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『オープンソースソフトウェア』

1999年09月15日 21時21分更新

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『オープンソースソフトウェア』

編者 クリス・ディボナ、サム・オックマン、マーク・ストーン

訳者 倉骨 彰

オライリー・ジャパン ISBN 4-900900-95-8 価格1900円(税別)

 今、世の中では「オープンソース」が意味も分からず騒がれています。ビジネスマンにとっては話題になった新しい言葉の意味を勉強しなければなりません。縦書きの本だし、これならコンピュータの素養がなくても読めるのではと思って買われるのか、販売の方も好調のようです。

 本書は、今のオープンソースの流れを作った主要な人々14名が書いた原稿を集めて本にしたものです。Richard Stallman、Linus Torvaldsなど本当に主要な、そして非常に癖のある人々が自分の主張を好き勝手に書いたものを集めたもので、まとまりのなさは完璧です。PerlのLarry Wallの話は、Perlを知らない人が読んで何が分かるのでしょうか。Linuxをはじめとする、オープンソースの世界を少なくともかなり知っている人でないと、各執筆者の主張はチンプンカンプンのはずです。

 しかし、オープンソースの世界に既に馴染んでいる人にとっては、大御所たちの書いた内容が集まっているという意味はありますが、特に目新しいことが書いている訳でもありません。いずれにしても、読者のターゲットが分からない本です。この時期に、『オープンソース』という題名で出版すれば売れるという意味で出版された本の典型でしょう。ビジネスとしては正しい。

 読むに値するのは、1992年の初め頃、OSの大家であるTanenbaum教授と、まだ学生だったLinus Torvaldsのネットニュース上での論争でしょう。当時は誰もがマイクロカーネルこそこれからのOSだと言っていた時代でしたが、結局マイクロカーネルのOSは成功せず、Tanenbaum教授が時代遅れと批判したモノシリックなOSとして作ったLinuxが多くのハードウェア上に移植され、高い評価を受け、普及してしまいました。このやりとりはなかなか面白いです。両名以外にも、多数の人が意見を述べていて、この部分は読むに値します。

 最後に、執筆者の顔写真入りの簡単な紹介がありますが、ここも便利でしょう。結局、付録が一番価値のある部分です。オープンソースが何かを知らない人がこの本を読んでオープンソースが何かを理解するのは難しい。でも、理解した気になるかも知れません。

藤原博文

プロフィール

藤原博文

パズルを解くためにTK-80などに手を出したが、BASICの低速性が気に入らず、ついコンパイラを作ってしまった。それ以降はソフトウェアの世界から足抜けできなくなり、逆にパズルをする暇がなくてストレスが溜っている。UNIXはVAXの頃から使い始めすでに20年近く、Linuxは4年前より日常的に利用している。ホームページはhttp://www.pro.or.jp/~fuji/

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