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越境型デザイナーのパイオニア・秋葉秀樹さん「求められ続ける」ために大切なこと

2016年12月22日 03時10分更新

文●野本纏花

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PCやデザインソフトの価格が下がり、インターネットにはハウツーがあふれかえっている。デザインを始められる環境がすぐ手に入る時代になったいま、プロのデザイナーとしての存在意義はどこにあるのだろうか。DTP/グラフィックからWeb、Flash、アプリのUIへとフィールドを移しながら長年デザイナーとして第一線を走り続ける、株式会社ツクロア代表取締役の秋葉秀樹さんに、求められるデザイナーであるために大切にしていることを聞いた。

自分の仕事もデザインする

——秋葉さんはどのようにデザイナーの道へ進まれたのでしょうか?

僕は1990年代初頭に、雑誌や新聞、交通などの、広告デザインをしていました。大阪にある小さな代理店でしたので、営業から制作までなんでもやっていました。古いタイプの人たちって、そういう自分でなんでもやる人が多いんじゃないですかね。

会社で「Macintoshっていうコンピューターがあるんだよ」と声をかけられて興味を持ったのがデジタルとの出会いです。当時はインターネットが生まれたばかりで、日本ではまだ普及していませんし、教えてくれる人もいなかったので、自分で調べてやっていくうちにのめり込んでしまいました。きっと、向いていたんでしょう。

それから、Macを使ってデザインをするデザイナーになったというところです。

——ツクロアを起業されてから上京されたのですか?

大阪でフリーランスのデザイナーをしていたら、だんだん東京での仕事が多くなったので、3年前に上京してツクロアを起業しました。僕は九州出身で、もともと大阪にゆかりがあったわけでもなかったこともありました。

ツクロアという名前は「作る」と「伝承(lore)」の造語です。作るだけではなく、ちゃんと伝えるところまで大事にするという意味です。フリーランスのままでもよかったのですが、1人でも会社にしたほうがツクロアのコンセプトが分かりやすいだろうと思い、起業しました。

——ツクロアではどのようにお仕事を進めているのですか?

最近では金融・農業・医療といったジャンルのクライアントと取引があるのですが「発注者からトップダウンで下りてきて、言われた通りに作る」という一般的なスタイルの仕事は一切やっていません。デザイナーの受託仕事は、素材を納品して終わりというケースが多いのですが、それでは、携わったそのビジネスが絶対にうまくいかないと思うからです。

ツクロアの場合、クライアントと一緒にテーブルを囲んで、みんなで問題を共有して、次の課題をどうしようかと議論しながら進めます。少しずつサービスを形にしていく過程から伴走しますね。常に何か改善すべき箇所は出てくるし、やらなければならないことも出てくるので、長期間にわたって、専属で仕事をすることが多いです。

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秋葉秀樹 株式会社ツクロア 代表取締役兼デザイナー、筑波大学非常勤講師。テーマパーク、医療、金融、農業など様々な業種のプロジェクトに直接関わりが多く、サービス改善を目的としたデザインアドバイザーとしても活動。サービスと人との関わりを大切にしながらも、ビジュアルデザイン、プログラミング、音楽、映像やCGなど自ら手を動かしつくることを特技としている。技術も大事だが人と楽しさを重んじるのがモットー。できることは「とりあえずやってみよう」がポリシー

境目が溶けていく時代のデザイナー像

——インターネットがない頃と比べて、今のデザイナーに求められる職能は変わっていると感じますか?

Macを使い始めたころはPhotoshopもIllustratorも解説書すらない時代だったので、何をしても最先端で注目を集めていました。いまは、ツールの使い方はインターネットで簡単に調べられるので、使えて当たり前の時代になってきていますよね。ツールの本質って、スキルを持たない人たちが問題解決をするためにある、ただの道具ですよね。ツールが便利になればなるほど、作ること自体の価値はなくなる。つまり、ツールを使う技術を磨くだけでは、デザイナーの価値を見出せなくなっていくのではないでしょうか。

——秋葉さんはプログラミングもされるそうですが、デザイナーもプログラミングはできたほうがいいと思いますか?

僕自身、特にすごいコードが書けるわけではないのですが、ここはコードを書いておかないと伝わらないということがあります。たとえばWebサービスのマイページのUIにしても、グラフにアニメーションが入るとか、このボタンを押したらタブが切り替わるといったように、画面遷移ではなくインタラクションで表現したいことはたくさんあります。どれくらいのスピードでどんな風に動くといった細かい表現を伝えるには、コードを書くのが手っ取り早いという感覚はあります。

——とはいえ、デザイナーにはコードに対する苦手意識が強い人も多いですよね。秋葉さん自身がコードを書こうと思ったきっかけは?

僕はFlashが好きだったんです。動くのがカッコイイと言われていた時代があって。そのときに「プログラミングができたら、こんなすごいのが作れるんだ」と思ったのがきっかけです。JavaScriptへ移行したときも同じような感じで、最初はドロワーメニューを作り始めて、「次はこういうのも作りたい」と欲を出して勉強していきました。

ただ、僕はみんながみんなコードを書けるようになるべき、と思っているわけではありません。デザイナーがコードを書けた方がいいと思っているのは、あくまでも僕自身のルール。コードを書く代わりにプロトタイピングツールもを使ってもいいし、場面によっていろいろな手法の中から臨機応変に切り替えられるのが一番いい。「いろいろな手法」にコードを書くことも含まれているということです。

たとえば、チラシのデザインやレイアウトを非デザイナーがチャレンジする場合、最初は他人を真似して練習すると5回目くらいには、なんとなくコツが掴めてくるようになるものです。手を動かしたい人はそうやって勉強していけばいいけど、それより大切なのは「自分がどうありたいのか」ということを1人1人がしっかりと自覚しておくことだと思います。

——秋葉さんにとって、デザイナーとは?

最終的なアウトプットとして「誰に何をどう見せるのか」というところに責任を持つ人ですね。そこにたどり着くまでの手段は、人それぞれ。僕はたまたまアプリケーションのUIを作ることが多く、コードを書けるところは書いて、自分で動かしたいところは動かしたい。そうすることでクオリティの高いところを目指せるからです。

とはいえ、最近だんだんといろいろなものの境目がなくなってきていますよね。ソフトウェアとハードウェアとか、デザイナーとエンジニアとか。小学生がRaspberry Piでプログラミングする時代ですからね。僕自身もデザイナーとかエンジニアとか、あまり分けて考えないタイプではあります。

クライアントを満足させようなんて、思わなければいい

——コードを書けることで、逆にクライアントから都合よく使われることはありませんか?

コードでデザインするメリットを理解せずに、ただ工数を安くあげたいと考えている人たちも多くいます。そこはリスキーですけど、結局はクライアントとの関係性の問題じゃないでしょうか。そういう付き合い方をしなければいいんです。デザイナーにしか解決できないことはたくさんあるんだから、堂々と自分たちがやるべきことを主張すればいいと思いますよ。

そもそもクライアントとの付き合いで、クライアントを満足させようだなんて思わなくていい。気に入られようと考える時点で、自らを下に置くことになっちゃいます。目線が違う人間が入ってディスカッションすることが大事なんだから、同等に渡り合えばいい。僕たちはその先にいるユーザーについて、一生懸命考えるだけでいいんじゃないかな。

ユーザーに喜んでもらうことでクライアントのビジネスが成功するのが一番。僕はクライアントのビジネスを、クライアントと一緒に成長させたいという思いは人一倍強いので「僕にできることならなんでもやります」という思いを行動で示しながら少しずつ信頼を得てきました。「簡単にできるならあれもこれもやって」じゃなくて、「そこで生まれた時間を、他の解決すべき問題に使おう」と理解してもらうことが大切です。

——秋葉さんのように自分のやりたいことを追求できるデザイナーになるには、どうすればいいですか?

難しいなぁ。でも、あえて言うなら、組織から出る覚悟を決めることでしょうか。組織にいることは全然悪いことではないのですが「この人にはこの仕事」という感じで特定の仕事しか回ってこなくなることが多いんですよね。勝手なことをさせてもらえる機会がない。残業が多いと勉強する時間も取れなかったりします。それなりのスキルを持っていれば食べていけるはずなので、やりたいことがあるんだったら、覚悟を決めて一歩外へ踏み出しましょう、ということになりますね。

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