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世界企業パナソニック 90年目の決断 第19回

日本企業は世界でどう戦うべきか?

パナソニックが技術で魅せる「総合力」

2009年02月12日 12時00分更新

文● 大河原克行

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アプリケーションを強く意識した技術開発

 もうひとつ、古池副社長がこだわっているのが、具体的なアプリケーションを強く意識した技術開発である。

 「研究所のなかには、全世界の人間が利用できる技術を開発する、と宣言しているところがある。だが、これは私に言わせれば、なにもしないと言っているのと同義語。技術者には、具体的な対象人物、対象用途を描いてもらい、まずは一部の人たちを幸せにする技術を開発する。具体的な利用シーンを想定できないと、これだけ高速に技術が回転する時代には成果が出ない。デジタル時代は、よりマーケットオリエンテッド、アプリケーションオリエンテッドの技術開発が求められている」

 古池副社長には、半導体社社長時代に、DRAM事業の撤退とシステムLSI事業への集中という判断を下した。この時の決断が、現在のUniPhierにつながっている。

2006年から薄型テレビに搭載されたUniPhier

 その際、セット部門から優秀な人材を、半導体社に異動させるという人事を敢行した。これもアプリケーションを知る人材を取り入れることで、市場に合致したシステムLSIの開発、セット部門と壁をなくした商品開発へつなげるための仕掛けだった。この考え方は、デジタル時代が本格化したいまでも普遍だといえる。

 アプリケーションの考え方は、10年先にまで及ぶ。「10年先の利用シーンを描いて、基礎研究をやるならばいい。だが、10年後はわからないが、これをやっておいた方がいいという提案は認めない。これは技術者の自己満足でしかない。そういう考え方をする技術者は、パナソニックの研究所にはいらない」

 もちろん、10年後のシーンは描きにくい。

 「10年後に描いたものが出てこない可能性もある。だが、確率を評価するのではなく、早い段階で打ち切ることができるマネジメントを導入することが大切」

 研究開発に取り組んだ技術が生き残った確率は、楽観的に見て3割だ、と古池副社長は語る。

 「7割は消えていく技術。3割の勝率はいい線だといえる。むしろ、これからはもっと確率が悪くなり、5割打者を作ることはありえない。3割を切ってもいいから、トライする。その一方で、一回決めたから必ずやり遂げるというのではなく、3年経って方向感が変わり、駄目となったものは止めるという、合理的に決定するための基準を作る。デジタル時代の開発体制に必要なのは、なにをするかではなくて、なにをするかを決めたあとに、なにを止めるかというマネジメント。これが重要」

 ただ、自前主義にこだわり続けるわけではない。

 アライアンスによる外部からの調達という選択もあるし、M&Aによる技術戦略もいとわない。さらに、先頃、半導体超微細化プロセスの共同開発をはじめとする4分野の研究において、ナノエレクトロニクス研究開発コンソーシアムのIMEC(本部ベルギー)との包括共同研究契約を結んだように、オープンイノベーションの活用も行なっていく姿勢を示す。

次ページ「グローバルR&D」に続く

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