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「ブラウザー作るのはやめた」アドビCTOが語るAIRの未来

2009年02月13日 19時00分更新

文●チバヒデトシ

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 アドビ システムズが展開する日本における最大のイベント「Adobe MAX Japan 2009」開催に併せ、同社CTOケビン・リンチ氏が来日した。リンチ氏は初日の1月29日、基調講演の壇上に上がり、Adobe FlashやAdobe AIRなどの同社が展開するRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)戦略について説明するとともに、NTTドコモによるケータイ向けAIRアプリケーションの試作品を公開した(関連記事1関連記事2)。

 基調講演後には報道関係者を集め、リンチ氏への合同インタビューが行なわれた。ASCII.jpではAdobe AIRの現状と今後の展開を中心にお話をうかがった。

ケビン・リンチ氏

米アドビ システムズCTO ケビン・リンチ氏

――御社のRIA戦略における要となる「Adobe AIR」の現状についてお聞かせください。併せて、興味深い事例などがあれば教えていただけますか。

リンチ氏 AIRは正式版が出てから1年目。まだまだ時間が経っていません。にもかかわらず、世界でインストールの数が1億回を超えました。また、Flash Player同様、AIRについてもPC以外への展開が進められており、興味深いアプリケーションも出てきています。

 弊社の事例としては、(FLV対応のメディアプレーヤーである)「Adobe Media Player」があります。また、米国ではイーベイが早くからAIRアプリケーション「eBay Desktop」を展開しており、同社のAIRアプリケーションのユーザー数は100万人を超えたと聞いています。Twitterと連動するアプリケーションもあります。「TweetDeck」というものですが、これはTwitter上のメッセージをキーワードで絞り込める便利なものです。ほかにも、たとえばビジネス向けのアプリケーションとしては、NASDAQの取引を秒単位で確認できる「NASDAQ Market Replay」といったものがあります。

リンチ氏が紹介したAIRアプリの一部。左から、「eBay Desktop」「TweetDeck」「NASDAQ Market Replay」

 これ以外にもさまざまなAIRアプリケーションが、「AIR Marketplace」に掲載させています。ぜひそちらもご覧ください。


――では、AIRの今後の開発方針、戦略はどのようにお考えですか?

リンチ氏 基本的な方針としては、どのようなデバイス、どのようなコンピュータ上でもWebアプリケーションを利用しやすく、さらに機能を織り込んでいきます。

 実は以前は、アドビ独自のWebブラウザーを作り、その上で機能強化を図ることも考えていました。しかし、幅広いユーザーへのリーチを考えた時に、それは必ずしも賢明ではない、と判断しました。これまで、ローカルファイルシステムへのアクセスやドラッグ&ドロップなどの機能をAIRで実現してきましたが、今後もブラウザー(レンダリングエンジン)は置き換えることなく、開発者向けの機能を強化していこうと考えています。

 一例としては、USBデバイスとの互換性や、ケータイやPC(のローカル機能)へのアクセスのしやすさを高めていきます。いずれにしてもAIRの開発の方向性には、「いまユーザーがどう使っているのか」「何を期待しているのか」といったことが関わってくるでしょう。

 また、いまもっとも力を入れているのが、ケータイ上で動作するAIRの実現です。特に日本市場では、NTTドコモと協力して展開していきます。

※Adobe AIRは、オープンソースのHTML/XMLレンダリングエンジン「WebKit」を採用している。


――Open Screen Project(OSP)への参加、AIRの展開などでドコモとの協業が目立ちます。他のキャリアとの関係は?

OSP

さまざまなベンダーが参加する「Open Screen Project」に日本からはドコモが名を連ねている

リンチ氏 OSPについてはドコモ以外とも何社かと協業することで検討しています。OSPはオープンなエコシステムです。趣旨に賛同いただけるキャリアとはぜひ協業したいと考えています。そういった意味で、私どもはオープンなのです。

 ドコモとはこれまで長年の関係があります。Flashをケータイで本格的に展開したのは、ドコモが最初のキャリアです。AIRについても、どういうビジョンが構築できるかということでは共通しています。

※ケータイや組み込み機器を含む、さまざまなデバイスでFlash/AIRランタイムの統一を目指すプロジェクト。インテルやシスコシステムズ、ノキアなどさまざまなベンダーが参加している。将来的には、SWF/FLVの使用制限の撤廃、次期モバイルデバイス向けランタイムのライセンス無償化など計画されている。2008年5月に発表された。


――Flash/AIRをさまざまなデバイスに対応させるという事ですが、iPhoneは?

リンチ氏 iPhone向けのFlash Playerはすでに手がけ始めています。iPhoneに関連したリクエストでは、Flash対応がナンバーワンだとも聞いていますので(笑)。

 まだ技術的な手直しが若干残っていますが、現在開発を進めています。ただ、Flash Playerの配布にはアップルの承認も必要です。iPhoneは誰もがソフトウェアを展開できる、完全にオープンなものではありません。しかし、Flash PlayerがiPhoneに入っていく日は近いのではないかと期待しています。

 最後には誰もが聞きたくても、でも結論は分かっているiPhoneについての質問も、ほとんど我慢できずに、という感じで飛び出たわけだが、予想通り(期待はずれ?)の回答となった。なお、MAX会場において、同社に近い筋から「ジョブス氏のサインさえあれば、数時間後には使えるようになるはず」と耳にしたことも加えておきたい。

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