異なる組織間でのファイルのやり取りは古くからメールへの添付という形で行なわれてきた。しかし、潜在的に管理の煩雑さやセキュリティなど、大きな問題を抱えている。そんな中、注目を集めているファイル転送サービスについて見ていこう。
ブロードバンド化してもファイル転送は難しい?
ビジネスツールとしてメールが普及した理由の背景の1つには、ファイル添付の機能があるためだ。相手のメールアドレスだけ知っていれば、ドラッグ&ドロップで簡単にファイルを送ることができる。
しかし、メールを使ったファイルのやりとりは、セキュリティ面での脅威がある。ウイルスやスパムメール、フィッシングなどメールを媒体とする脅威も多いし、情報漏えいを起こす可能性も高い。また、大容量のデータを送る場合は、人数ぶんのメールで帯域を消費するほか、転送量の制限で相手に届かないことすらある。
かといって、代替手段は多くない。ファイル転送を目的とするFTPは、専用のクライアントが必要なほか、ファイアウォールにブロックされる可能性がある。また、VPNではネットワークの両端や通信相手のPCにおいて、機器等を導入する手間とコストがかかる。こうした中、安全・確実にファイルをやりとりできるASP 型の「ファイル転送サービス」に注目が集まっている。
無料サービスから高品質な有料サービスまで
ファイル転送サービスは、ユーザー間で直接ファイルをやりとりするのではなく、ASP 業者にファイルをいったん預けて、送り手側にダウンロードしてもらうサービスだ。ASP 業者にファイルを預かってもらうという意味では、オンラインストレージとも用途は似ている。さっそく各社のサービスにいて見ていこう。
●宅ふぁいる便こうしたファイル転送サービスのはしりは、ご存じ「宅ふぁいる便」であろう。メールでは送れない巨大なファイルを相手に無料で確実に届ける手段として、多くのユーザーを得た。現在は大阪ガスの関連会社であるエルネットが運営しており、最大100MBまでのファイル転送が可能だ。
●ファイルバンクオンラインストレージ系であれば、最大100GBまでの容量を持てる「ファイルバンク」も有名だ。14日間以内であれば無料でファイルを保管でき、長期的に利用する場合は容量に応じた有料プランに加入するというサービス形態。「特急パス」という機能があり、これを使うと容量に応じて、高速なダウンロードが実現する。そして、「ゲストフォルダ」という機能を使うと、非会員も含め、複数のユーザーとフォルダを共有できる。前述した特急パスも利用できるので、取引先に高速ダウンロードしてもらうことも可能だ。
●NTTコミュニケーションズ「VPNストレージ」セキュリティを重視するのであれば、そもそもインターネットを使わないサービスもある。NTTコミュニケーションズの「Group-VPN」のオプションとして提供されている「VPNストレージ」は、VPNサービス上で提供されているファイルサーバ。インターネットを経由しないので、安全なファイル転送が容易に実現される。また、アンチウイルスやアクセス制限、ログ管理、3日間分のバックアップなどの機能も提供されているので、業務でも安心して使える。
●インフォテリア・オンライン「OnTranq」最新のサービスとしては、インフォテリア・オンラインの「OnTranq」が挙げられる。OnTranqでは、Webブラウザではなく、メールソフトに近い専用クライアントを用いて、ファイルの送受信や暗号化、デジタル署名の添付などを行なう。クライアントをインストールすると、インターネット上には、インフォテリア・オンラインのデータセンター上にファイルの一時的な置き場所である「トランク」が生成される。そのため、もし相手側でクライアントが起動していなくても、トランクに一時的に保存される。他のアプリケーションとの連携や定型処理の自動化も、「設定」メニューから行なえる。送受信のステータスを見たり、相手が閲覧しない限りは転送を取り消すことも可能だ。本格的な業務利用を前提としていることもあり、セキュリティも高い。
サービス選びのポイントは、まず用途。一時的なやりとりなのか、特定の相手との定期的なやりとりなのかによって、保存期間や容量が異なる。また、ファイルの数が多いのであれば、ツールの使い勝手も気になるだろう。多くのサービスで試用が可能なので、試したうえで本稼働に移りたい。