グローバルR&D
一方で、パナソニックは、研究開発部門において、「グローバルR&D」を標榜している。
これは、言い換えれば、従来の仕組みを破壊し、新たな仕組みを創造するという、中村邦夫会長が社長時代に推進した「破壊と創造」を、研究開発部門に持ち込んだ成果ともいえる。
研究開発分野に変革のメスが入ったのは、2003年のことだ。
従来の研究開発体制は、日本の研究所が中心となり、海外の研究所はそれを補完する関係にあった。いわば、日本のビッグパナソニック研究所に対して、海外に多数のミニパナソニック研究所が存在するという仕組みだったのだ。
だが、パナソニックでは、長年に渡るその体制を破壊し、グローバルR&Dの考え方を持ち込んだ。技術領域ごとに、その技術を得意とする研究所があれば、世界中のどの研究所がハブになってもいいという仕組みを導入したのである。世界的な競争視点のなかで、最適な研究所が先頭に立って開発を行なう体制とし、それにあわせて、不要な研究所は削減した。
「Aという技術に関して、日本よりも海外の研究レベルの方が優れていたら海外をハブにする。ただし、Aという技術がなくなったら、その技術をやっていた研究所は潰す。一方で、新たな研究所が必要であれば新たに作る。米国で2カ所、英国、台湾でも研究所を閉鎖した。また、知財に関する買収に伴い、新たな研究所を2つ作った。いまや、総花的にやるような中央集権型の研究所や、同じ研究を別々の研究所で行なうという前時代的な研究所は、パナニックにはない」
グローバルR&D化は、技術者のモチベーションにも大きな変化をもたらした。
「最大の効果はスピードが上がったこと。また、他の研究所に自分たちの技術を取られまいとする内向きの不要な競争がなくなった。そして、目が外に向き始め、グローバルベンチマークのなかで危機感を持ち、研究開発に取り組む姿勢が見られ始めた」
デジタルテレビの研究開発であれば、ソニーやシャープ、サムスン、LG電子とのベンチマーク、携帯電話ならば、ノキアやモトローラとどう戦うかを考える。
では、パナソニックへの社名統一、パナソニックとナショナルのブランド統合の成果は、技術部門においてはどんな変化をもたらしているのだろうか。
「パナソニックは、これまでにも家まるごと提案を行なってきた。それが、社名とブランドをパナソニックに統一したことで、『最後のとどめを刺した』といえる。目に見える成果だけに留まらず、目に見えない効果も出ているはずだ」
目に見える成果のひとつは、それぞれの商品がネットワークで接続されるということだろう。パナソニックが描く3~5年後の世界では、ワイヤレス化されたデジタルAV機器と、テレビの視聴環境などにあわせて変化する照明制御、また、視聴環境に適したエアコンによる空質制御などが行なわれるようになる。さらに、ジョーバや対組成計をはじめとするパナソニックの健康機器と、薄型テレビ「VIERA」を接続して、健康状況を管理するといったことも可能になる。
ホームネットワーク化により、単品ごとに管理するよりも、効率的な制御も可能になるといえよう。
当然、白物家電の開発スピードの向上にも寄与することになるだろう。
見えないところでは、省エネ技術の相互利用といったものがある。白物家電の省エネ技術の進展は多くの人が理解しているが、その一方で、実は薄型テレビの省エネ技術の進化には目覚ましいものがある。また、携帯電話の待ち受け時間の消費電力制御技術も、炊飯器などの白物家電へ応用することは可能だ。これらの技術を相互の商品で利用しあうことで、環境配慮型商品の創出が可能になるのだ。
「これまではナショナルはナショナル、パナソニックはパナソニックという考え方があったのは事実。だが、社名変更の発表以降、お互いの技術をお互いに使っていくという連携が出てきた。社名変更は大英断。むしろこれからは、この大英断が正解だったという成果を早く出していく責任が我々にはある」
この成果はまだ我々の目の前には顕在化していない。どんな形でこれが現実のものになっていくのか興味深い。
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