これってエンタメ部門? さわって楽しいアート部門
最後にアート部門を見て回ったのだが、エンターテインメント部門と見分けがつかない作品が多く、メディア芸術祭らしさが出たラインナップとなった。
それを最も象徴するのが、大賞の「Oups!」(マルシオ アンブロージオ)。スクリーンに向かって立つと自分の姿が映し出され、そこにユーモラスなグラフィックが現れる。ギターを弾いたり、スーパーマンになって空を飛んだり、ダンディな映画スターになったり。コンテンツに誘われて思わずポーズを取ったり、動いたりしてしまう、なんとも楽しい作品だ。大騒ぎのハマり具合はエンタメ作品以上。特にベストチョイスに選んだ飯田さんはたっぷり楽しんでご満悦の様子だった。
原さんがベストチョイスに選んだのは、独特の空気感と緊張感の漂う写真作品の優勝賞「OUTSIDE」(アレキサンダー メンデレヴィッチ)。「朝、起きたばかりの僕はこんな感じです」と作品と同じポーズを取ってくれた。
いしいさんのベストチョイスは推薦作品「Flow 5.0」(ダーン ローズガールデ)。近寄ったり触れたりするとセンサーが働いて無数のプロペラが回り出す空間インスタレーションだ。
そして林さんの選ぶベストチョイスは、友人でもあるドミニク チェンが参加している推薦作品の「タイプトレース道~舞城王太郎之巻」(遠藤卓巳/ ドミニク チェン / 舞城王太郎)。タイピングのプロセスをソフトウェアに記憶させ、無人のキーボードが執筆時の動きを再現するというインスタレーション。「(舞城王太郎さんを)応援しているので、ぜひ、これを」とのことだった。
ちなみに筆者のベストチョイスは、マンガ部門が林さんと同じ「宗像教授異考録」。宗像教授は現代版柳田國男? この作品をまったく知らなかった事が残念。これはぜひ読んでみたい。
アニメーション部門は優秀賞の「カイバ」(湯浅政明)。昔懐かしい「宇宙少年ソラン」や「遊星少年パピイ」を思い起こさせるようなキャラクターのタッチがいい感じだ。ぜひ、全編を鑑賞したい。
エンターテインメント部門は「TENORI-ON」。これは音楽の世界に革命を起こすかも知れません。世界のミュージシャン、アーティストに影響を与えて、来年のいまごろは世界中のライブでTENORI-ONが活躍している、カモです。
アート部門は優秀賞の「touched echo」(マークス キソン)をベストチョイスしたい。現在のドレスデンを見下ろす場所で、第二次世界大戦当時の無差別爆撃を追体験できるという作品だ。昨年のアート部門の大賞が広島の原爆ドームをテーマにした「nijuman no borei」だったので、今年も戦争がテーマの作品が大賞を取るのを避けたのでは、と思うほどの存在感を感じた。最新技術である骨伝導を使った点もメディアアートの作品として◎。
「美術館に行く」と言うと「大勢で行ってワイワイやるなんてマナー違反」なのだが、メディア芸術祭はむしろそんな楽しみ方がぴったりくる。友人や家族と一緒に行って、難しい事を考えずに楽しんでみてはいかがだろう。ただ、あまりはしゃぎすぎてしまわないように。
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