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池田信夫の「サイバーリバタリアン」第51回

Windows 7が示すコンピュータの歴史的転換

2009年01月21日 06時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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サービスとインフラに二極化するIT産業


 企業の情報サービスにも、大きな変化が起きている。グーグルやアマゾンが外部にサーバーのインフラを貸すクラウド・コンピューティングによって、企業が情報サービスを行なうために自前のインフラを持つ意味はなくなった。

 先日ある大企業が、グループ内のサーバーを統合する作業を行なった。情報システム部門の見積もりでは、運用コストは月数百万円だったが、コンサルタントはアマゾンの「Amazon EC2」を使ったシステム構築を提案した。これは米国にあるアマゾンのサーバーを外部ユーザーが使えるサービスで、コストはなんと月2万円。システム部門は「信頼性がない」とか「米国にサーバーを置くのは危ない」などと反対したが、性能はほとんど変わらないので、社長の判断でサービスはEC2に移行することになった。

 私も来週、ウェブ上で専門家が意見を発表するためのサイトを開設する。当初は会社を設立してサーバーを立ち上げるつもりだったが、ライブドアから「当社の始める複数アカウント・サービスを使ってはどうか」という提案があった。その料金は月わずか260円。形はブログ・サービスだが、中身は大容量のウェブ・ホスティングである。

 不況によって広告費が激減し、大手メディアは赤字に苦しんでいるが、ネット企業は健闘している。楽天の営業利益は36%伸び、「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エーは63%、カカクコムは193%も伸びた(2008年度中間決算)。ネット企業の年間売り上げは数十億円だが、インフラも外部のホスティングを使っているため、需要が減ったら借りるサーバーを減らせばよく、不況に強いのだ。

 従来型のIT企業では、インフラが大きな固定費になると同時に、その資金調達が参入障壁になって先行者利益が維持できた。しかしクラウドという低コストの破壊的イノベーションによって、情報サービスでは、小規模なローコスト企業の利益率が大企業をしのぐようになった。

 他方インフラは、数十万台のサーバーを全世界に最適配置する巨大企業でなければ競争できない。日本でもクラウドを売り物にするIT企業が増えているが、電気代や人件費の高い国内にサーバーを置いたのでは、IBMやグーグルに勝てるはずがない。クラウド・コンピューティングは、全世界で数社に集約されるだろう。

 日本の製造業は、携帯電話から自動車に至るまで、高機能・高価格の持続的イノベーションによって収益を確保してきたが、そういう市場は今回の世界不況で崩壊した。今後のIT産業は、個々のユーザーに最適化したサービスを無料で提供する小企業と、グローバルにインフラを保有してローコストで提供する巨大企業に二極化するだろう。それはあまり目立たないが、売り上げ増からコスト削減へというコンピュータの歴史が始まって以来の転換である。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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