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「LinuxとIBMの戦略」

Linux Exhibition'99基調講演

1999年07月22日 05時27分更新

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IBMのLinux戦略が明らかに

 米IBMでLinuxビジネスを担当する、IBM Integrated Solutions Marketing Software Solutions DivisionのVice President、Richard J.Sullivan氏が来日し、Linux Exhibition'99で基調講演を行なった。その模様をお伝えする。

Sullivan氏
IBMのLinux戦略担当者Richard J.Sullivan氏

 日経BP社主催のLinux Exhibition'99基調講演は、「LinuxとIBMの戦略」と題し、幕張メッセ国際会議場にて、21日午前10時30分から12時まで、1時間半にわたって行なわれた。開場には、スーツ姿の男性を中心に500人ほどの視聴者が集まりSullivan氏の話に耳を傾けた。個々の製品のLinux対応については散発的にリリースが行なわれてきたIBMだが、米国本社の副社長(Vice President)が語る体系的なLinux戦略ということで、目新しいトピックはあまりなかったものの、興味深い内容となっていた。

新しいシステムの融合

 Sullivan氏はまず、ビジネスシーンにおけるマルチプラットフォーム化について、Fortune 1000に名を連ねる企業のうち、90%が3つ以上のOSを使い、ヨーロッパの80%の顧客が2つ以上のOSを使っている、と具体的な数字を交えつつ現状を説明した。そして、業務内容に応じて複数のプラットフォーム(OS)を使い分け、しかもそれらのプラットフォーム上すべてで動作するアプリケーションが使われている。また、こうした異種混在環境においては、既存のシステムを作り替えるのではなく、新しいシステムを融合させていくことが求められているのだ、とも語った。顧客の誰もが、単一のOSによるシステム構築は考えておらず、今までの(システム構築などに対する)投資との統合が必要というわけだ。

Client/Serverではなく、Client/Service

 次に、e-business(広義では、B2BやB2Cといった具体的な流通の方法ではなく、ネットワークによる新しいビジネスの形態すべてを指すと考えてよいだろう)は何を要求するのかを説明した。インターネットではクライアント(側の環境)を限定することはできず、さまざまなクライアントをサポートする必要がある。「Client/Serverではなく、Client/Serviceが大事だ」という。また、アプリケーションの開発も、クライアントには依存しない形で行なう必要がある。

 そしてこのアプリケーション(ネットワークアプリケーション、もしくはサーバアプリケーション)であるが、これはサーバ中心(Server-Centric)が求められていること、また、予測不可能な事態に対応しなければならないことなどを語った。長野オリンピックがまさに予測不可能な事態への対応の成功例で、シドニーでは長野の100倍のトランザクションが予想される。IBMはそうしたシステム要求が跳ね上がるシステムの提供が可能であるとした。  ここまでは、IBMが提唱し、すでに一般用語ともいえるまで浸透した「e-business」と、e-businessに必要とされるシステムの解説であったが、それを踏まえたうえで、いよいよLinuxの話題が登場する。

e-businessフレームワークにおけるLinux

 Linuxに言及する前にSullivan氏がまず強調したのが、Linuxは「一夜の成功ではなく、小さなベースから成長し、有効なシステムソリューションになった」という点だ。さらに、IDCの予測結果やOracleやHPといったベンダのサポート表明をあげ、Linuxがいかに重要な存在になっているかを語った。また、Webサーバのプラットフォームとしてのシェアが65%に達することからも、Linuxはすでにテストをしている段階ではなく、基幹システムにすら配備されはじめている段階に移行した点を証明した。さらに、データベースのプラットフォームとしても急成長し、クラスタについても、大きく成長するだろうとしている。IBMの顧客の間でもLinuxを導入する例が増えており、安定性と古いマシンの活用という点で支持を得ているということだ。

 さらにメディアでの注目度や、北米のホテルチェーン「Cendant Corporation」の事例や、北米の医療小売り業者「Burlington Coat」が赤ちゃんの出生祝いギフト登録システムをLinuxで運用している例、さらには「Northwest Airlines」が、23台のフライトシミュレータをVAXのシステムからLinuxにリプレイスしたといった事例までをあげて、現在すでにビジネスシーンでLinuxが稼働中であることを示した。

 またSullivan氏は、Linuxの魅力として、既存のシステムにWebベースのアプリケーションを融合させる場合の選択肢になり得ることや、標準技術の上に成り立つオープンソースの力をあげた。

Linuxの課題は何か?

 Linuxの課題は何か? といった面では、Gartner Groupの調査結果を引き合いに出し、顧客に対するサービスとサポートが必要なほか、ISVに対するサポートが必要な面を示唆した。これはつまり、ISVがサーバアプリケーションを作成できるようなインフラが必要ということであり、それに対する答えとして、DominoをLinux対応にすることをあげている。DominoがLinuxに対応すれば、多くのDominoアプリケーションをLinuxベースのシステム上で動作させることができるわけだ。

 それでは、IBMは具体的にLinuxに対してどのように相対していくのであろうか。この点に関してSullivan氏は「Support」、「Software」、「Servers」、「Alliances」、「Open Source」の5点について解説した。なお、IBMは独自のディストリビューションを作るつもりはないし、Linuxの独占的プロバイダになるためにリーダーシップをとろうとするつもりもないことを強調した。

 「Support」に関しては、世界的にLinuxサポートをしていく方針だ。これは、Linuxディストリビュータとも協力体制を敷き、最終的には1年中フルタイム(氏の表現では7日間24時間)で行なうものである。

 「Software」に関しては、すでにデータベースのDB2や、ミドルウェアのWebsphere、WebアプリケーションのDominoといった主力製品のLinux対応を進めている。

 「Servers」では、NetfinityのLinux対応をはじめとして、RS/6000シリーズもまもなくLinux対応となる。このようなハードウェアの認定作業を行なっている。

 「Alliances」では、CalderaやTurboLinux、Red Hat Linuxといったディストリビュータと提携していることを述べたあと、SuSEともこれから提携を結んでいきたいとした。さらに、IBMのソフトウェアをディストリビューションに同梱して配布するといった活動も例にあげている。

 最後の「Open Source」では、OSF(The Open Software Foundation)の話題にも触れたほか、コミュニティとの協調を謳った。

e-businessの中のLinux

 以上の対応を述べたあと、IBMはLinuxをどう扱っていくか、といった点をe-business フレームワークの中にLinuxを当てはめつつ語った。それによると、IBMのLinux戦略の大まかなところは、端的にいうと「ユーザーのプラットフォーム選択肢の1つとしてLinuxを加える」というものだ。つまり、OS/390やAIX、Windows NT(Windows 2000)といったプラットフォームと同様のサポートをするということだ。それにはプログラミング環境やランタイム環境の提供や、セキュリティ、クロスプラットフォームのサポート、アプリケーションの互換性サポートなどがあげられる。Sullivan氏はLinuxを起点として構築したシステムには、2つの成長方法があるという。1つは水平方向への展開で、クラスタ構成をとるなどして成長する場合だ。もう1つは垂直方向への展開で、たとえばPCベースのLinuxから、より高性能なUNIXシステムへのリプレイスなどである。このプラットフォーム移行に関しても、アプリケーションの変更を加える必要がないのがIBMの特徴となる。

IBMのLinux対応製品

 最後にSullivan氏は、IBMがコミュニティに提供したソフトウェアをあげた。JavaのJITコンパイラ「Jikes Compiler」や、「XML Parser for Java」といったものである。さらにLinuxへの対応製品の例として「DB2(β)」、「WebSphere(β)」、「Transarc AFS」、「On Demand Server」、「Domino(英語版は年末リリース)」をあげた。

 Linuxは本物ではあるが、まだ手を加える必要があること、(しかしながら)“現在”顧客の元でLinuxは稼働していること、IBMはオープンソースをサポートし、Linuxについても、ハードウェア、ソフトウェア、サービスでサポートしていくことを語り、Sullivan氏の講演は終わった。

 Linuxがe-businessのフレームワークに組み込まれ、今後IBMの製品のほとんどがLinux上で動作する、という将来が、いよいよ具体化してきたことを実感させる講演であった。

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