理の御粗末さについては、そのとおりだと思う。Navigator 5に人や資源を割くべきだったところを、Navigator 4に割いたしね。だけど、ほかに理由があったと僕は思っている。何カ月か前にこの理由についてJamieを説得しようとしたけど、彼には分からなかったらしい。その理由とは、Mozilla自身に関するつまらない技術的なことなんだけど……

[Q] それはなんだったんですか?
[ESR] つい最近まで、Mozillaをビルドするには、Motif(※3)のライブラリが必要だったんだ。
[Q] Motifはフリーじゃなくライセンスが必要ですものね。
[ESR] わかってくれたかな? 潜在的に参加してくれるであろうと思われた人たちの多くが、Mozillaの開発に必要なライセンスを持っていなかったんだ。だから、Mozillaのソースツリーから彼らはビルドすることができなかった。参加するためのハードルが高すぎたんだよ。
[Q] つまりあなたは非常に伝統的な、長期間にわたるMotifに関する問題を、Mozillaプロジェクトも抱えていたと考えているわけですね?
[ESR] そのとおりだ。本音を言えば、他のなによりも、おそらくNetscape社が管理に失敗したことよりも、この問題のせいで、僕らの予想よりもMozillaがなかなか成功しなかったんだと思っている。
[Q] このプロジェクトは今後どうなると思いますか?
[ESR] 技術的な成果はもう得られていて、geckoという完全に標準に準拠したレンダリング・エンジンが発表されている。これだけでも大きな成果だ。他になにもMozillaプロジェクトが生まなかったとしても十分な存在理由になる。でも、リリースに関するスケジュール管理はβリリースやマイルストーンリリースなどでもなんとか間に合わせているようだし、製品クラスのブラウザが今年後半には出てくるんじゃないかと思っている。

BSDの致命的な間違いとは

[Q] BSDの人は「BSDはバザールモデルじゃない」といってますね?
[ESR] そうだね。
[Q] で、「4.4BSDシステムの設計と実装」(※4)には、「BSDが成功したのはCSRGが開発責任者の数を制限したからだ」と書いてありますが。
[ESR] 僕はそれは間違ってると思うよ。
[Q] ではその理由を教えてください。
[ESR] むしろ逆に僕のほうが質問したいね。なんでBSDは世界を征覇できなかったんだい? Linux以前にあったんだよ。スタートでも先行してた。そんなに差はなかったけど、9カ月あった。ちょっと僕の考えを述べてみることにしよう。僕もBSD界の出身だからね。僕はUNIXに関して1980年代にBSDの4.1版から勉強したから、その伝統を受けついでいるといっていい。BSDの人たちにはいくつか進んでいるところがあると思う。9カ月先行していたこと(※5)。次に、BSDのカーネルアーキテクチャはLinuxのそれよりもずっと優れている。より良いアルゴリズムを使い、より良くまとまっていて、より綺麗だ。3番目に、FreeBSDやOpenBSD、NetBSDの平均的な品質は、明らかにLinuxのものよりも優れている。でも分かるかい? これらの3つの利点には、なんの価値もないんだよ。BSDの人たちは、これらの利点を台無しにする間違いを1つ犯したんだ。彼らは社会学的なこと(sociology)を間違って捉えてしまったんだ。
[Q] その社会学的な間違った認識というのは、なんだったんですか?
[ESR] 物事を中央集権的にし過ぎたということだね。BSDについて面白いことを教えてあげよう。BSDの人たちは、「BSDはシステム中のある一点(訳注: ソースツリーの根元の部分と思われる)に行って、そこでmakeとタイプすれば、カーネルからユーティリティまで全システムが一箇所から作られる」と言っていて、彼らはその事実をとても誇りにしている。彼らはBSDのディストリビューションが単一の、良くチューンされて統一されている配布物で、中央集権的な「良くわかっている」グループが管理していることをとても誇りにしている。彼らはこの点において致命的に間違ってる。これのせいでLinuxはBSDに勝ったんだよ。Linuxはまさにそれが不定形(amorphous、アモルファス)で、ガチガチでなかったから勝てたんだ。そして、Linuxの開発に参加した人たちは複雑さを下げる方法を探したんだ。そうすればBSDの開発者たちのように、システム全体で暗黙のうちに仮定されていることや、開発の中心になっているコアグループの方針を全部受け入れることを、Linuxの開発者たちは必要としなくなる。
[Q] つまり、BSDがアプリケーションなどを動かしたりする際にシステムとして大き過ぎるということですか?
[ESR] いや僕が言いたいのは、僕はBSDの開発コミュニティの社会構造が硬直し過ぎていると思っているということだ。彼らとは、いろいろと気持の良くないことがあった。1つ挙げてみよう。BSDのディストリビューションを触っていて、その開発方針や哲学に関する、あるいは技術的な喧嘩をそのディストリビューションを管理している人たちとしてしまうと、唯一の選択肢はBSDのソースツリーから完全に分家して、まったく新しいOSのプロジェクトを立ち上げなきゃならなくなるということなんだ。こういったことを3度か4度経験している。
[Q] William Jolitz (※6)も去っていきましたしね。
[ESR] そのとおりだ。こういうことがLinuxの世界で起こらないのは、まさにLinuxの各部分がより緩く結合されているからなんだ。システムの中によりたくさんの隙間を許すようになっている。まあ要するに、BSDの人たちが自分たちの強さだと思っていること、つまり開発コミュニティがエリート体質であること、そして各ディストリビューションが1つの大きなビルドによって出来上がっていることが、僕はBSDに致命的なダメージを与えた弱さだと思っている。
[Q] なるほど、よくわかりました。では引き続きお伺いしたいのですが、バザールモデルにおいて、OSの重要な中心部分の品質を維持していくには、どうすればいいんでしょう。
[ESR] いまやってるように、やればいい。いまやってることは、どうやらうまくいっている。
[Q] なるほど、それだけですか?(笑)
[ESR] そうだよ(笑)、いつもこの戦術を使うようにしてるんだ。「どうやら動いてるようですよ」ってね。
[Q] 分かりました。納得することにします(笑)

Microsoftと闘うには「ムサシ」を読め!

[Q] Microsoftはコンピュータ業界を化粧品業界にしました。売って売って売りまくるという商法で。
[ESR] まったく君のいうとおりだ。
[Q] 彼らのペースについていく必要がありますか? 私は「ない」と言いたいんですが。共感していただけると思うんですが……
[ESR] いや、そういうことじゃなくて…そうだ、「ムサシ」(※7)を読みなさい(笑)。 敵の強いところで戦うんじゃなくて、弱いところで戦うんだ。化粧品のような見かけの美しさの部分でMicrosoftと戦うことはない。彼らの弱点である信頼性で戦えばいい。こういうインタビューのときの答として、会社の偉い人たちや流通報道関係の人たちとする場合、いつも同じことを強調するようにしている。「死の青い画面」(The Blue Screen of Death) だ。我々がMicrosoftに対する強みとして持っているのは、Linuxはまずクラッシュしないということだ。だからその点を繰り返し叩いてやる必要がある。戦いの場面を、彼らが得意な「ほら、このすばらしい新機能を見て下さい!」というところから、我々が得意な「あなたのデータセンターはずっと動作しつづけて欲しいですよねえ」(笑)という風に変えていく必要がある。
[Q] よくわかりました。「ミヤモトムサシ」を読まないと(笑)。
[ESR] 「孫子」もね(笑)。
[Q]

はい、「五輪書」も「孫子」も(笑)。

もう1つ質問なんですが、Microsoftは自分たちの脅威となる新勢力が登場すると、FUD(Fear, Uncertainty, and Doubt: 恐怖、不確実性、疑い)という言葉を使って、顧客に悪い印象を植え付けているようですが、これに対してどう戦っていくべきだと思いますか? オープンソース運動で、このMicrosoftの悪い評判を変えていくことはできますか?

[ESR] できると思うよ。我々は常に「死の青い画面」について話し続けていく必要があるんだ。だってエンドユーザーは、もうこの「死の青い画面」には飽き飽きしているんだから。この点をずっと攻撃しつづけなきゃいけないんだよ。

オープンソースがもたらす真のメリットとは

[Q] まだフリーになっていないソフトウェアがたくさんありますが、これらのソフトウェアの所有者をオープンソースの方向へ持っていくためにはどうすればいいでしょうか。
[ESR]

どうも質問が気に入らないんだなあ。「オープンにすべきだ」という言い方には、我々がオープンにすべきかどうかの決定権を持っているかのような暗黙の仮定がある。決定権はコードの所有者にあるんだよ。だからより適切な質問としては、「次にオープンソースになることが確実なソフトウェアが、どのようなメリットをもたらしてくるか」だろうね。この質問に答えてみよう。

OSや通信用の非常に重要なソフトウェアの一部で、まだオープンソース化されていない良い例の1つが、データベースのバックエンドだ。ここにオープンソース化の次の波が押し寄せるだろう。

[Q] たとえばOracleのような独自仕様の製品がということですか?
[ESR] そうだね、論理的に考えればそうなる。なぜなら、まだOSも通信用ソフトウェアも完全なオープンソース化には至っていないからね。
[Q] いくつかのファイルシステムについてもオープンにすべきということですか?
[ESR] うーん、だからその「オープンにすべき」ってのは違うんだよ。問題は経済的利益があるかどうかなんだから。
[Q] 分かりました。ではそれらをオープンにすることでどんな利益が得られると思いますか?
[ESR] オープンにすることで利益が得られるであろうソフトウェアの種類としては、失敗した時のコストがものすごく高くつくものが挙げられるだろうね。要するに高い信頼性が要求されるものだ。本当にそうなら、そういうものはオープン化の方向に向かうだろう。もう1つの要素は、経済学の人たちがいう「正のネットワーク外部性」(positive network externality)があるかどうか、ということだ。言い換えれば、2人がそのソフトを使った時の価値が、1人がそのソフトを使った時の価値の2倍よりも大きいかということだ。利益はユーザーの数に対して非線型に決まる。もしそれが正しければ、そのソフトはオープン化の方向へ進むだろう。もしユーザーがオープンな情報基盤とクローズドな情報基盤の双方を選べる場合は、ユーザーは特定のベンダーに依存するよりはオープンな情報基盤を選ぶだろうね。広域ネットワークの歴史を見てみればこれが正しいことがわかるよ。
[Q] TCP/IPが流行ったらDECnetを皆やめてしまいましたものね。
[ESR] そう。まさにそれが言いたかったことなんだ。
[Q] 私はVMSの開発者でしたからよくわかります(笑)。
[ESR] そういうことなんだよ。つまり、オープンソースである情報通信基盤やOSの基盤と、オープンでないものとを競争させた場合、もし人々が理性的に判断するならクローズドなものは常に負けてしまうはずだ。対称性と管理責任の問題を考えれば。
[Q] オープンコンテンツ運動については、どう思いますか? この運動は、最終的には知的所有権を完全に否定するものではありませんか?
[ESR] 僕はオープンコンテンツ運動にもちょっと関わっている。君は、「いずれ完全に知的所有権は否定される」と言うが……
[Q] ええ、まあそこまで極端でないにしても……
[ESR] 僕の答えは、「否定されないことを心から望むよ!」といったところだ。基本的に知的所有権は良いものだと思っている。僕は強い所有権の考え方を尊重している。物理的なものも、知的なものも含めて。だけど、この僕の考え方は、特定の状況下において、そういう考え方が有効かどうかを決めつけるものじゃない。僕の立場としては、ソフトウェアというのは既存の知的所有権モデルには非常に馴染みにくい代物だと思っている。もちろんソフトウェアを所有することが悪いと言っているんじゃない。自分が作ったものを自分の思いどおりにするのは当然の権利だ。これは倫理的な問題とは違う。もし自分のソフトウェアを信頼できるものにしたかったら、最良の方法はそういう権利を自主的に放棄することなんだよ。いいかい。「オープンコンテンツは知的所有権の否定につながりますか」という質問はどうも気持ち悪い。だって僕は作者に自分の権利を放棄しろと押しつけるつもりはまったくないからね。作者が自主的な選択として、よりよい結果を得るために権利のいくつかを放棄するとしたら、それはとても良いことだし、将来より頻繁に起こるようになるだろうね。
[Q] たとえば音楽の世界でですか?
[ESR] 多分ね。とにかく言いたいのは、ソフトウェアというのはこの観点で見た場合、それなりに特殊なものであるということなんだ。ソフトウェアをオープンにする動機というのは、デバッグの必要性が常にあるからということだ。小説や音楽、絵画などの芸術は、普通デバッグする必要はないだろう?
[Q] 芸術は「実行可能」(executable)じゃないですからね。
[ESR] そう。だからソフトウェアのときのような、オープンにするための動機というのは存在しない。だから、ソフトウェアに関する我々の経験を、音楽や芸術といったものに一般化して当てはめるのは間違っていると思うよ。あまり勧められる考え方じゃないと思うね。

オープンソース解剖学第3作はいつ公開される?

[Q] オープンソース解剖学4部作の第3作、「The Magic Cauldron」(魔法の大釜)はいつ発表されますか?
[ESR] 数週間以内には出せるだろう(※8)。京都のホテルに置いてきたコンピュータの中に、最終草稿が入っている。ある経済学者とこの件については共同作業をしていて、彼が査読してOKと言えば、すぐに出したいと思っている。
[Q] オープンソース運動のエヴァンジェリスト(伝道師)としての現在の立場に満足していますか? 誰かに仕事を分担してもらったり、この役割を引き継いでもらいたいと思ったことはありませんか?
[ESR] 頼むよ! 誰かやってくれ!(笑) こんな仕事ばかりしていたいわけじゃないんだ。コード書きたいよ(笑) 。僕は技術オタクで、問題解決者なんだ。マーケティングの人間じゃない。いつまでもこんなことしていたくないよ。
[Q] コードを書く方が楽しいんですね?
[ESR] そうそう(笑)。だけど、僕がこの仕事をしているのは、誰かがしなければならない必要な仕事だからだ。まあ偶然と歴史によってとりあえず僕がやってもいいという評価は得ているけど、だからといって、いつまでもやっていたくはないなあ(笑)。誰か手伝ってくれるか代わってくれる人がいたら、その人にもっとやってほしいね(笑)。

インタビュアー・プロフィール

力武健次

力武健次(りきたけ・けんじ)。'90年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修士課程修了。'90~92年に日本DECに勤務し、OpenVMSの開発に携わる。'92年から情報技術開発株式会社・京都ネットワーク技術研究所の主任研究員に就き、現在にいたる。インターネットを中心とする広域ネットワークの研究に携わるほか、各種雑誌にインターネット関連のさまざま記事を執筆している。近著に「プロフェッショナル インターネット」(オーム社、'98年4月刊)がある。氏のホームページは、http://www.k2r.org/kenji/



Eric S. Raymond氏のプロフィール



Eric S. Raymond

fetchmailなどの各種フリーソフトウェアの作者として広く知られているが、同氏がfetchmailの開発を通して得た経験を元に、Linux式開発モデルの成功を分析した論文「伽藍とバザール」を発表することで、一躍、オープンソース運動の理論的指導者としての名声を獲得した。現在は「Open Source Initiative」の会長を務めており、オープンソース界を代表するスポークスマン的な活動に日々を追われている。

(写真提供:京都講演実行委員会 樋口千洋氏)



大盛況のうちに終わった京都講演会

冒頭でも書いたように、今回のインタビューは、Eric S. Raymond氏の京都講演会のタイミングに合わせて、同実行委員会の協力によって実現された。

5月28日昼に京都入りしたRaymond氏は、Linuxシステムを大量導入したことで有名な京都産業大学の情報システムを見学し、弊誌のインタビューに応じていただいた。また、その後、午後6時から約2時間に渡って、同大学の大ホールにて講演会を行なわれた。

この京都講演では、Windows NTなどに代表される、あまりにも大規模化したソフトウェアの問題点を超高層ビルのエレベーターにたとえたり、特許権侵害が発生したときのディストリビュータの役割など、内容は非常に示唆に富んでいた。また、講演会では、随時聴衆からの質問を受け付けており、今回のインタビュアーである力武氏も活発に質問をしたり、専門的な質問/回答には通訳者に代わって翻訳してあげるなど、来場者全体が参加するという雰囲気で、会場は非常に盛り上がった。

講演会の後は、京都市内の中華料理店で実行委員会のメンバーと一緒に宴会が開かれた。また、翌日、メンバー数名と一緒に奈良の観光を楽しんだ。

これらの講演会の模様を収録したRealVideoの動画や、宴会や奈良観光の模様は、京都実行委員会のWebページで紹介されているので、是非ご覧いただきたい。



京都講演会メンバーとの宴会風景。Raymond氏の左側に見えるのが、WnnやUNIX USER誌の連載などで有名な よしだともこ氏。
※1 Apple Computerのサーバ向けOS「Mac OS X Server」の基本部分のコード名。'99年3月16日、同社はDarwinをオープンソース化すると発表。APSL(Apple Public Source License)と呼ばれるライセンス条項によって、ソースコードの配布や改変が認められており、この策定にはOSIも協力している。

※2 Mozillaプロジェクトの創立者の一人。Mozilla.orgがNavigator 5をなかなかリリースできないことに失望し、'99年4月1日、Mozilla.orgとAOLのNetscape部門から退いている。このいきさつについては、同氏のWebページ(木村誠氏の日本語訳)で語られている。

※3 Open Software Foundation社が開発した、X Window System上で動作するGUIコンポーネント(Widget Set)。正式名称は「OSF/Motif」。

※4 “The Design and Implementation of the 4.4BSD Operating System (Unix and Open Systems Series.) ”、Addison-Wesley、1996年5月刊、ISBN:0201549794

※5 この9カ月の先行というのは、386BSDに始まる一連のPC UNIXにおけるBSDプロジェクトに関する事項と推察される。

※6 386BSDの中心的開発者だが、意見の相違によりCSRG(カリフォルニア大学バークレイ校のComputer System Research Group)を去った。

※7 米国では宮本武蔵の「五輪書」は「孫子」と並んでポピュラーな兵法解説書であり、“Musasi”と呼ばれることが多い。

※8 このインタビューのあと、「The Magic Cauldron」(山形浩生氏の日本語訳)が公開された。

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