周波数オークションの実施とB-CASの廃止を
そもそも論をいえば、放送局の電波利権を守ることを目的にした地デジそのものが間違っているのだが、今さらそれを言っても始まらない。アナログ・デジタル両方がふさがったままになるのは最悪だから、アナログ周波数をなるべくすみやかに空ける対策を考えなければならない。
総務省は2010年度の補正予算で地デジ対策費2兆円を計上する予定だといわれるが、他省庁からは「無原則なバラマキだ」とか「これまでに受信機を買った視聴者に不公平だ」という批判も強い。最大の難問は、この財源をどうするかである。
米国では、FCC(連邦通信委員会)のウェブサイトでコンバーター(変換器)を買う80ドルのクーポンを配布している。4億8000万ドル(約430億円)にのぼる経費は、全て周波数オークションによってまかなう。当コラムでも何度も提言しているように、日本でも周波数オークションを行なえば、財源の問題は一挙に解決する(関連記事)。710~806MHzを5スロットにわけて売却すれば、1兆円以上の財源が出る。それ以外にも470~710MHzのホワイトスペース に200MHz以上空いており、1.5GHz帯にも45MHzあるので、最大4兆円の国庫収入が上がる。
もう一つ地デジの普及を阻害しているのは、B-CASである。特にB-CASカードに内蔵されている「ダビング10」のおかげで、地デジはアナログ放送より不便で、DVDレコーダーの売り上げも落ちている。海外の安いテレビも、B-CAS社の「審査」に阻まれて輸入できない。
おかげで日本の消費者は、割高の液晶テレビを買わされているのである。いま世界のテレビのトップメーカーは韓国のサムスン電子だが、サムスンは昨年、日本から撤退した。B-CASの認可を得られなかったからだと言われている。北米第2位のメーカーVizioの液晶テレビは32インチで499ドルだが、日本では売れない。B-CAS社の認可が下りていないからだ。B-CASが独占禁止法違反の疑いがあるばかりでなく、外国製品を締め出す非関税障壁にもなっているのだ。
これを見直す議論が、総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」で議論が続けられているが、テレビ局の抵抗で議論が進まない。ネット上の世論も、地デジにはきわめて否定的だ。テレビ局や電機メーカーの既得権を守るための制度だと見られているからだ。このイメージを払拭し、競争を促進しないと、地デジそのものが破綻するということに、総務省もテレビ局もそろそろ気づいてはどうだろうか。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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